6月14日 編集手帳
画家の安野光雅さんはかつて「百人一首」の下の句七七はそのままに、
上の句五七五を創作したことがある。
〈シンデレラ魔法の恋と知りながらなほ恨めしき 朝ぼらけかな〉という具合に百首詠むのだから、
なまなかの感性でできる仕事ではない。
その人が新しく歌の本を書いた。
『皇后美智子さまのうた』(朝日新聞 出版)という。
天皇、皇后両陛下が折々に詠まれた133首に安野さんの文章が添えてある。
草花の挿絵が美しい。
サッカーの季節、
皇后さまの一首にページを 繰る手が止まる。
〈ブブゼラの音も懐かしかの国に笛鳴る毎(ごと)にたたかひ果てて〉。
あのラッパのような民族楽器は4年前の南アフリカ大会である。
翌年のお歌には震災が詠まれている。
ブブゼラを聞いていたときは「ベク レル」も「除染」も知らなかった。
開幕したブラジル大会の日本代表は史上最強とも評されている。
もしそうだとすれば鍛錬と精進に加えて“あの日”のつらい 記憶もまた、
彼らを強くしたのかも知れない。
〈草むらに白き十字の花咲きて罪なく人の死にし春逝く〉。白き十字はドクダミだろう。祈りのような花である。