3月8日 編集手帳
開拓農民の一家が町の雑貨屋へ買い物に行く。
店で通信販売のカタログを開き、
衣服の写真を眺めた。
西部劇『シェーン』(1953年、米国)の一場面である。
希望の品が馬車で届くまで、
客はどのくらい待ったのだろう。
いまや指先ひとつ、
インターネット通販の時代である。
消費の行動半径が西部の荒野並みに広がる一方、
商品が届くまでの時間は主演俳優アラン・ラッドの早撃ちを連想させぬでもない。
早くて安くて便利の“ありがたずくめ”には、
どこかで無理も生じる。
配送の現場は疲労し、
ダウン寸前であるらしい。
ヤマト運輸が宅配便事業を見直すという。
人手不足で運転手を十分に確保できず、
急増したネット通販の取扱量をこなしきれない。
「お届け物です」と告げるあの笑顔の向こうには、
疲れた吐息が隠れているのだろう。
人の力なしに物は届かぬ、
という当たり前の事実を思い知る。
商品を買う側も届ける側も、
いまよりはのんびりしていた昔よ「カムバック!」とつぶやいてみても、
孤高のガンマン同様、
情報化の流れは逆戻りしてくれない。
便利で、
ときに手に余る現代の荒野である。