評価点:85点/2003年/日本
原作・監督・脚本ほか:今敏
とても心が温まる映画です。
家出少女ミユキ(声:岡本綾)と、元競輪選手のギン(声:江守徹)、そしてオカマのハナ(声:梅垣義明)は、東京のホームレス。
クリスマスの夜に、ゴミ箱アサリをしていると、なんと赤ん坊を発見してしまう。
育てようというハナに対して、二人は母親を探すべきだという。
そこで、三人は赤ん坊が持っていたロッカールームのキーから、大きな鞄を発見し、両親らしき夫婦を探し始めるのだが。。。
「千年女優」の今敏監督の作品。
公開時から知っていたが、どうしても見ることができなかった。
今回、DVDで見ることになった。
▼以下はネタバレあり▼
ストーリーに書いたように、ホームレスが赤ん坊を見つけ、その両親に赤ん坊を捨てた理由を問いただそう、という話である。
話としては単純であり、驚くべきシチュエーションではない。
しかし、このホームレスと赤ん坊というモティーフを
上手く利用したことによって、非常におもしろい映画になっている。
ホームレスという設定は、それだけですでに課題と過去をもっている。
誰もホームレスになることを望んだわけではない。
家のある生活がおくれなくなったために、やむなくホームレスになるのである。
この三人のホームレスも、また課題と過去を持っている。
それを赤ん坊という純真無垢な存在を真ん中に置く事によって、その課題と過去に彼らを向かわせていくのである。
ホームレスの掟、ギブ・アンド・テイク、そして他人の過去には触れない。
しかし、赤ん坊を拾ったときから、三人は自分の過去や生い立ちを他の二人に話し始める。
あるいは、自分の課題について考え始める。
それは、やはり赤ん坊という存在がそうさせるのである。
また、清子と名前をつけるように、その日はクリスマス。
誰もが少しだけ純粋になれる日なのである。
ギンは、他のホームレスからも一目を置かれる存在で、面倒見がいい。
しかし、酒好きで、酒を飲むとたちまち駄目な男になってしまう。
周りには競輪選手で八百長をしたと言っているが、本当は、単なる自転車屋のギャンブル好き。
借金が膨れ上がって、とうとう妻子を捨ててホームレスになってしまう。
それでも、娘の事をずっと気にして、少ないながらも貯金している。
オカマのハナは、インテリジェンスな一面も見せる、元歌い手。
オカマ・バーで歌っていたがある日、客を殴ってしまい、やむなくホームレスになる。
オカマとして生きることの難しさの中で、家庭に飢えてきた「女」である。
ミユキは、六ヶ月前まで女子高生で、家出少女。
警察官の父親の愛に飢え、父親を刺してしまう。
ずっと家に帰らなければならないと考えてきたが、どうしても帰ることができない。
ずるずると、半年間もホームレスをすることになってしまっていた。
赤ん坊の清子のすごいところは、ただ純真無垢な赤ん坊というだけではない。
彼女には非常に強力な能力をもっている。
それは、関わったものに幸福と出会いを与えるということである。
ホームレスたちは赤ん坊を見ながら、自分の半生を振り返る。
そこに、会いたかったが会えなかった人たちが次々と現れる。
その人々に出会う事で、自分の課題を直視し、乗り越えようとするのである。
この映画のすばらしさは、棚から牡丹餅ではないところである。
ホームレスや彼らに関わる人たちは、それぞれ、大きな悩み事を抱え、〈ちょっとしたきっかけ〉を待っている人々である。
努力したいが、どうしてもうまく行かない。
いい奴なんだけど、どうも運がない。
そういう人々であるから、清子の振りまく幸せがとても美しくみえるのである。
しかも、映画自体が非常に大切に、そして丁寧に描かれている。
例えば、もうすぐ結婚するというギンの娘。
彼女の結婚相手は医者であることも明かされる。
その医者の顔が、ギンとそっくりなのである。
そのことから、娘・清子が父親を愛し求めてきたという人生を知ることができる。
いきなり現れた父親に対し、住所を教えるという一見都合のよすぎる展開も、
そこにきちんとしたプロットがあるのである。
その医者が、いい年にもかかわらず年末に差しかかった時期にも、
救急の病院として患者に開放しているということで、結婚相手の人柄を表わしていることも、注目されていい。
ホームレス狩りに遭ったギンが叫ぶ「清子!」という名前は、実は自分の娘であるということも、非常に上手い。
この丁寧さも、「美しい」映画に見える所以であろう。
「アイ・アム・サム」でも書いたように、それぞれの課題を描き、それぞれがそれを直視し、それを克服する。
この過程が描かれる事によって、カタルシスは大きくなり、感動も大きくなる。
「ビッグ・フィッシュ」も非常に心温まる映画だった。
この「東京ゴッドファーザーズ」もとても心温まる、人を幸せにする映画である。
この映画と、「千年女優」によって、今敏という人が、非常に多彩なストーリー・テーラーであることを確信する。
「もののけ姫」以降の宮崎駿監督よりも、この今敏のほうが、僕は好きだ。
(2004/8/23執筆)
原作・監督・脚本ほか:今敏
とても心が温まる映画です。
家出少女ミユキ(声:岡本綾)と、元競輪選手のギン(声:江守徹)、そしてオカマのハナ(声:梅垣義明)は、東京のホームレス。
クリスマスの夜に、ゴミ箱アサリをしていると、なんと赤ん坊を発見してしまう。
育てようというハナに対して、二人は母親を探すべきだという。
そこで、三人は赤ん坊が持っていたロッカールームのキーから、大きな鞄を発見し、両親らしき夫婦を探し始めるのだが。。。
「千年女優」の今敏監督の作品。
公開時から知っていたが、どうしても見ることができなかった。
今回、DVDで見ることになった。
▼以下はネタバレあり▼
ストーリーに書いたように、ホームレスが赤ん坊を見つけ、その両親に赤ん坊を捨てた理由を問いただそう、という話である。
話としては単純であり、驚くべきシチュエーションではない。
しかし、このホームレスと赤ん坊というモティーフを
上手く利用したことによって、非常におもしろい映画になっている。
ホームレスという設定は、それだけですでに課題と過去をもっている。
誰もホームレスになることを望んだわけではない。
家のある生活がおくれなくなったために、やむなくホームレスになるのである。
この三人のホームレスも、また課題と過去を持っている。
それを赤ん坊という純真無垢な存在を真ん中に置く事によって、その課題と過去に彼らを向かわせていくのである。
ホームレスの掟、ギブ・アンド・テイク、そして他人の過去には触れない。
しかし、赤ん坊を拾ったときから、三人は自分の過去や生い立ちを他の二人に話し始める。
あるいは、自分の課題について考え始める。
それは、やはり赤ん坊という存在がそうさせるのである。
また、清子と名前をつけるように、その日はクリスマス。
誰もが少しだけ純粋になれる日なのである。
ギンは、他のホームレスからも一目を置かれる存在で、面倒見がいい。
しかし、酒好きで、酒を飲むとたちまち駄目な男になってしまう。
周りには競輪選手で八百長をしたと言っているが、本当は、単なる自転車屋のギャンブル好き。
借金が膨れ上がって、とうとう妻子を捨ててホームレスになってしまう。
それでも、娘の事をずっと気にして、少ないながらも貯金している。
オカマのハナは、インテリジェンスな一面も見せる、元歌い手。
オカマ・バーで歌っていたがある日、客を殴ってしまい、やむなくホームレスになる。
オカマとして生きることの難しさの中で、家庭に飢えてきた「女」である。
ミユキは、六ヶ月前まで女子高生で、家出少女。
警察官の父親の愛に飢え、父親を刺してしまう。
ずっと家に帰らなければならないと考えてきたが、どうしても帰ることができない。
ずるずると、半年間もホームレスをすることになってしまっていた。
赤ん坊の清子のすごいところは、ただ純真無垢な赤ん坊というだけではない。
彼女には非常に強力な能力をもっている。
それは、関わったものに幸福と出会いを与えるということである。
ホームレスたちは赤ん坊を見ながら、自分の半生を振り返る。
そこに、会いたかったが会えなかった人たちが次々と現れる。
その人々に出会う事で、自分の課題を直視し、乗り越えようとするのである。
この映画のすばらしさは、棚から牡丹餅ではないところである。
ホームレスや彼らに関わる人たちは、それぞれ、大きな悩み事を抱え、〈ちょっとしたきっかけ〉を待っている人々である。
努力したいが、どうしてもうまく行かない。
いい奴なんだけど、どうも運がない。
そういう人々であるから、清子の振りまく幸せがとても美しくみえるのである。
しかも、映画自体が非常に大切に、そして丁寧に描かれている。
例えば、もうすぐ結婚するというギンの娘。
彼女の結婚相手は医者であることも明かされる。
その医者の顔が、ギンとそっくりなのである。
そのことから、娘・清子が父親を愛し求めてきたという人生を知ることができる。
いきなり現れた父親に対し、住所を教えるという一見都合のよすぎる展開も、
そこにきちんとしたプロットがあるのである。
その医者が、いい年にもかかわらず年末に差しかかった時期にも、
救急の病院として患者に開放しているということで、結婚相手の人柄を表わしていることも、注目されていい。
ホームレス狩りに遭ったギンが叫ぶ「清子!」という名前は、実は自分の娘であるということも、非常に上手い。
この丁寧さも、「美しい」映画に見える所以であろう。
「アイ・アム・サム」でも書いたように、それぞれの課題を描き、それぞれがそれを直視し、それを克服する。
この過程が描かれる事によって、カタルシスは大きくなり、感動も大きくなる。
「ビッグ・フィッシュ」も非常に心温まる映画だった。
この「東京ゴッドファーザーズ」もとても心温まる、人を幸せにする映画である。
この映画と、「千年女優」によって、今敏という人が、非常に多彩なストーリー・テーラーであることを確信する。
「もののけ姫」以降の宮崎駿監督よりも、この今敏のほうが、僕は好きだ。
(2004/8/23執筆)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます