杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

雨の日の伊東温泉

2009-07-25 14:35:21 | 地酒

 23日(木)は、初亀の橋本守会長の葬儀がふじえだ平安会館で執り行われました。駐車場が足りなくなるだろうと思って、早めに行く準備をしていたのに、いざ、喪服(ワンピース)を着ようとしたら背中のチャックが上がらない!! 春、松井妙子先生のお母様のお葬式に行ったときは、無事に着れたのに、この数か月でメタボが進行したかと青くなり、必死に腕を回しても、首元まであと10㎝、どうしても上がらない・・・。独り暮らしが辛いと思う数少ない瞬間です(苦笑)。 

 

 チャックの引っ張る部分に糸を長めに巻きつけて、ぐいっと引っ張り上げて、なんとか装着。気が付くと汗びっしょりです。急いで車を走らせ、なんとか10分前に会場に到着したものの、案の定、駐車場は満車で、少し離れた瀬戸川の河原に置く羽目になり、履きなれないパンプスで河原をヨタヨタ歩き始めると、東京の里見さんからお電話。話をしながら小走りに会場へ向かうと、目の前を杖をついて歩く顔見知りの酒屋さんが。シャツが腰のベルトからはみ出ていて、ホントにヨタっているように見えたので、ビックリして「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってシャツを直してさしあげました。

 ・・・男性はシャツがはみ出たまんまでも誰かが助けてくれるだろうけど、女がワンピースの背中のチャックを開けたまんまで歩いていたら、みんな引くだろうなぁと笑えてきました・・・。

 

 葬儀場に入ったら、ちょうど導師さまご一行が入場するところでした。葬儀は、さすが初亀の会長だけに、会葬者はザッと見渡しただけでも400人ぐらいいたでしょうか。酒造技術を高める努力を惜しまず、「亀」という屈指の銘酒を生み出した功績や、藤枝東時代からサッカーで健脚を鳴らし、晩年、足腰を痛めて介護を受けられるようになっても、つねに周囲を笑わせ、ヘルパーさんたちにも大人気だったという会長のお人柄が伝わった、いいお葬式でした。

 

 

 

 24日(金)は、東京新聞『暮らすめいと』の取材で伊東へ。城ヶ崎海岸の散策を紹介する記事を書く予定でしたが、あいにくのお天気。同じ紙面で取り上げる伊東市内の食事処『つた好』の取材アポイントメントを取ってしまっていたので、とにかく下見だけでも、と強行しました。

 

 昨日の雨って、まるで熱帯地方のスコールみたいな豪雨になったり、急に陽が射してきたりで、一番履き慣れた布製のスニーカーが、雨水をどっぷり吸ってしまって、何度も転びそうになりました。

 こりゃ城ヶ崎海岸ピクニックコースの下見なんてとても無理、どうせ写真も撮れないや・・・と早々にあきらめ、伊東市観光課と観光協会を回って情報収集し、同じ紙面で紹介する予定の、伊東の立ち寄り温泉とお土産品探索に回りました。

 

 前回の『暮らすめいと』小田原特集の取材では、箱根湯本の日帰り温泉処を3ヶ所体験リサーチしました。伊東では、“伊東温泉七福神の湯”と称し、市内中心部に点在する7つの共同浴場を売出し中。「観光客の方にも利用してもらえるよう、施設を一新しました。高くても300円。城ヶ崎ピクニックの後、ひと汗流すにはぴったりですよ」と強力にプッシュする人もいれば、「ゆったり温泉気分を味わう、いわゆる観光温泉施設がお目当てならば、ホテルや旅館の日帰り入浴可の施設もおススメ。料金は1000円前後しますが」という人も。

 

Imgp1214  とにかく自分で体験してみないことには選べません。300円ならはしご湯してみるかと、まずは、共同浴場の中では一番広い『毘沙門天芝の湯』へ。チケットは自販機で買いますが、入口には番台のおばちゃんがいて、男湯女湯に振り分けます。

 

 脱衣場と浴場は、ごく一般的な銭湯風。平日午後なのにおばあちゃん仲間や子連れの若いお母さんなどで賑わっています。

 基本的に共同浴場(銭湯)なので、シャンプーや石鹸等の備品はなし。タオル一枚しか持っていなかった私は、シャワーで汗を流して、軽く半身浴するつもりで入ったのですが、シャワーの出し方が分からずあれこれ操作していると、隣のおばちゃんが、「ここをこう押すんだよ」と教えてくれて、「お姉ちゃん、おばちゃんの石鹸、貸してあげる」と頼みもしないのに(笑)使い古しの石鹸を差し出し、「これで顔を洗うといい。手を出して」と、洗顔フォームを私の手にギュッと絞り出してくれたのです。強力日焼け止めにファンデーションを厚塗りしていた私の顔は、フツウの洗顔フォームだけじゃキレイにならないので、どーしよーか内心焦りましたが、おばちゃんのしぐさがあまりにも自然で、「わぁ、ありがとうございますぅ」とこちらも自然に笑えてきました。

 

 お裾分けしてもらった洗顔フォームと石鹸をガンガンに泡立てて顔を洗い、身体もすみずみまで洗って、さぁ、せいせい湯に入るぞ!と思ったら、熱~ッ!! 熱めの風呂にサッと入るのが好きな私でも、全身を浸けるまで、せぇのって勢いをつけなきゃならないほどの熱さ。隣で小さな子どもが「熱い熱い」と嫌がって、お母さんがなだめすかしています。開館直後(14時~)の時間帯だったから熱いのかなぁと思いつつ、5分と入っていられず、早々に退室。近所のおばちゃんたちの井戸端会議所と化した脱衣場も、なんとなく長居しづらくて、外に出ました。

 

 髪の毛はびしょぬれ、顔は石鹸で洗ったあと、何もつけていません。このままで『つた好』には行けないし、取材時間までまだ小1時間あったので、今度はシャンプーやドライヤーが揃っているであろう温泉旅館の日帰り入浴タイムを利用することに。向かったのは観光協会さんに「旅館ではここの湯がいい」と薦められた大東館です。

 

 建物自体はちょっと古い感じで、浴場も、いわゆる最新型の温泉施設レベルとはいきませんでしたが、源泉かけ流しの湯は実になめらかで、お湯の温度もベスト!露天風呂の雰囲気もなかなかよくて、手足をせいせい伸ばしてくつろげました。

 利用料は700円。湯上りにロビーの自販機で水を買おうと思ったら、外で買うより70円も高くてギョッとしましたが、旅館の中だから仕方ないか…。

 

 

 大東館を後にして、『つた好』へ。この店は、数年前、アットエスの「静岡の地酒が飲める店」で取り上げ、静岡の地酒と地魚を大事にする伊豆の観光地では得難い店として気に入っていました。

 

 アットエス(静岡新聞総合ポータルサイト)で紹介した店を、東京新聞の情報誌で再掲するのは若干気が引けたのですが、『暮らすめいと』の首都圏の熟年読者層というターゲットを考えたとき、すんなり名前が浮かんだのでした。観光地では一見客や若者ウケを狙った派手な看板の店が多い中、伊東駅前界隈で一番古く、地元にしっかり根付いて堅実な商いをされていて、しかも暖簾の上にあぐらをかかず、いいものを貪欲に取り入れようと静岡の酒にもいち早く着目したご主人を信頼できるからです。

 

 

Dsc_0016  つた好の「地魚にぎり」。地タコ、アカイカ、キンメなど東伊豆ならではのネタも絶妙で、なにせ風呂上りですから車がなければ完全一杯モードに突入したところ。静岡の銘柄は「初亀」「磯自慢」「正雪」の3種に絞ったようですが、それぞれ本醸造系と純吟系を揃えてくれてました。とくにご主人は「初亀」がお好きなようで、店でも安定した人気があるそうです。

 

 「アットエスに掲載してもらった後、いろんなネットや情報誌から取材がきましてね…グルメの口コミネットみたいなところに勝手に掲載されて、一時期大変でした」とご主人。ネット情報をあてにする若い人って、店の場所がわからないと、忙しい時間帯でも何でも平気で電話してくるそうで、「駅前にいるというので、駅から歩いて来るルートを教えると、徒歩じゃなくて車だという。忙しい時間に限ってそういう電話が集中するんです」と苦笑いです。駅前にいるなら交番か近所の店の人に聞けばいいものを、ネットに依存する今の若い人は、知らない街では道も聞けないみたいです。・・・先月の台湾旅行で、言葉が通じなくてもお構いなし、日本語でガンガン道を聞いていたSさんの逞しさを思い出しました(苦笑)。

 

 

 さらに某有名旅行ガイド誌では、スタッフ5~6人の大所帯で仰々しく取材に来たのに、掲載された誌面では、写真が裏写り。つた好一店だけじゃなく、その誌面に載った伊東の店が全部そうだったとか。「1年後に、継続掲載したいので変更はないかと聞いてきたので、写真が全部逆ですよと指摘したんですが、結局修正されずにそのまま掲載されました。それ以来、メディアの取材はお断りしているんです」。

 

 ・・・話を聞いているうちに苦い思いが甦ってきました。実はこういう話は、アットエスに掲載した店のいくつかで聞かされていたのです。アットエスの連載を休載したのは、映画制作に専念するためでしたが、「他のネット業者や出版社に情報提供するかたちになり、掲載店に迷惑をかけるなんて・・・」と重い気持になったのも理由の一つでした。

 

 取材を終え、撮影用に握ってもらった地魚にぎりを試食し、代金を払おうとしたら、「スズキさんのおかげでお酒が売れるようになったのは確かだから」と笑顔で辞退されたご主人。

 ・・・取材者たる身の職業意識を改めて考えさせられ、身が引き締まる思いがしました。

 

 

 時間をみると18時すぎ。つた好で2軒ほどホテルの日帰り入浴を推薦してもらいましたが、夜遅くなってから雨の峠道を運転して帰るのに若干の不安もあり、サッと入れる共同浴場をもう1軒体験することに。伊東で一番古い『和田寿老人の湯』に入りました。浴室はそんなに大きくなく、お湯も相変わらず熱かったのですが、施設は新しく、使いやすかった。ピクニックした後にサッと汗を流して、買い物して、つた好で地酒と地魚を味わって、電車で帰るというのも効率よく遊ぶ分には悪くないなと思いました。

 

 温泉が目的で来るなら、ゆったりできる温泉施設のほうがいいかもしれないけど、今回の企画は・・・。そんなことをあれこれ考えながら、再度、お天気の良い日にリベンジしようと帰路につきました。初亀を応援するつた好のご主人に、「スズキさんの取材を受けてよかった」と思ってもらえるようリベンジする。城ヶ崎海岸をくまなく歩いて思いっきり汗をかいて、温泉入りまくってメタボ解消リベンジする・・・!と心に誓ったのでした。


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