第80回アカデミー賞 外国映画賞受賞作品
アカデミー賞受賞ということもあるので、他の映画紹介を飛ばしてこの作品のレビューを書く事にしました。2月5日、京都シネマにて鑑賞。平日にもかかわらず、大勢のお客さんなので驚きアカデミー賞にノミネートされていたこともあってかその辺はどうか分かりませんが・・・・。
まさか贋札偽造まで行われていたなんて、本当に驚きですナチス・ドイツで思い出すのは、アウシュビッツ強制収容所でのユダヤ人大量虐殺です。残虐なイメージが今も人々の脳裏にあるのではないでしょうか?
STORY
造らなければ死、造ればそれは家族や同胞への裏切り。
彼らの命をかけた選択とはーーーーー
映像は、第二次世界大戦終結直後のモナコ・モンテカルロから始まる。一流ホテルにみすぼらしいスーツを着ている男サロモン・ソロヴィッチ(カール・マルコヴィクス)が入ってくる。その手には札束が詰まったスーツケース。腕には強制収容所の囚人番号の刺青があった。
サロモン、通称サリーは贋札師だった。彼は秀でた腕を持ち、パスポートや紙幣などの偽造を行っていた。1936年のベルリン。このも商売に忙しい。捕まらないように、同じ場所には長く滞在しない今晩中にベルリンを発つ予定だったはずが、最後の客アグライアの美しさに惹かれ一晩ともにしてしまったサリーは、翌朝犯罪捜査局のヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)に捕らえられてしまう
サリーはマウトハウゼン強制収容所に送られた。彼はそこが犯罪者の送られる刑務所だと思っていた。ところがそうではないことにしばらくして気づく囚人たちは次々と組織的に殺されていくのだ。何とサリーも含めここに収容されているものは、皆ユダヤ人だったナチスによるホロコーストが始まっていた。
地獄のような日々の中、息抜きに描いたスケッチが親衛隊の隊長に気に入られ、サリーは彼らの肖像画やプロバガンダの壁画を描くお抱えのアーティストとなり、生き延びる。しかしある日ザクセンハウゼン強制収容所への移送が言い渡される。死を覚悟したサリーを待っていたのは、ベルリンで自分を捕らえたヘルツォークだったサリーを逮捕したことで、親衛隊に出世しており・・・・。いまや極秘任務を指揮する立場となっていた
その驚くべき任務とはイギリス経済に打撃を与える目的の「ベルンハルト作戦」 この作戦のため使用する完璧な贋ポンド紙幣を、特殊技術を持つ囚人を使って大量生産することだった。サリーは腕を見込まれて移送されたということなのである。。。。。
贋札工場はザクセンハウゼンの一般の囚人とは隔離された場所にあった。各地の収容所から集められた印刷や銅版画のプロ達が働いていた。
工場の様子
美しい♪が流れ、清潔でふかふかのベッド、温かい食事、まるで天国のような待遇これにはわけあり・・・・。作業するための者の士気を高め、完璧な仕事をさせるという目的である。もし任務が成功しなければ、作業員たちはガス室に送られるしかしたとえ任務が無事に終了した時も同じく死が待っていることは明白だった。
少しでも命を延ばすため、サリーは美術学校の教師コーリャ、印刷技術師のブルガーらとともに作業にとりかかった。完璧な贋ポンド札を完成させ、量産すること・・・・。
いくつかの困難な課題を乗り越え、サリーは卓越した技術で完璧なポンド紙幣を造り出す収容所にいる事を忘れるような日々が続く人を信用したことないサリーはブルガー(アウグスト・ディール)やコーリャ達仲間に心を許し始めいた。
しかしある日、アウシュビッツから資材として送られてきた古紙の中に仲間の一人ロセックの子供達のパスポートが見つかり、事態は急変それは子供達の死を意味していたこの出来事は彼らが考えないようにしていた現実を突きつけられることに
生き残るために、ナチスに協力していること、それがドイツの戦況を有利にし、家族や恋人、同胞たちが置かれている状況を悪化させているのだ
正義感の強いブルガーは、自分達が決起し、戦うべきだと協力を求める
しかしサリーは無駄死になると相手にしなかった。
ポンドの次はドル札の偽造だ
サリーに言い渡された新しい任務は贋ドルの製造。その印刷にはブルガーの持つ特別な技術が必要だった。しかし彼は「ナチの金は刷れない!」と拒否作業の妨害を始める。成果が上がらないことに痺れをきらせたヘルツォークは、あと4週間以内に出来上がらなかったら場合、ブルガーを含む5人銃殺すると宣告!
コーリャのために、ヘルツォークと取引をするサリー
ブルガーのことを密告すべきだと、サリーに詰め寄る作業員たち。誰だって死にたくないものね。仲間を売りたくないサリーは贋ドル札造りを、ブルガーなしで、寝る間もなく作業をし続ける。
コーリャは結核に冒されていた。薬がないと命が危ない状態に・・・・・。そこでヘルツォークに作業の取引の代わりに薬をもらう取引をする。それはヘルツォークと妻子のスイスのパスポートを偽造すること。戦況を不利と見たヘルツォークは国外逃亡を企てていたのだ。
いよいよ贋ドル札完成の期限が来た!!サリーは見事な贋ドル札を造り上げる。ヘルツォークとの取引にも成功。薬を手に入れたしかしコーリャの病気が親衛隊にばれてしまい、コーリャは感染防止のために銃殺されてしまう
数日後、親衛隊は作業を停止、全ての機材を運び始めた。すぐそこまで、連合軍が迫ってきていたからだ。親衛隊の兵士はすべて去った。その夜、ヘルツォークが工場に忍び込み、贋ドル札を取りに戻ってきたのだ。それを見つけたサリーは彼から銃を奪い、突きつけるコーリャの銃殺はヘルツォークの命令だと確信していた。引き金に指がかけられる・・・・・。
翌朝、固く閉ざされた工場の扉を破ったのは、連合軍ではなく収容所に囚われていた人々だった。サリーは扉の向こうの悲惨な現実に打ちのめされる彷徨いながら、歩いていく・・・・・。
再び映画の冒頭に・・・・。舞台はモンテカルロ、サリーはカジノで負け続け、持っていた札束を使い果たす。そして一人、美しいビーチへ・・・・。
ダンスを踊るサリー
レビューをほとんど書いてしまいました。この原作本を書いたアドルフ・ブルガー氏はこの映画の中にも登場しています。有能な印刷技術師だったそうです。何と現在91歳というご高齢です。一人でも多くの人に伝えることが自分の義務だと思い、生きておられるそうです。
この人がブルガー氏
1917年、スロバキア生まれ。印刷工・植字工として職業教育を受ける。42年アウシュビッツ強制収容所収監。44年ザクセンハウゼンへ移送され、「ベルンハルト作戦」に関わる。戦後はプラハに在住。72年以降、作家・ジャーナリストとして自らの収容所体験を語り始める。現在国際ザクセンハウゼン委員会のメンバーとして活動。彼の妻ギゼラは22歳の若さで、ガス室送りとなった。
監督 ステファン・ルツォヴィッキー、1961年ウィーン生まれ。業界の大御所たちが主催する映画コースやセミナーで演劇と歴史を学び、80年代前半には舞台演出家の傍ら、オーストリアの放送局ORFのためにラジオ劇の脚本家としてテレビ・CMそしてミュージカル・ビデオなどの仕事に携わる。96年「Tempo」(06・未)で長編映画デビュー。2作目「Die Siebtelbauern」(97・未)は世界50ヶ国でリリースされ、ロッテルダム国際映画祭のタイガー・アワードをはじめ、各国の映画祭で賞を獲得99年度米アカデミー賞・外国映画賞のオーストリア代表となっている。
ということで、今回はノミネートだけではなく、アカデミー賞外国映画賞をゲットしました
感想:ドイツという国は、非常に怖い国のように思います。「善き人のためのソナタ」も政治的背景が重くのしかかる作品でした。あのベルリンの壁崩壊直後まで、スパイ探しをするというのですから・・・・・。その状況はナチス・ドイツの頃から、変わっていないということなんですよね。まあドイツだけではないですが・・・・。ヨーロッパ全土には私たちが知らない驚くべき政治体制がはびこっているのだと思います。最近は政治的背景の強い映画の公開が多いですね。
※そういえば、サリー役の カール・マルコヴィクス、どこかジェイソン・ステイサムに似ていると思ったのですが・・・・。声もそっくりでした。と思うのは私だけでしょうか