昨日(7日)は、『第11回静岡県地酒まつり IN TOKYO』が東京一ツ橋・如水会館で行われました。静岡県酒造組合静酉会(若手経営者の会)が1998年から開催する、首都圏の静岡酒ファンや取引先関係者に向けた試飲イベント。単独の県が、東京で11年も続けて試飲イベントを行っている例はほかになく、しかも年々参加者は増え、チケットが発売開始30分足らずで売り切れてしまうという状況。首都圏での静岡酒の人気ぶりを内外に広く印象付けています。
98年の第1回目は、静岡県の補助もあって、恵比寿のウェスティンホテル東京の小宴会場で行いました。平日午後の開催で、参加者は100名ちょっと。参加した蔵元も、静酉会会員のうち12社のみ。こじんまりとした試飲会でした。私は静酉会会長(当時)の初亀・橋本謹嗣さんのご厚意で、発刊したばかりの静岡新聞社刊『地酒をもう一杯』をブース販売させてもらいました。しずおか地酒研究会の会員情報を網羅したガイドブックで、東京の人にはあまり参考にならなかったと思いますが、宣伝の場を与えられ、静岡新聞の平野斗紀子さんともども、大いに感激し、奮起したことを覚えています。
翌年は、同じウェスティンホテルの大宴会場で200名を集め、着席パーティースタイルで大々的に行いました。このときから私は司会役でお手伝いすることになり、作家の村松友視さんはじめ、首都圏で活躍するジャーナリストの方々などもご招待。静岡の蔵元がここまでやれるのか、と大いに注目を集めました。企画・運営すべて、業者を使わず、自分たちで行ったのです。
県の補助がつかなくなった4年目から、日本酒造組合中央会推薦の如水会館で行うようになりました。2つある宴会場のうち、最初は1つだけ使って立食スタイルで行いましたが、次第に参加蔵が増え、宴会場2つ借り切って開催するようになり、400枚のチケットもあっという間に売り切れるように。
10周年の昨年は、いつもチケットが買えずにご迷惑をおかけしているファンが心おきなく楽しめるよう、思い切って東京国際フォーラムの展示場で1300人を集め、盛大に行いました。この規模の試飲イベントとなると、素人のオペレーションではとても対応できないと思われましたが、望月正隆会長(正雪)や、清信一実行委員長(富士錦)の丁寧な運営手腕が奏功し、静酉会メンバーだけで見事成功させました。
今年の如水会館、昨年のファンの底辺拡大を受け、2つの宴会場プラスロビーにも試飲ブースを設け、700人を迎えました。会場が3ヶ所に分かれてしまったため、多少の混乱はありましたが、各ブースでは、早々に品切れを起こすなど大盛況。
実行委員長の望月祐裕さん(英君)のブースが、一番早く品切れしてしまって、「面目ない」「去年の東京国際フォーラムと同じ量を持ってきたのに、何で今年はこんなに早く品切れしちゃうんだろう」と焦りまくっていました。1300人でも広い会場でゆったり試飲するのに比べ、いつもは400人の会場に700人入って、すし詰めで試飲するのでは、お客さんにしてみたら、「早く飲まないとなくなっちゃう」といった感覚になるのかもしれません。人気蔵のブースはホントに黒山の人だかりでしたから…!
『吟醸王国しずおか』のカメラマン成岡さんに、会場の風景を撮影してもらい、何人かにインタビューを、と考えていたのですが、人の多さとオペレーションの混乱で司会席から動けず、それどころではありません。去年の東京フォーラムのほうが、会場としては画になったかもしれません。それでも、すし詰め状態でブースに殺到する人々を観ていたら、「こっちのほうが、静岡酒の人気ぶりを語る画になるな」と思い始めました。たぶん、成岡さんも、なんともいえないその熱気を、カメラに収めてくれたと思います(まだチェックしてないのでわかりませんが)。
先日、公開したパイロット版は、冒頭、鑑評会の審査風景からスタートし、エンディングは6月の志太平野美酒物語で試飲を楽しむ人々の笑顔で締め、「その価値を知る人々が支える、真の王国になった」というフレーズで終わっていますが、「真の王国になった」という意味が、いまいちわからないという感想がいくつか寄せられ、反省点にせねばと思っているところ。
「真の王国」というのは、静岡吟醸の名声が、最初はコンテストの審査員が認めて評価したことから始まったが、今は、身銭を払って飲んでくれる市井の人々が認め、支えているんだ、という意味を込めたつもりなんです。もちろん数字的な裏付けもあって、昨年のデータでは、全国の都道府県で、酒の出荷量が前年比プラスになった県の上位5位に位置しています。
吟醸のような特定名称酒を8割も作っている県が、前年比プラス成長しているだけでもスゴイこと。パイロット版ではそこまで丁寧に説明はしませんでしたが、「市井の人々が支えている真の王国」というメッセージは、東京での11年を見守り続けてきた私の、偽らざる実感であり、今回も、そのメッセージが間違っていないことをしっかりと確認できました。
最後に、少し長くなりますが、1998年10月の毎日新聞朝刊連載『しずおか酒と人』での拙文を再掲します。 私が言うのもおこがましいですが、東京の静岡酒ファンのみなさん、本当にありがとうございます。これからもどうかどうか末長く、静岡酒をご愛顧くださいませ!
東京市場で試みた「対話」 文・鈴木真弓 (毎日新聞「しずおか酒と人」98年10月22日朝刊掲載)
静岡人はよく、豊かさを自覚せず、アピールせず、競い合うこともしないと言われます。以前、大規模見本市展示場の活法促進を考える委員会に書記として参加したときも、静岡には多くのジャンルでハイレベルな特産品があり、一部で高く評価されているにもかかわらず、広く一般には知られていない、或いは一般向けに広報する努力をあまりしないという印象を受けました。酒の世界も同様で、なぜそんなに鷹揚に構えていられるのか不思議でした。今は実際、売るための努力をしなければモノだってなかなか売れない時代です。消費者のほうもモノ情報が多すぎて明確な自己基準が持てません。私は自分の経験から、本当にいい買い物は「対話」の中から生まれると考えています。造っている人が消費者に直接語りかける。これに勝る広報活動はないと思うのです。
今月19日、東京・恵比寿のウエスティンホテル東京で、静岡県酒造組合静酉会(若手経営者の会)の会員12醸―高砂・富士錦・正雪・初亀・磯自慢・杉錦・士魂・喜久醉・開運・千寿・出世城・花の舞が、地酒フェアを開きました。県酒造組合が首都圏でイベントを開催するのは10年ぶり。今回は静岡県東京事務所が県産品振興策の一環として呼びかけて急きょ実現したもので、告知期間はひと月足らず。平日の午後という時間帯でしたが、首都圏の静岡酒ファンや酒販業者約100人が来場。秋本番、旨味の増した名酒の数々を堪能しました。
プロの商人や評論家はそれなりに厳しく吟味していたようですが、会社を休んでまで来たという一般消費者の中には「新潟の酒はただ飲みやすいが、静岡の酒は飲みやすくて旨味もある」「こんなにレベルの高い酒を一度に味わえるなんて幸せ」という人や、「本当にいい酒が解る奴なら、静岡の酒は見逃さない」と自画自賛する人も。12醸というコンパクトな数が功を奏したのか、首都圏では馴染みの薄い銘柄にも分け隔てなく人が集まり、あちこちで対話の輪が広がっていました。
東京は市場が大きいというだけでなく、情報過多の波をくぐり抜けて明確な自己基準を持つ売り手・飲み手がいて、眼(舌)の肥えた彼らの声は造り手に刺激を与えます。「対話」の中から造り手が得るものも大きいように感じました。
大市場に乗り込んでアピールし、味を競い合った12醸の蔵元。若い世代が静岡人の保守性の壁をどんなふうに突き崩すのか楽しみです。