2021年2月2日 読売新聞「編集手帳」
大舞台で感じる重圧を多くのスポーツ選手が口にする。
五輪や世界選手権ともなれば、
その大きさは計り知れない。
「人生で初めて空気に重みを感じた」。
そう振り返る選手もいる。
横綱は水の重みに耐えている。
と言えば、
お察しの方もいるだろう。
駿河湾で発見され、
ヨコヅナイワシと命名された新種の深海魚である。
生息する深さの海中では、
小指の先ほどの面積に数百キロの水圧がかかるという。
体長1メートル超の体全体で受け止めてきた力の大きさを想像するのは難しい。
暗く冷たい深海での暮らし――
思えばコロナ禍の巣ごもり生活が、
それに似ている。
感染拡大で再発令中の緊急事態宣言が延長される見通しとなった。
宣言下にある地域の多くで、
医療体制は依然厳しい。
我慢の日々が、
今しばらく続くことになる。
深海の横綱は厳しい環境に適応し、
人知れず生きてきた。
辛抱強さを見習いたいところだが、
気がふさぐときもあるだろう。
同じく海に暮らす生き物を詠んだ句がある。
<憂(う)きことを海月(くらげ)に語る海鼠(なまこ)かな>(黒柳召波)。
だれかに愚痴でも言って、
気を紛らわす。
そんな時間があってもいい。