すべての人々に捧げる 5人の鉄道員とその家族の物語
10月3日、京都シネマにて鑑賞。
朝10:00の1回上映ということで、慌てて行きました。来週は晩1回らしいので、金曜日何とか滑り込みして行ったようなわけです・・・・。朝から大勢のお客さんでした。知り合いの人に、タイトルを言うと、良いタイトルですね。うんそう言われてみると、何かカッコいいタイトルだなあと。邦題があまりよくないことが多いのでこれは珍しくマッチしているかもしれないです。
舞台は90年代のアルゼンチンです。アルゼンチンの歴史的背景は、あまり分かりませんので、少し文献などをひも解きお話したいと思います。86年に就任したメネム大統領は、新米的な立場から新自由主義を推し進め、規制緩和で外貨を呼び込むとともに、鉄道をはじめとして、石油、郵便、ガス、水道など、インフラまで次々と民営化して行きました。セイフティネットなき民営化で大量の失業者を排出し、95年には失業率20%まで上昇、一方で外資で潤う企業や実業家も増え、貧富の格差がどんどん開いたのです。その時代に、いくつも消えていった地方の小さな鉄道の町が舞台でなのです。日本も格差社会になってきていますよね。そういう意味ではこのお話と重なる部分もあります。自分の住んでいる国のことを改めて見つめなおす機会となった作品です。
ある日突然路線廃止のため失業した5人の鉄道員は、年代もバラバラで、それぞれが目の前の危機に対して違った行動をとります。
その1人目:あと2年で退職となるブラウリオ(ウリセス・ドゥモント)は、ただひとり、自主退職を拒否して、修理工場に住み着く。娘の彼氏も失業中で金の無心と思われるようなをかけてくる。理不尽な世の中に対する怒りを猫にぶつけるが・・・・・。
ブラウリオ
その2人目:親分肌のゴメス(オスカル・アレグレ)には30年も付き合っている○婦のカルメンがいる。だが自主退職したのち、その場しのぎの仕事しか見つからず、お金がないので彼女に会いに行けない。カルロスが出くわすと、唯一あった仕事がサンドイッチマンだったと話す。そんな天涯孤独のゴメスの心のよりどころはカルメン
ゴメス
その3人目:人の良いアティリオ(バンド・ビリャミル)は独り者。まわりが逡巡するなか、いち早く配送請負いの仕事を始める。仕事は思った以上に前途多難襲撃されたり、偽札を掴まされたり。瀟洒なに大きな新品のテレビを運ぶと、そこにいたのは、元労働組合代表のアントニオだった。交換したテレビをもらったが、後で真相がわかり、“おれたちを騙した”と言いテレビを投げつけるアティリオ。
アティリオ
その4人目:妻と娘の3人家族のカルロス(ダリオ・グランディネッティ)は15歳から鉄道員として働いてきた、鉄道員ひと筋の男。
仕事も見つからず、ずっと水漏れがしているトイレの配管の修理を始める家は立ち退きを迫られている。マルチ商法の健康食品販売の話を聞きにいくが納得できず。「本物の仕事がしたいだけだ」と外へ出てしまう。そのとき、ゴメスと出会う。
カルロス
鉄道員として働いていた頃のカルロス
妻との関係の修復も・・・・?
その5人目:病気の幼い息子を持つ若いダニエル(パブロ・ラゴ)は子どもの名づけ親カロイエロから職を紹介してもらうため、拳銃の使い方を練習する。幼い息子は喘息だった。仕事がなくなったことで、妻との仲もギクシャクしている。妻が両親の元へ金を借りに行かなければ、子どもの治療費も支払えない状況だったことから、自主退職届けにサインしてしまう。拳銃の訓練は妻には内緒である。
ダニエル
この5人の他に、最後まで労使交渉を続けた果てに○殺したカルロスの弟アンヘルがいる。アンヘルの息子アベルとカルロスの娘ラウラ(いとこ同志)、そしてラウラのボーイフレンド、ホアンの3人が雨の中を走るシーンからこの映画は始まる。走る意味はラストで分かるようになっている。3人は冒頭でのシーンと列車の荷台話すシーンのみだが、アベルのナレーションと父アンヘルの遺書が全編を通して語られる。アベルの父への想いが伝わってくる。
「父は臆病だったのか?」 「運命を変えられないのか?」というアベルの心情である。それはトイレの配管工事を始めるカルロスと働く母スサーナ(メルセデス・モラーン)のぎくしゃくした夫婦関係のクッションとなっている娘ラウラや幼い頃に機関車に乗ったホアンともに共有されている。
アベル(右)、ラウラ(真ん中)、ホアン(左)
希望もなく、出口が見えない状況の中で、ゴメスが犯罪に手を出す。マスコミの注目が集まった。アベルは決心する今夜こそ行動に移すべきだと・・・・。それは、誰もが予測しなかった光景だった。大人たちがやろうとしなかったことを・・・・。
ゴメスのことを聞いたカルロスは、いたたまれず、テレビに出て話し始める。鉄道員にとって、鉄道がなくなることは絶望することだと・・・・・。
そしてアベル、ラウラ、ホアンの3人は実行した。それを見る大人たちの顔、顔、顔。まるで町全体がひとつになって、誇りを取り戻したかのようだ。もちろんこれで、すべてが変るほど現実は甘くない。
だが失業によって奪われた自尊心を取り戻す事、鉄道員として、その家族としての誇りを取り戻すことで“次の出口”へと戦っていく準備が初めて出来るのだ。
列車は走り出した。子どもたち3人の力によって・・・・・。列車の窓に飾られた写真は、アベルの父と唯一ひとり抵抗していたブラウリオの写真です。父が見えなかった出口を息子が探すという構図だそうです。(監督の構想らしい)
ガス欠となったアティリオの車、ガソリンを入れる際、ガソリンの引火によって炎上 そのとき、立ち尽くす彼が見た光景は?
夜の町を列車が走っている姿でした。
アティリオは途中ガソリンがなくなり、ブラウリオに助けを求め、修理工場に行きます。そこで目にしたのは、倒れているブラウリオの姿でした。すでに息はありませんでした
犯罪に手を染めたゴメスは包囲されたその近くに警備員となったダニエルが隠れていました。同じ仕事仲間が相反する立場となって遭遇するとは、何とも皮肉な話です。そのゴメス、警官の手によって
そんな夜の闇の中を列車は走るのです。闇の向こうに希望の出口を見つけるために・・・・・。
大人が出来ないことを子どもたちがやった とにかく行動を起したのだその先はどうなるのか?分からないけど、とにかく何かやらないと前には進まないということだと思う。多くの働く皆さんにぜひご覧いただきたいと思いますね。日本も派遣雇用やアルバイト、日雇い派遣等が増えて、安定した職がなくなりつつあります。そういう状況は日本の裏側、アルゼンチンでも同じです。この映画を観て多くの人が元気をもらえたらいいなと思います。
監督: | ニコラス・トゥオッツォ |
アルゼンチンでの映画製作の現状は、アルゼンチン国立映画協会が承認してくれれば、年間80本の映画に対して制作費の50%まで助成があるそうです。問題は配給と上映。スクリーンの80%がハリウッド映画の大作にかけるから、残りの20%がヨーロッパやアジア、アルゼンチン映画の分らしい。制作費で手一杯というのが現状なので、ハリウッドには立ちうち出来ないとのこと。厳しい現実ですよね。
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