10月6日に開催された(一社)静岡県ニュービジネス協議会の10月中部サロン、JR清水駅前にあるホテルクエスト清水(竹屋旅館)の竹内佑騎氏から観光業の将来性についてうかがいました。
食事の美味しさで定評のあるホテルクエスト清水で、最近とみに注目されているのが、トータル700キロカロリー以下のイタリアンフルコース【駿河湾レシピ】。パスタ一皿分ではなく、前菜・スープ・魚料理・肉料理・パスタ・ドルチェ・パン込みで700キロカロリー以下って凄くないですか?
資料として紹介された2014年4~6月期のディナーメニュー表を見ると、
(前菜)駿河湾産ひげなが海老とズッキーニのサラダ、カツオのカルパッチョと久能の葉しょうが、するが牛もも肉のマリネパルメザンチーズ添え
(スープ)桜海老ビスク
(魚料理)駿河湾産太刀魚の蒸し煮 レモンバターソース木の芽添え
(肉料理)静岡産じっくり煮込んだ牛ホホ肉と春キャベツのラザニア風 浜松のサンマルツァーノトマトのソースで
(パスタ)富士山サーモンのフィットチーネ(特別配合手打ちパスタ)ブロッコリーソース
(ドルチェ)ベイクドチーズケーキラズベリーソース エスプレッソパウンドケーキ 静岡茶「香煎茶」ゼリー
(パン)低糖ふすまパン1個
以上、トータル686.5キロカロリー、糖質24.55、塩分2.73
実際に食べていないので味がどうこうとは書けませんが、竹内さんのお話では、糖質ゼロの甘味料を使い、パスタには小麦粉のかわりにおからを練り込んで濃い目のダシで塩分を押さえ、県内各地から糖質の低い野菜、脂分の少ない肉などヘルシー食材を探し求めるなど、料理長が食材選びや調理方法を最大限に工夫して達成させた数字。病院食ではなく、ホテルの料理長がそれなりの値段(税抜きランチ3000円、ディナー4500円)で出すメニューですから、味も保証されているでしょう。
ホテルクエスト清水は場所柄、スポーツ関係者のお客さんが多く、とくにサッカー日本代表やワールドカップ出場国チームの宿泊もあり、帯同しているスタッフの管理栄養士から食事についてアドバイスをもらう機会も多かったとか。竹内さんが4代目として家業を継いだ2007年、近隣に新規オープンしたホテルに客を奪われ、起死回生を目指して竹内さんが発案した「二日酔いの出張サラリーマンも食べたくなるヘルシー朝カレー」が大ヒットしたことから、食に注力するようになりました。
【駿河湾レシピ】誕生のきっかけは、2010年頃、地元の桜ヶ丘病院から糖尿病患者のためのメニューを頼まれたこと。条件は「熱量700キロカロリー以下、塩分3グラム以下、糖質40グラム以下」。この条件では使える食材が厳しく限定され、結果的に味もイマイチです。
食事制限が必要な糖尿病患者さんにとって、せっかく家族や友人と食事に行っても自分だけ特別メニューを出されるのはつらい。そういう声を直接聞いた竹内さんは、患者さんが外食先でも心置きなく楽しめる美味しいフルコース料理を実現させるのが、ホテル本来のおもてなし使命じゃないかと奮起し、病院側の3条件に「良質な油」「地元食材」「満足感の提供」を加え、病院とホテルがタッグを組んでメニュー開発に取り組んだ。結果的に、誰が食べても美味しくてからだに良いフルコース、という評判を獲得したわけです。
こちらはやはり桜ヶ丘病院栄養科長監修のもと開発した【からだ想いの低糖スイーツ・いとをかし】のひとつ・6種類のロールケーキ。プレーン(黄)、静岡いちご紅ほっぺ(ピンク)、三ケ日みかん(橙色)、竹炭(黒)、紅茶(茶色)、静岡本山茶(緑)の6種類で、砂糖は一切使っていません。さっぱりほのかな甘さと食材の風味がしっかり伝わるヘルシースイーツ。なんでも伊勢丹の食品街ではなく女性服売り場で試験販売し、大好評だったそうです。
病院食をヒントにした低カロリー食や、食材選びにこだわった地産メニューは、ヒットする外食メニューの条件として認知されていると思いますが、地方都市のホテルが本格的に取り組むというのはさらに大きな意義があります。今回の講演テーマもヘルシーメニュー開発ではなく「観光業のこれから」。
竹内さんの解説によると、観光産業は裾野を含めると50兆円を超える一大産業。このうち、最近政府が力を入れているインバウンド(訪日外国人数)が占めるのは1.3兆円。政府は2倍に増やそう!と頑張っていますが、割合から見たらやっぱり日本人の国内観光旅行ニーズを充足させる必要があります。
首都圏在住者対象のアンケート調査では、国内旅行先の人気都道府県ランキングは
①北海道 ②京都 ③沖縄 ④静岡 ⑤大阪 ⑥宮城 ⑦青森 ⑧新潟 ⑨鹿児島 ⑩岩手
ところが「自分の県が魅力的だ」と思っている人の都道府県別ランキングでは
①沖縄 ②北海道 ③京都 ④福岡 ⑤宮城 ⑥鹿児島 ⑦滋賀 ⑧大阪 ⑨神奈川 ⑩兵庫
わが静岡県は、県外の人が行きたい!と思ってくれているのに、地元の人は地元の魅力に気づいていない・・・まさに静岡県民性そのもの!ってな数字ですね(苦笑)。
桜ヶ丘病院から糖尿病患者のためのメニュー開発を依頼され、実際に患者さんから「特別扱いされないように」という声を聞き、【駿河湾レシピ】を味わった患者さんが涙を流して喜んだ姿を見た竹内さんは、「誰もが楽しい時間を過ごせるのが、おもてなしの第一義である」「静岡県には地元食材だけでフルコースが作れる豊かな食材がある」と実感し、今後必要とされるおもてなしだと確信しました。
生活習慣病によって食事制限を余儀なくされる人は全世界で増加しつつあります。市場はしっかりある。ここに、おもてなしの鉄則である「今だけ・ここだけ・あなただけ」のサービスを提供する。おもてなしという言葉の本来の意味は“表裏なし”で、見返りを求めない母性がベースだと竹内さん。今のサービス一般が旨とする「いつでも・どこでも・だれにでも」との違いを強調します。
自分がホテルを選ぶときを考えると、たとえば、一人旅なら「いつでも・どこでも・だれにでも」均一のサービスが保証されているホテルチェーンを使うことが多いし、家族や友人とゆったり過ごしたいと思えば、「今だけ・ここだけ・あなただけ」のおもてなしが徹底している旅館を選ぶでしょう。ホテルクエスト清水が後者を志向していくとなると、さらに新しい魅力づくりが必要かもしれません。
竹屋旅館は、もともと竹内さんの曾祖母(埼玉出身)が戦前、三保から望む富士山を観て、「世界からお客さんを呼べる!」と実感し、海の家を始めたのが創業だとか。20年前にビジネスホテルスタイルにリニューアルしたようですが、素晴らしい先見の明を持ったひいおばあさまのマインドを新しいカタチで再現できれば面白いし、【駿河湾レシピ】づくりもその一歩だと思います。
帰り際、竹内さんに、低糖スイーツのロールケーキに酒粕は使えないか訊いたんですが、「糖質量がクリアできない」とあっさり却下されてしまいました。なんでもかんでもヘルシー食材にしようって発想はダメですね(苦笑)。
ホテルクエスト清水のHPはこちら *「いとをかし」もこちらのオンラインショップで買えます。
竹内さんのブログはこちら