3月23日 編集手帳
1934年(昭和9年)の出来事という。
内務省が徳田秋声、
島崎藤村、
菊池寛ら名だたる作家を招いて宴席を開いた。
文学を統制する「文芸院」創設のもくろみに、
ただちに異を唱えたのは徳田秋声だった。
「日本の文学は庶民の間で生まれ、
政府の保護など受けずに育ってきた。
保護するといわれても信用できません。
放っておいてもらいたい」。
この発言が官僚をひるませたといわれる。
やや大げさな逸話を引いた。
表現の自由がどうという問題ではないにしても、
北海道に「放っておいて」と思う人は少なくないだろう。
道内の菓子企業が「そだねー」の商標登録を出願したという。
認知度は目下マックスに違いない。
ご存じ平昌五輪で称賛を浴びたカーリング女子、
LS北見の選手らが口にした地元なまりの言葉である。
企業は言う。
「道外業者に商標登録されトラブルになることを防ぐ目的もある。
弊社に申請すれば自由に使える仕組みにしたい」。
そこに一筋の道理があるとしても、
どうだろう。
もとをただせば持ち主は、
温かな響きのこもる言葉を育んだ庶民である。
素直に、
そだねーと頷(うなず)きがたい。