6月8日 編集手帳
インドシナ半島東岸に位置するベトナムの国土は緩い「S」字を描いて いる。
北で国境を接するのは、
中国だ。
かつて、
ハノイの歴史学者が話していた言葉を思い出す。
「地図をよく見てほしい。
わが国は、
中国という巨大な岩の重 みで、
折れ曲がってしまった」。
地図帳を開くと、
確かにそのようにも見えた。
隣の大国が攻めてくれば戦い、
退けば握手する。
それが、
この国の伝統的な生き 残り戦略だという。
米国とのベトナム戦争に続き、
1979年の中越戦争も戦った元民兵は、
数を頼んで押し寄せる中国軍の人海戦術を「未熟」と評した。
しか し、
かの大国は今や、
経済でも、
軍事でも、
当時とは比較にならないほど強大になった。
その中国が、
先月、
南シナ海の中越係争海域で、
一方的に石油掘削を始 めた。
中止を求めるベトナム船に、
数で圧倒する中国船が体当たりを繰り返す。
ベトナム船1隻が沈没した
危険な攻防の激化を防ぐ方法は、
ある。
双方が国際 法に基づいた解決を目指し、
力で勝る方が、
自制的な行動を取ればいい。
大国の横暴な振る舞いが、
戦いを招く。
昔も今も、
それは変わらない。