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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

パッション

2008-11-04 20:22:41 | 映画(は)
評価点:76点/2004年/アメリカ

監督:メル・ギブソン

注意! 完全に「初心者」お断り映画。

イエス(ジム・カヴィーゼル)は真夜中の森の中で、サタン(ロザリンダ・チェレンターノ)の誘惑と戦っていた。
神への祈りを終えたイエスの元に現れたのは、大祭司の兵たちであった。
彼らはユダの裏切りにより、イエスの居所をつかんだのである。
大祭司らは、イエスが民衆を扇動したとして、裁判にかける。
自らの制度では裁けないため、ローマ帝国のピラト総督(ホリスト・ナーモヴ・ジョポヴ)にイエスの身柄を引き渡す。
ピラトはイエスの処遇について、大祭司たちに問う。
彼らの求刑は「イエスを十字架にかけろ」というものだった。

残念ながら、というべきか。恥ずかしながら、というべきか。
僕は、殆んど聖書というものに触れていない。
家に二、三冊聖書が眠っているが、いままでその機会を得る事はなかった。
よってこの「キリスト受難」に至るまでの詳しい文脈は分からない。
当然ながら、強い思い入れもない。
そんな僕が、この映画についていえることは少ないだろう。
本当にこの映画を理解するためには、少なくとも聖書を通読しておく必要があるだろう。

この映画をみて、ショック死したというニュースは有名である。
ある者は号泣し、ある者は憤慨した。気絶したという話も聞く。
アメリカでは、おそらく2004年上半期の興行収入のトップになるだろう。
「自由」でまとまりのないUSAだが、やはりキリスト教の国であることは確かのようだ。

しかし、もともと神道と仏教の国の日本では、この映画は受けないだろうし、売れないだろう。
それは仕方がないことだと思う。
この映画の観客は、あくまでキリスト教徒であるからだ。
号泣も憤慨も、気絶もショック死も、やはりキリスト教徒であるための反応なのであって、日本人には、それほどの衝撃はないと思われる。
もちろん、日本のキリスト教徒は別だが。
しかし、それでも見るべき点はある。

▼以下はネタバレあり▼

映画というものは、大量生産し、大衆に向けて発信するものである。
大前提として、多くの人に見てもらおうという表現媒体である。
しかし、この映画は、その大衆性を敢えて捨てたところに偉大さがある。
キリスト教徒(メル・ギブソン)による、キリスト教徒のための、キリスト受難の物語。
それがこの映画である。

だから、ほとんど説明的な表現はない。
キリストが十字架に掛けられる12時間前の話から、12時間後を描いているのみである。
前後の文脈は「知ってて当然」という描き方なのである。
長大な物語の聖書を、非常に明確な意図の下、その箇所を切り抜いた、その思い切りが、この映画の完成度を高めている要因であろう。
ロード・オブ・ザ・リング」が、原作愛読者のための映画であるならば、この映画は同じようにキリスト教徒のための映画なのである。

物語をきっちりと区切った事によって、完成度は高くなった。
密度が濃くなったのである。
余計な描写や無駄な説明がないので(厳密にはあるものとして描くので)、凝縮された迫力がある。
現存していない言語で全編を撮ったり、自費で30億円もの制作費を補填したりと、そういった迫力は十分スクリーンに表れている。

映画を観ていて、周りですすり泣きが聞こえたのは初めてである。
僕自身も少し泣いたが、観客のいたるところから洟をすするような声が聞こえた。
泣いている人間が全て、キリスト教徒だとは思わない。
むしろ、キリスト教徒以外にも伝える「何か」があったのだろう。
その理由として、あえてバッサリ客層を切り捨てた、監督の思い切りの良さだったのだろう。

とにかく痛い。痛い描写が多い。
しかし、この痛みが余計に、観客の心を揺さぶる。
この「痛み」に、文化圏の差はないのかもしれない。

最後に、僕が考えたのは、この映画が制作され公開されたタイミングである。

「彼らは自分のしていることがわからないのだ」

このイエスの台詞は、どこかの国に向けられもののような気がしてならない。
単なるキリストの受難ではなく、それを撮ろうとしたメル・ギブソンの意志が感じられる。

キリスト教徒でない日本人も、見る価値はあると思う。
聖書にまなぶべき点はあると思う。
それは、聖書を信仰するのとは別次元で、である。
宗教の理解と、宗教を超えた理解、それを問うための映画だったのではないだろうか。

(2004/5/13執筆)

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