8月18日 キャッチ!
順調な経済発展を続けるインドネシア。
自動車を購入できる中間層と富裕層は国民全体の30%を占めるまでになった。
人口1千万人の首都ジャカルタの自動車登録台数は
105万台(2000年)から
300万台(2013年)と3倍に増加。
自動車の急増によって激しさを増しているのが交通渋滞。
朝夕のラッシュ時の時間帯には車で道路が埋め尽くされる。
一方 歩道を歩く人や自転車に乗る人の姿はあまり見られない。
歩道には危険が多いからである。
渋滞を避けようとするオートバイが駆け抜けていく。
こうしたことが自動車の利用をさらに増やしている。
(市民)
「歩道は怖いので歩くのを控えています。」
深刻な渋滞は市民の生活に大きな影響を与えている。
ジャカルタの日本食レストランで働くスティーブンさん。
家から10キロほど離れたジャカルタ中心部の職場に車で通勤している。
朝7時半に家を出て10分で早くも渋滞につかまる。
少しでも渋滞を避けようと片道8000ルピー(約80円)を払って有料道路を通る。
しかしそこでも渋滞。
スティーブンさんは渋滞に備えていつも十分な水や食べ物を持ち歩いていると言う。
(スティーブンさん)
「“長旅”になるので水やお菓子を用意しなければ耐えられません。」
渋滞がなければ15分ほどで到着する距離だがこの日は1時間余りかけてようやく職場に到着した。
(スティーブンさん)
「職場に着く前につかれてしまって仕事のやる気もなくなってしまいます。」
渋滞による生産性の低下や物流の遅れなどによる損失は年間約2,000億円と言われている。
渋滞した車による大気汚染も市民を苦しめている。
(ジャカルタ州 交通局長)
「ジャカルタの車両台数(2輪車を含む)は毎年100万台のペースで増えていますが
道路はたったの数メートルしか延びず
渋滞は日々深刻化しています。」
ジャカルタ州政府はこれまでも渋滞緩和のための制作を執ってきた。
2007年にはジャカルタの中心部を流れる水路を利用した水上バスを試験運行。
しかし水面に浮かぶ大量のごみがスクリューにからまってしまい失敗した。
2003年には朝夕のラッシュ時に2人までしか乗っていない乗用車は中心部に入れない対策を続けている。
ところがこの規制を利用して収入を得ているのが“ジョッキー”と呼ばれる人たちである。
規制区間内で相乗りをする代わりに報酬を得る。
その数は増加する一方で
最近はジョッキーをするために地方から出稼ぎに来る人まで出ている。
(“ジョッキー”の女性)
「3時間で1日5万ルピア(約500円)稼げます。
こんなに楽な仕事はありません。」
こうしたなか渋滞対策に力を入れているのが2012年からジャカルタ州の知事を務め
今年10月に大統領に就任するジョコ・ウィドド氏である。
(ジョコ・ウィドド氏)
「住民の大規模な輸送のため交通機関の整備に力を入れています。」
去年10月 日本の円借款を利用してインドネシアで初めてとなる地下鉄を着工。
さらにジャカルタ郊外から通勤する車を減らすために11の中距離バス路線を新たに設置した。
ジョコ氏は今年1月から毎月一日 自分が通勤に車を使わない日を設定。
ジャカルタ州政府の職員にも同様に通勤に車を使わないことを命じ
違反した職員には警告を出している。
さらにジョコ氏は大統領としてもインドネシア全土で2000キロの道路の新設を公約に掲げるなど
全国規模で渋滞対策に取り組み姿勢を強調。
国民の期待は高まっている。
(市民)
「ジョコ氏が大統領になって他の都市の渋滞問題も解決することを期待します、」
インドネシアの経済発展の行方を左右するとさえ言われる深刻な交通渋滞。
ジョコ氏はこの難題を解決できるのか
その手腕が問われる。
ジャカルタは雨季になると道路がいたる所で冠水し都市機能がマヒしてしまうといっても過言ではない。
こうしたなか期待されているジャカルタ市内を南北に結ぶ長さ16キロの地下鉄は2017年の完成を目指していて
1日約41万人の利用者を想定している。
また新しい対策の中には日本が協力しているものがある。
去年11月に日本政府やトヨタ自動車などが協力して渋滞の激しい交差点を改良。
自動車の流れを悪くしていた安全地帯を一部削ったうえで
交差点の手前にUターン用の道路を新たに設置した。
設置後の調査では渋滞の長さを70%余減少させることに成功した。
渋滞がこれほどまでになった背景には
インドネシアは民主化によってかつての中央集権的な体制から地方分権をすすめたことがある。
インドネシアの現在の道路などのインフラ基盤の多くは
“開発の父”との言われた強権的なスハルト元大統領の時代に作られたものである。
1998年のスハルト氏の退陣以降 地方分権がすすめられ
ジャカルタなどそれぞれの州の知事がインフラ整備などの問題に取り組むべきはずだったが
これまでこの問題に対する行政の動きは鈍く有効な対策を打ち出すことが出来ていなかった。
こうしたなかで2年前にジャカルタの知事となったジョコ氏は庶民派の政治家として
市民生活に大きな影響を与えている渋滞問題の解消を優先課題として力を入れ次々と対策を打ち出した。
こうしたジョコ氏の行政手腕の国民の高い評価が今回ジョコ氏を大統領に押し上げた大きな要因のひとつにもなっている。
経済発展を続けてきたインドネシアは渋滞によって一つの節目を迎えている。
インドネシアは旺盛な内需が見込めるなど2億5千万人の魅力的な経済市場として
日本を含む海外企業にとって有望な投資先として見られてきた。
2012年の海外からの投資額は245億ドル余と過去最高を記録している。
その一方でインドネシアに進出している企業からは深刻な渋滞問題に対する早急な対策を求める強い声が上がっている。
ジョコ氏としては今後 海外からの投資を継続して呼び込み安定成長を実現するうえで
渋滞の解消など国内インフラの整備に全力を挙げる方針で
10月からのジョコ氏の大統領としての手腕がこの国の行方を大きく左右すると言えそうである。