3月20日 編集手帳
その人は数年前、
東京都内の小学校から命を考える催しに招かれた。
児童たちの前で1枚の白い紙をくしゃくしゃに丸め、
静かに広げた。
「このシワはいくら伸ばしても消えません。
これが犯罪被害者の心の傷です」。
高橋シズヱさ ん(68)である。
地下鉄サリン事件で、
霞ヶ関駅の助役をしていた夫(当時50歳)を奪われた。
オウム真理教による無差別テロから、
きょうで20年になる。
13人が亡くなり、
6000人を超す負傷者が出た。
たまたま乗った地下鉄で事件に遭い、
いまも寝たきりの人がいる。
深い傷痕は心にとどまらない。
宗教 に名を借りた犯罪者の集まりであること。
若者をたぶらかす術策を心得ていること。
人の命を虫けらのように扱って恥じないこと。
現在の世相に過去の悪夢を重ねて映す人もいるだろう。
いまもまた、
海外から届いたテロ事件の報道に心を凍らせつつ迎えた“あの朝”である。
〈あたまには電極立つる微電流たえずながせるむごたらしくも〉(小池光)。
オウムが洗脳に用いた電極付きのヘッドギアが詠まれている。
無数の白い紙をくしゃくしゃにした狂気を、
時空を超えて憎む