醸造されるための時間

隠れているべきものが現れる、ということが日常茶飯事になってきた。
仕事の合間に、ヤフーニュースを読むようになって、ちょっとした怖さのようなものを感じることがある。

それは、舞台裏にあるはずのものが安易に拡散されていくということだ。
たとえば、オリンピックで誰かが金メダルを取った。
次に始まるのは、そのメダルがいかにして獲得されたかどうか、という舞台裏探しの争いだ。

いや、金メダルならわかる。
時にはメダルが取れなかった理由や、その秘話の秘話、話題になった理由など、舞台裏の裏側まで記事にしてしまう。

公人であれば、舞台裏を知りたくなる。
知りたいという民衆の欲望に応えるのがメディアだ。
しかもそこには知る権利があるのだから仕方がない。
そういう論調なのかもしれない。
だが、私の危惧はそういうレベルの話ではない。

本来舞台裏で隠れておくべきことがらがこうも安易に表舞台に登場してしまうと、あるべき神聖性が失われてしまうのではないかという思いだ。
隠れておくべきことは、やはり隠れておくべきなのだ。
それは掘り下げるべきではないし知る必要さえない。

その人の「本当」の顔なんて、誰も知る必要がない。
なぜなら、その「本当」の顔でさえ作られた虚構に過ぎないからだ。

本当なんてものはない。
その本当に見えるものを、本当だと思い込む「行為」があるだけだ。
だが、ネットが流行ったこともあり、その本当を探そうとする。

そうすることによって人が本当に大切にするべき、孤独に耐え、自分を醸造する時間を失っているのではないか。