6月6日台北3日目は昼過ぎまで故宮博物院で過ごし、地下鉄の最寄り駅・士林まで戻りました。
同行のSさんが、初日の雨の夜歩きでスニーカーの下敷きを剥がしてしまったため、安くていいからサンダルを買いたいと行って、士林駅近くの市場を物色。車一台通れば目一杯という狭いアーケード街で、日本の感覚なら車両進入禁止にするのに、人が通ろうと店の前にモノが出っ張ってようと、平気で乗用車や軽トラが入ってきます。…こっちの道路規制の基準ってどーなってんの!?と私もSさんも目がテンです。
いろいろ探してやっとお眼鏡にかなったサンダル(300元=約1000円)をゲットしたSさん。その場で履き替えて、駅方面へ戻りかけたとき、左足のサンダルの飾りがなくなっているのに気づき、ビックリ! すぐさま来た道を戻ろうとしたものの、道幅一杯に渋滞している車両に前進を阻まれ、大弱り。車の隙間を縫って、必死に地面に眼を這わせ、サンダルを買った露天商の店の手前で運よく見つけました。「履いてすぐに取れたんだ…」と呆れ顔のSさん。これがちゃんとした靴専門店の、それなりの値段のものならアタマに来るけど、露天商の1000円サンダルじゃ怒るわけにもいかないか(苦笑)。
気を取り直したSさんは、「時間があるから淡水から九份(チョウフン)まで行ってみようか」と言い、地下鉄で台北駅とは反対方向の終点駅・淡水まで移動しました。
淡水は台湾島の北西にある港町で、淡水河の河口一帯は台湾のヴェニスといわれる夕陽のメッカ。人気のデートコースなんだそうです。九份(右写真)は台湾島の北東にある古い街で、名作『非情都市』の舞台で知られています。日本では宮崎駿の『千と千尋の神隠し』のモチーフの街として有名です。
九份には、台北から内陸部を高速バスで行くのが定番のようですが、淡水からも基隆を経由し、バスで行けるようなので、とりあえず基隆行きの路線バスに乗った私たち。時間を見たら15時30分でした。
路線バスなんだから終点までせいぜい30~40分ぐらいだろうと思っていたら、ちっとも目的地まで着きません。どうやら路線バスは、台湾島の北西部から陽明山国家公園を経て先端をグルッと回るコースのようで、海岸線を延々と進んでいきました。
しかも台湾の路線バス、乗ったことがある人はおわかりかと思いますが、すんごい飛ばすんですね、スピード。座席がツルツルのカバーなので、どこかにしがみついていないと、座っていても転びそうになるぐらい。お年寄りが乗っていようと、子どもたちが集団で乗っていようとお構いなしにぶっ飛ばします。ちっとも基隆に着かないのと、ジェットコースター並みの運転に、初めの30分ぐらいは気分が凹みっぱなしでした…。
やっと台湾バスのスピードに慣れ、徐々に日が暮れていく美しい海岸線や、近くに人家がなさそうな山合いのバス停からも、おばあちゃんや幼い兄弟が乗り降りするのを眺めていたら、テレビの旅番組でやっているような「路線バス人情旅」気分に。若い男の子や女の子がわんさと乗って、わんさと降りたと思ったら、海水浴場があったんです。「ああそうか、もうこっちは日本の真夏の気候なんだ」と初めて気がついたりして…。
基隆に着いたのは17時30分。そこから九份行きのバス乗り場をうろうろ探して、見つけたはいいがプリペードカードeasy cardが使えず運賃が分からず運転手にガンつけられ、その様子を見ていた乗客の女の子2人組が中国語と身振り手振りで「私たちも九份に行くから」と声をかけてくれたりして、18時過ぎにやっと九份に到着。淡水からはかれこれ3時間以上かかってしまいました。
でもこの時間に到着してラッキーでした。夕暮れの九份は、まさに『千と千尋の~』の舞台のように、狭い路地や石段に赤ちょうちんが灯り、ノスタルジック気分満点!
清朝末期の1890年、金鉱の発見でゴールドラッシュに沸き、金の採掘で賑わったこの街は、土地の不便さにもかかわらず、当時はまだ珍しい映画館まであった一大歓楽街だったそうで す。
石畳の小道の両側には土産物店や食堂が軒を連ね、長い石段の坂道には戦前の洋風館や古民家をリユースしたレトロな茶芸館。私は九份で一番古いとされる茶芸館『九份茶房』を訪ね、高山育ちの風味の良い台湾烏龍茶のテイスティングを楽しみました。スイーツに目がないSさんは、私がお茶を飲んでいる間、通りの甘味処でフルーツかき氷をしっかり腹に納めていました。
石段の坂道を下りたところにオシャレな洋館があって、私が写真を撮っていると、Sさんが「ここ、台北ナビに載っていたフルーツティーがおいしい喫茶店だ!」と目を輝かせます。『黄金之郷』というその店は、窓から海岸沿いの夜景が楽しめる絶好のビューポイント。Sさんはお目当てのフルーツティーを、私はブルーマウンテンが120元(400円弱)で飲めるとあってついオーダーしてしまいました。めったに注文がないのかコーヒー豆がかなり古くなっていた感じでしたが(苦笑)、夜景の素晴らしさが帳消しにしてくれました。
帰りは台北行きの直行バスに乗ろうと、バス停探しにうろうろし、運よく来たバスに、バス停じゃないのに手を挙げてタクシーみたいに乗せてもらって、約1時間で台北市内に戻ってきました。
時間を見たら21時過ぎ。さすがにクタクタで、夜市に出かける気力がわかず、いったんホテルへ戻り、近場の食堂で「魚丸汁」をすすりました。前夜、士林夜市で覚えた魚丸汁、夜市のほうがおいしかったけど、1杯40元(130円)で十分に満足できました。
Sさんは、「台北最後の夜だから、心残りのないよう、もう1回マッサージしにいく!」と元気ノリノリです。疲労とバス酔いが抜けない私は、全身を揉まれて途中で気分が悪くなったら困るなと思いつつ、頭髪シャンプーと足裏マッサージだけならいいかと、前夜とは違う、今回のツアーガイドが紹介してくれた店に行くことに。もちろんホテルまで無料送迎してくれました。
着いた店は、一見、ちょっと豪華なカラオケハウスのような作り。「ねぇねぇ、この店、カラオケハウスのなれの果てじゃない?」とSさんに耳打ちしていたら、呼ばれて通された部屋が、まさにカラオケボックス! ちゃんとテレビモニターとアンプまで残っていました(笑)。
この店はまず全身コースを頼み、その上でオプションを付けるという方法だったため、やむをえず全身マッサージをしてもらうことに。マッサージ担当のおばさんと足裏担当のおじさんがテキパキと施術し始め、「気持ち悪くなるかも…」なんて言え出せない雰囲気。大丈夫かなぁと不安になっていたら、うつぶせにさせられ、おばさんが背中や腰の上に乗って、つま先やかかとでグリグリをやり始めます。「うわっ、ふんずけられている!」とギョッとしました。なにせ他人に全身を足で踏まれるなんて生まれて初めての体験ですから(苦笑)。
ところが終わってみると、これがすっきり、不安がウソのように気分爽快です。同じマッサージを受けていたSさんは「足で踏まれていたらツボに入っちゃって…」と笑いをこらえるのに必死の様子。とことん明るい人だなぁと感心しました。
翌7日、ツアー参加者とマッサージ談義をしたときは「台湾マッサージは一見過激だけど、絶対にツボは外さない。もみ返しみたいの、ないでしょう?」と言われ、そういえば首~肩~背中~腰にかけて、鉄の板が張り付いていたような重だるさがなくなったような…。
7日は朝7時30分にホテルを出発し、免税店に立ち寄った後、空港へ。11時20分発の中華航空7532便で帰路につき、15時20分に静岡空港へ戻ってきました。
マッサージばかりしていたのと、空港と自宅の往復が車だったせいで、この4日間は本当に海外に行って来たのかと不思議に思えるぐらい、疲れが残らない旅でした。
疲れなかった理由はほかに、台北では日本語もある程度通じること、食事が日本人の口に合うこと、食事と交通費(バス、タクシー、地下鉄)がめちゃくちゃ安かったことなども挙げられますが、一番印象に残ったのは、台北の人が本当に親切だったこと。道を訪ねればちゃんと教えてくれるし、言葉が通じなくても一生懸命説明してくれました。
言葉と言えば、台湾でこれほど日本語が通じるとは思いませんでした。日本人相手の客商売をしているからと言っちゃえば、身も蓋もありませんが、通行人に道を聞いたときも、「ニホンゴ、ワカリマス」という若者がけっこういました。年配の、日本の植民地時代の生活経験のある方ならまだしも、フツウの若者が日本の言葉やカルチャーを自然に受け入れていることがよく解りました。
日本人が外国語をこれほど自然に操って、外国人ゲストにホスピタリティを与えられるだろうか、と考えさせられます。ややもすると、異なる言語、異なる習慣の人にひるんでしまい、慣れるまで時間がかかる日本人…。外国に支配された経験がなく、外国語が生活に浸透することもなかった私たちと、日本や西欧列強の支配を受けてきた台湾の人々の背景の違い、と理解すればいいのでしょうか。
私は、京都や奈良や、日本酒造りといった、日本らしさを体現する場所やモノを愛好し、日本人とは何かを考え続けてきましたが、それを、ただ自己消化して終わるのではなく、外に伝える努力、理解してもらう努力が必要なんだと、台湾の人々を見て実感しました。
今月発行の静岡県広報誌MYしずおか最新号の県観光政策特集で、通訳案内士の資格を持つ中国人の方を取材したのですが、その人が「観光で来日した外国人に日本のどこがよかったかをアンケート調査したら、京都や富士山ではなく、“日本人”という答えがナンバーワンだった」と教えてくれました。日本人は親切で清潔で、(とくに中国や韓国の人は)今まで持っていた日本人のイメージが変わったと。
観光って、やっぱりそれが原点なんだって、今回の旅で身を以って確認できた気がします。
充実した旅だったみたいですね。
真弓さんの文章の巧みさに、どのガイドブックよりも情景が浮かび、
さっそく行ってみたくなりました。
リフレッシュしたSさんの感想も聞いてみたいです。
台湾の方たち、本当に親切で温かいですよね。ツアーガイドや淡水で知り合ったおばあさんとお話しさせていただきましたが皆さん、「ほんとに日本が大好き!」っておっしゃっていました。若い人も、日本に憧れていていつかは日本に行ってみたい!台湾の若者はみんな日本に大変な憧れを抱いている、と言っていましたね。 もし台湾と静岡空港の定期便ができたら、私たちは日本の代表として台湾の人々をもてなさなきゃいけないな~…なんて考えちゃいました。
台北日記読ませていただきました!素晴らしい記事で、大感激!
いつか、お会いしたいですね!旅行の話で盛り上がりたいし!
あっ、余談ですが、私が行ったシャンプーやさんは、150元でしたよ~。とにかく気持ちよかったです。また行きたいです。
たしかに、台湾の方は親切でした。マッサージやさんを探していて、
道を若いお兄さんに尋ねたら、片言の日本語と英語でしたが親切にお店まで案内してくれました。
私も、真弓さんの記事を読んで、静岡に来る外国人を助けられるのだろうかと考えさせれました。
我が家から成田空港まで片道1万円弱、約4時間。
成田から台北まで3時間ちょっと。
自宅から自分の車で30分の静岡空港から行ければすごく近くなります。
毎日便でなくても良いのでぜひ定期便就航してもらいたいです。