憎しみは やがて至る、愛の森
巨匠イングマール・ベルイマン、最高にして最後の傑作!
京都みなみ会館にて鑑賞。映画界を引退していたベルイマンが20年ぶりに、映画を撮った。ゴダールは「誰よりもオリジナリティがある映画作家はいない!」と絶賛。ウディ・アレン、ロバート・アルトマン、ジム・ジャームッシュといった名監督たちも、彼の影響を受けたというくらい・・・・ベルイマンは凄い監督だ。北欧生まれの世界的巨匠
この映画は1974年にベルイマンが撮った『ある結婚の風景』の続編だそうです。キャストも同じです。マリアン演じるリヴ・ウルマン、ヨハンを演じるエラルド・ヨセフソンが、29年という時を経て登場しています。
憎しみの終わり。終わりのない愛の始まり
かって夫婦として生活をともにしたマリアンとヨハンは離婚後30年ぶりに再会する。(といっても偶然の再会ではない)必然的なのだ。冒頭のシーンでマリアンが、厖大な写真の山積みの中で、穏やかに語り始める。離婚後のふたりがどうなったか?不意に啓示したかのように、静かな自然のなかの別荘に暮すヨハンを訪ねてみることを決意したと話す。プロローグとエピローグをくわえ、全10章からなる『サラバンド』はマリアンの語りからこうして始まるのだ30年ぶりの再会はまるで同士のよう・・・・。再会に祝福キスをし合い、抱擁親密な会話を重ねていくのだ。一方、別荘の近くには、ヨハンの息子ヘンリック(ボリエ・アールステット)と娘のカーリン(コーリア・ダフヴェニウス)が暮らしている。一見穏やかで自然な環境の中で余生を幸福に送っている老人の日々のように見えるが・・・・。章を重ねるごとに、ヨハンとその家族の抱えている苦痛“叫びとささやき”が交錯修羅場も見えるのであるヘンリックとヨハンは双生児のように似ている。そんなふたりは会うたびにお互いに近親憎悪のように侮辱の言葉を吐き、罵倒し合うまたヘンリックは、妻アンナが病死して以来、娘カーリンのチェロの才能に力を注ぐその力の入れようは、娘に対しての異常までの溺愛でもある。音楽学院の試験のため、一緒に練習に励む姿は何と言っていいのかそんなヘンリックに対して娘カーリンは息苦しいものを感じていた
とうとうカーリンは父に訣別を告げる。その言葉に、ヘンリックは最後に『サラバンド』を弾いてほしいと頼む。
タイトルのサラバンドとは17~18世紀にヨーロッパの宮廷で普及した古典組曲のことで、とくにバッハの《無伴奏チェロ組曲第5番》のサラバンドが有名だ。まさにバッハの音楽に秘められた激情の四重奏
カーリンが決定的に去った後、ヘンリックは自暴自棄となり・・・・。痛ましい行為にと走るそれは自らの命を絶つということだ。
この知らせを聞いたヨハンは、ヘンリックへの憎悪を剥き出しにするそして、マリアンに「カーリンを罪悪感から守れ」と気持ちをぶつける。
そんなヨハンもその夜、廊下で震え泣くマリアンに助けを求めるのだった。ベッドでともに過ごすふたり・・・・。ヨハンは「何故、不意に訪ねた?」と聞く。その答えに、マリアンは「貴方が呼んだ」と・・・・。
ラストシーンは再び、マリアンは厖大な写真の山積みの前で、語ります。その後のヨハンとのこと、ヘンリックの亡き妻アンナの写真を眺め、どんな女性だったのかなど・・・・。思いを馳せます。最後は娘マッタとのこと。療養所で暮す、マッタとの会話無き、激しい感情の触れ合い。それはあきらかに、憎しみ・苦しみを超えた神の慈しみの愛だと・・・・。
これだけ重い、息苦しい映画は、初めてかなかなり思考的にも難しい作品でした。夫婦の愛・親子の愛、愛のほどよい距離にあることがいいのだけれど、そうなるものでもない。この作品は愛と憎しみは神ひとえだと教えてくれていると・・・・。
4人だけのキャストで繰り広げられる非常に人間関係の濃い作品、約2時間の上映でしたが、いやあ~疲れちゃいました
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