南米ペルー近現代史の悲劇が生んだ一人の女──ファウスタ。彼女の歌声と秘密、そして旅立ちを、鮮やかに描きだす。
京都みなみ会館にて鑑賞。久しぶりにこのシアターへ、、、、。
ファウスタが唄う歌がとても印象的です。思わず口ずさんでしまいます。実はこれファウスタを演じるマガリ・ソリエルが本当に即興で唄っているそうです。
ペルー映画です。まずはこの映画の背景となる、ペルーの歴史を知る事が必要みたいでした。まったく予備知識もなく(汗)
1964年、毛沢東主義を奉じた「センデロ・ルミノソ」(輝く道)という革命集団が結成されたことから、悲劇は始まります。彼らのその残虐な手口から「南米のポル・ポト」と呼ばれていたそうです。1980年に武装闘争が開始されると、93年にフジモリ大統領の強権発動によって鎮圧されるまで、その冷酷なテロ活動でペルーを混乱と恐怖に陥れたそうです。
本作の中でも語られる集団レ○プもその戦略のひとつだったようです。恐ろしい話ですよね。
冒頭は衰弱した一人の女性が、ベッドの中で歌を唄っているところから始まる。歌の内容はこうだ。ペルーに暴力が吹き荒れた時代、彼女が受けた壮絶な仕打ちを物語る歌だった。
彼女はお腹に娘を身ごもっている最中、目の前で夫を惨殺された。屈辱された。彼女は歌うーー。
「あまりの苦しみに私は叫んだ、いっそのこと殺して欲しい、そして夫と一緒に埋めるがいい」と。
お腹にいた娘はファウスタ、美しく成長し、彼女も母に歌で語りかける。まるでミュージカルのような感じがした。
苦しみの記憶と歌を残して、この世を去ってしまう・・・・。
ファウスタと、そして彼女と暮らす叔父家族は、彼女が“恐乳病”であると信じて疑わない。
「恐乳病」 耳慣れない病気だが、何でもアンデス系先住民の間で伝わる伝承であるらしい。
恐乳病→母親が体験した苦しみが母乳を通して子どもに伝わるという病気。ファウスタがすぐ鼻血を出して倒れるのも、独りでは歩けないのも、この病気がもたらす恐怖のためだと信じている。
医師は恐乳病を否定し、忠告するが、ファウスタは耳を貸さず・・・・。
実は彼女の体の奥には何とジャガイモがうずめられていたのだ。そのわけは、下劣な男たちから身を守るための盾であり、また彼女を閉じ込めるふたでもあった。
しかし長い間閉じ込められたじゃがいもは発芽し、ファウスタの両足の間からその芽が覗かせる。その度に彼女はその芽をハサミで切り取るのだった。
母の遺体を故郷の村に埋葬しようと決めたファウスタ。村までの交通費を稼ぐために待ちの裕福な女性ピアニストの屋敷でメイドを始める。
だが、娘の結婚が近付いた叔父は、式の日までに遺体を家から運び出さなければ、この土地に埋葬すると通告。
ちょうどその時、演奏会直前でスランプに陥ったピアニストが、ファウスタの口ずさむ歌に耳を止める。
彼女は、ネックレスの真珠一粒と引き換えに一曲を歌ってもらい、一連揃った時点でそれを与えるとファウスタに約束する。
ハイビスカスの花を口にくわえるファウスタ。
赤い花と娘のツーショットが何となく謎めいています。苛酷な現実ですが、この現実から離れた雰囲気が何とも言えず、、、、。
こうして、ピアニストのために歌う日々が始まる。
その一方で、ファウスタの周りには、その美しさに魅かれた男たちが近づいてくる。だが、ファウスタが家族以外で心を許せるのは、父親のような年齢の庭師ノエ(アフライン・ソリス)だけだった。
ファウスタにとってはやはり亡き父と重なるのかしら?とても包容力のある人に思えました。
真珠が残り一粒となったとき、ピアニストの演奏会が行われる。演奏会は好評だったが、彼女は約束を反古にする。
ファウスタは演奏会が上手くいったことを祝福したのにも拘わらず、何を思ったのか?突然彼女を路上で降ろしてしまう。
この突然の裏切りは彼女の心を再び閉ざしてしまうことになる・・・・。
屋敷に忍び込み、真珠を取り戻そうとするファウスタだったが、庭先で倒れてしまう。
ノエに優しく抱き起こされたファウスタは、彼の胸で泣きじゃくる。病院へ来た叔父は、「なぜ生きようとしない」と苛立ちを露わにする。
この事が彼女の気持ちに変化をもたらしたのか、自分の胎内にはびこってきたじゃがいもを取り除く決心をするのだ。
「人が言えないことも花は教えてくれる。茎は指紋と同じ。植物の命が入っている記憶装置だ。時々土は掘り起こして入れ替える。同じところに太陽が当たるとかさぶたみたいに土が固くなって、植物が乾いてしまう。」
ノエが話した植物の話、ファウスタの心に通じたのでしょうか。生きようと前向きに考え、同時にじゃがいもとの決別を考えたのもそうかもしれません。
作品紹介(goo映画より拝借)
2010年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるとともに、ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝くなど、世界各国から熱狂をもって迎えられた本作は、南米ペルーにおける歴史の傷跡を描くとともに、未来への希望を美しい映像に結実させた作品だ。母親の苦悩が母乳を通して子どもに伝染する「恐乳病」というペルーの言い伝えをもとに、ひとりの女性の運命が残酷ながらも感動的に描かれる
。監督のクラウディア・リョサは、2010年にノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサの姪にあたる。常に反独裁の旗印のもと、小説家、政治家として活動してきた叔父の影響だろうか、リョサ監督のペルー社会への真摯なまなざしが見て取れる一作だ。
クラウディア・リョサ監督
メディア |
映画 |
上映時間 |
97分 |
製作国 |
ペルー |
公開情報 |
劇場公開(東風) |
初公開年月 |
2011/04/02 |
ジャンル |
ドラマ |
ファウスタの歌に惹かれましたね・・・・。