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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

チェ 39歳別れの手紙

2009-02-11 22:20:28 | 映画(た)
評価点:73点/2008年/スペイン・フランス・アメリカ

監督:スティーブン・ソダーバーグ

革命家の神格化、チェのキリスト化

キューバ革命を成功させたエルネスト・チェ・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、大臣職はおろか市民権さえも放棄し行方不明となった。
カストロに送られた手紙には新たな革命を必要としている国へ向かうと記されていた。
チェは南米で最も悲惨な地域であったボリビアへ向かっていた。
政府軍への反抗を重ねていた反乱軍だったがアメリカの政府軍への援助を皮切りに旗色が悪くなって来る。

チェの死までを描いたのが完結編となる「別れの手紙」である。
当然「パート1」を鑑賞済みであることを期待されているため説明的な描写はすくない。
だが、監督が描きたかったのは明らかにこちらだ。
もっと言えば、ボリビアでの活動でさえない。
主眼はその死に様に他ならない。

戦争や革命について描けば必ず目的を受け取る必要がある。
それを十分見極めてみなければ危険が伴うだろう。

ともかく、この時期にこの映画が公開されたことの意味を、僕たちは受け止めるべきではある。
賛否両論はあってしかるべきだ。
心構えをしっかりもって見ていただきたい。

▼以下はネタバレあり▼

この映画で象徴的なのはチェが敵兵をつぎつぎに殺すシーンが皆無であるということだ。
革命家、武装蜂起を唱えた人物なのに妙に殺人が描かれない。
彼は殺すための訓練は施すが、実際に殺さない。
この映画の最も大切な点である。

なぜなら彼をいわゆる革命家として描く気がないからだ。
では一体どう描きたかったのか。

答えは「宗教家」である。
入国のために変装したゲバラはまるで別人の様相だ。
ひげを剃り、ぱっと見はデルトロであるかを確認するのも難しいほどだ。
だが、ボリビア入国後、革命を企てるに従って、どんどんあの「ゲバラ」となっていく。
まあ、平たく言えば、髭ぼーぼーの南米人になるということだ。
そして、時を同じくして、反乱軍は追い込まれていく。
味方が捕まり、そこからゲバラの存在が明るみに出、キューバからの侵略であると国際世論の批判が高まる。
それを機会にアメリカが軍事介入をはじめ、いっきに反乱軍は窮地に追い込まれていく。
政府の声明を信じるボリビア国民は圧政に屈し、ゲバラは敗色濃厚となる。
そして、大規模な山狩りを前に、ゲバラは捕らえられてしまう。

その様子は、もちろん、戦争映画であるため、殺し合いが描かれているわけだ。
だが、先にも書いたように、ゲバラはどちらかと言えば、訓練や教育や、そして革命の必要性を説くだけで、「殺人」に関わるシーンはごくわずかだ。
それが事実とどのように折衝した結果なのか、僕にはわからない。
けれども、少なくとも、このことから言えるのは、ゲバラを戦死と描こうとしてないということなのだ。

そして、ラストの処刑のシーンに至る経緯は、殺人を極端に避けて描いていたのとは逆に、やたらと印象深く、そして重く描かれる。
このシーンを見た、誰もがきっと思うはずだ。
「これはキリストの処刑そのものだ」と。
髭を伸ばし、誰からも顧みられることなく、そして完全否定を突きつけられて殺される。
その姿は、キリストの再来を予感させる。

彼は革命家としてではなく、宗教家、いや、文字通り「神格化」されて描かれるのだ。
現代に生きる、生きていた神として描くために、この映画は存在しているのだ。

その理由はあきらかだ。
この映画を観て、マルクスに傾倒する人間はおそらくいまい。
だが、この映画を観て、これまでの自分たちが基盤にしていた資本主義を疑うことを始める人間は数多いに違いない。
それはアメリカの金融資本主義の崩壊というコンテクストが、世界中の人間にそうさせるのだ。
ソダーバーグ監督の狙いは、そこにあるのだろう。

これが撮られていた時期にはそういった意味合いは薄かったかもしれない。
けれども、これが公開されている今、その記号性を捨象しては観ることはできない。

果たしてチェは、現代に生きる僕たちに神として輝くのだろうか。
彼が神として復活するのは、物理的に、肉体的に、ではない。
これを観た全ての人間に立ち現れる「資本主義への懐疑」として立ち現れるのだ。
つまり、この映画を観て、資本主義が本当に人類を幸せにする方法なのか、という疑問を立てることが、チェの、復活を意味する。
だから、この映画を観ることこそが、真の意味でチェを「キリスト化」させるのだ。

僕はチェのやりかたが正しかったのか、判断できない。
ただ希求するのは、この金融資本主義恐慌が第三次世界大戦への引き金にならないことだけである。
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