secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ダンテズ・ピーク

2009-02-22 11:11:49 | 映画(た)
評価点:81点/1997年/アメリカ

監督:ロジャー・ドナルドソン

セントへレンズ山の噴火をモチーフにした秀逸火山ディザスター。

火山学者のハリー(ピアース・ブロスナン)は、火山噴火の予知が遅れたため、恋人をなくしてしまった。
不穏な動きがあるというダンテの峰にやってきたハリーは、調査を通して、すぐにでも緊急避難をすべきだと告げる。
ハリーの上司であるポールは、町を盛り上げるため尽力していた町長のレイチェル(リンダ・ハミルトン)に対して、ギリギリまで見定めてから避難した方が良いと助言し、ハリーと対立する。
そして、安定した二週間が過ぎ、もう火山は起こらないと思っていた矢先、ハリーは、町の水が硫黄臭を帯びていることに気づく。

典型的なディザスター映画。
「スピーシーズ」や「ゲッタ・ウェイ」のロジャー・ドナルドソンが監督しているだけあり、ただのディザスター映画なのだが、秀作となっている。
そして主演は「007」シリーズで有名になったブロスナン。
ヒロインは、逆に「ターミネーター」以降、ヒット作に恵まれていないリンダ・ハミルトン。
この名前を言うよりも、サラ・コナーと言ったほうがわかりやすいくらいだ。

僕はなぜか映画館まで見に行った。
あまり期待していなかったのだが、これが意外と良かった。
今見直しても、うまいつくりだと感心する。
観ていない人は、この続きを読む前に是非見よう。
「泣ける」ディザスター映画は意外と少ないのだ。
 
▼以下はネタバレあり▼

この映画が成功している点は二つある。
一つは、キャラクター設定をきちんと見せて、死にドラマを生み出していること。
いま一つは、火山噴火に説得力をもたせるウンチクである。

この映画を、単なる火山爆発映画としてみはじめると、「なんだ、一向に爆発しないじゃんか!」とぼやきたくなるだろう。
派手な爆発だけが目的なら、「ボルケーノ」あたりを見るといい。
この映画は、真剣に「ディザスター」の姿を描こうとする気概をもっている。
だから、ただ爆発するだけではない。
きちんと人間が描かれているし、きちんと火山の知識を示してくれる。

まず、キャラクター設定。
主人公のハリーは、逃げ遅れて恋人を「殺してしまう」。
この自責の念があるから、上司のポールに対して、意見を曲げようとしない。
だが、対するポールは政治的、経済的な町の影響を考えて、慎重論を提出する。
結果的にハリウッドの法則「主人公は正しい」に負けてしまうことになる。
しかし、彼の判断は非常に常識的だし、ここまで苦労して大きくなった町をそうやすやすと逃げ出せない暮らしを知っている。
だから、彼を単なる悪人として見ることは出来ない。
この葛藤が、実にうまくドラマを盛り上げる。

町の町長、レイチェルは、町を大きくした人間だ。
その自負は強く、父親のいない家庭を支える糧となっている。
しかし、彼女は夫の母親との喧嘩が絶えない。
義理の母親は、息子が蒸発したことをずっと負い目に思っている。
だから、レイチェルに反発し、素直に一緒に住むことができない。
母親も、また、息子の失踪という悲しみに苦しんでいた一人だったのだ。
この二人のすれ違いが、後々、ドラマを生み出すことになる。

彼らは、相手に自分の考えを「語る」ことで、キャラクターとして肉付けされていく。
だから、それぞれの人生や性格、考え方を知ることができ、感情移入できるようになる。

このため前半はゆっくりとしたペースで進むことになる。
だが、いざ噴火が始まると、観客は人が死んでいく様子に、涙できるし、そこにそれぞれの生き方を見出すことができる。

義理の母親は、沈みゆくボートから降りて、孫達を助けようとする。
あれだけ頑固だった祖母は、自分の過ちに気づき、自ら犠牲となる。
ここで泣けるのは、それまでのやりとりがきちんと描かれているからだ。

上司のポールも同じだ。
彼は届かなくなった無線機に必死に話しかける。
そして、自分は三台の車のしんがりを務める。
この行動から、ハリーに対しての贖罪の気持が表われている。
だから、彼の死は、悪役の死ではない。
単なる悪ではなく、そこにはドラマがあるのだ。

そして、そのドラマを支えているのが、リアルだと感じさせる数々の専門知識だ。
僕だけかもしれないが、水が酸性化したり、温泉が熱湯に変わったりと、火山の噴火が土石流や火砕流だけでないことを教えてくれる。

まず温泉が熱湯に変わり、余震が続く。
そして、水が硫黄化して、いよいよ火山噴火。
しかし、いきなり溶岩が流れてくるのではなく、大きな地震が起こり、火山灰が空を覆う。
その後に、溶岩が流れ出し、その溶岩で雪が解け、一気に町を押し流す。
このプロセスが、非常にリアリティがある。
ただ溶岩が流れるものだと思っている素人の僕にとっては、とても恐怖感を抱くし、何より映画としての説得力があるのだ。

この説得力は、単にスクリーン上の恐怖感だけを生み出すのではない。
こういうことが実際に起こるかもしれない、という観客側への、身に迫る恐怖感につながるのだ。
また、リアリティという説得力があるがゆえに、ドラマも盛り上がる。
派手な演出やCGよりもよほど効果がある。

ただ、あえて文句を言うなら、
「民衆」のその後がどうなったかわからない点だ。
人間ドラマとリアルさ(それでも多少の脚色はあるようだが)を重視するあまり、その他大勢の安否がよくわからない。
せめてラストの台詞か何かで、「死者○○人、重軽傷者○○人だそうだ」というような“配慮”は必要だったかもしれない。

ディザスター映画にはありがちの展開だ。
目新しいストーリー展開はほとんどないと言って良い。
だが、それでもこの映画は何度観ても面白いと思える安定感がある。
それは、丁寧なつくりがあるからだろう。
こういう映画を観ると、映画ってまだまだ可能性がある、と思える。

(2005/3/13執筆)

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