6月19日 編集手帳
夏目漱石は俳句を饅頭(まんじゅう)にたとえた。『文学論』に書いている。
〈饅頭の真価は美味にあり。
その化学的成分のごときは饅頭を味わうものの問うを要せざるところなり。
饅頭は食べて うまければ十分で、
成分を解析する必要はない。
俳句の鑑賞も同じで、
こむずかしい理屈や解釈は無用、
美味を堪能すればいいのだ、と。
いま、その言葉をかみ しめている。
小欄はこれまで、
日本という国はいい人が多く住むいい国だと折に触れて書いてきた。
いわば“成分”を語ってきたのだが、
口角(こうかく)泡を飛ばすでもなく、
肩ひじを張るでもなく、
さりげなく日本人の“美味”を海外に伝えてくれた人たちの前では
、帽子を脱ぐしかなさそうである。
サッカー・ ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本人サポーターを世界の主要メディアがこぞって称賛した。
日本代表が14日のコートジボワール戦に敗れたあと、
黙々と客席のゴミを拾う姿が感銘を与えたという。
季節に合う美味なる一句を。
〈涼風の一塊(いっかい)として男来る〉(飯田龍太)。
日本時間ではあすの朝になる。
サポーターの吹かせた涼風のなかを、
男たちがピッチに来る。