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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

Love Letter(V)

2008-05-11 11:51:15 | 映画(ら)
評価点:71点/1995年/日本

監督:岩井俊二

死んだ恋人に宛てた、返ってくるはずのない手紙をめぐるストーリー。

恋人だった藤井樹の三回忌に、渡辺弘子(中山美穂)は、彼の母親(加賀まりこ)から中学生のころのアルバムをみせられた。
そこで、今はもう国道のために、つぶれてしまったという北海道の彼の昔の家へラブレターを書いた。
一方、藤井樹(中山美穂)は、風邪になり、寝込んでいた。
そこに見知らぬ相手からの手紙が届く。
そこには確かに自分の名前あての住所が書かれてあった。
不思議に思った樹は、その送り主「渡辺弘子」へ手紙の返事を書く。

死んだはずの相手に手紙を書くと、返事が返ってきた、とという奇妙なお話。
綺麗な北海道の景色と、若い(?)中山美穂の顔とが、うまくマッチしており監督の画的なセンスが光る作品となっている。

▼以下はネタバレあり▼

物語はおおきく、二つのテーマといえるものをもっている。
ひとつは、弘子の恋人への想いへの対峙であり、もうひとつは、樹(女)の、中学生時代の樹(男)との対峙である。
いうまでもなく、ひとつは、別れであり、ひとつは出会いである。
このテーマの二重性がストーリーの肝といっていい。
ガラス工房の熱い現場で手紙を読む弘子と、風邪を引きながら、寒い白銀の世界で読む樹とが前半で対比的に描かれるのもそのためだ。

そして構成も大きく二つに別れるだろう。
前半の「恋人への別れの手紙」と、後半の「恋人の中学生時代との出会い」だ。
前半では、恋人にあてた手紙のあて先が、実は同姓同名の女性であったことがわかるまでの経緯を描く。
後半では、樹(男)との決別と、逆に樹(女)にとっては、中学生時代の思い出との出会いとが描かれる。

樹(女)が樹(男)のことを思い出せば思い出すほど、弘子は樹への想いを断ち切ろうとあがく。
逆に樹(女)のほうは、より具体的な彼とのやりとりを思い出し、彼の初恋の相手であったということに「出会う」のである。

中山美穂を二役にしたことで、両者に均等に感情移入することを許し、対比的に描くことに成功している。
「決別」と「出会い」が、テーマになっているが、
両者にとっては、「かなうことのない恋」であるし、また両者にとって、ある種の「救済」であることでも共通している。
そのための「課題」が用意されていることも共通しているといっていいだろう(弘子は山登り、樹は肺炎(父の死))。

ただ、未完成の感は否めない。
中学生としては、二人の樹役の男女が、明らかに高校生の風貌だ。
逆に彼らをひやかしにくる生徒は、明らかに小学生だ。
恋人の死を扱っているリアリズムが物語の中心であるのに、回想になると急に「耳をすませば」的なロマンティシズムに陥るのも気になる。

しかし、僕としての最大の問題は、樹(男)が読んでいるという本だ。
「失われた時を求めて」はどう考えても中学生は読まない。
もちろん、メッセージ性は良くわかる。
中学生が持ってきた本にこめられている、監督の思いは充分に伝わる。
しかし、プルーストはないだろう。
しかも本のタイトルは「失われた時を求めて」であったとしても、内容としては、流れにあわない気がする。
にもかかわらず、ここで敢えてプルーストを持たせてしまったことが、僕には不可解でならない。
思わず、巻き戻してタイトルを確認したくらいだ。
中身を読んでいなかったとしても、中学生が借りるような本ではない。
僕がその中学の図書室の先生なら、彼を抱きしめたいと思うだろう。
「お前はえらい」と。
逆に「お前大丈夫か?」とも思うかもしれないが。

個人的にプルーストについてツッコんだが、それ以外でも未完成な部分は多い。
しかし、先にも言ったように、画面の綺麗さをはじめとした世界観や、出会いと別れを同機軸に扱ったことなど、見るべき点はあると思う。

(2003/11/6執筆)

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