「サッチモ」ことルイ・アームストロングが1964年に歌った「ハロー・ドーリー」のヒットに気を良くしたか、再びサッチモによるポピュラー・ヒットを狙ったプロデューサーのボブ・シールが1967年に作曲(作曲者のジョージ・ダグラスはシールのペンネーム)したのが、サッチモの数あるレパートリーの中でもたいへん有名な「この素晴らしき世界」です。
「ハロー・ドーリー」のように、全米No.1とはいきませんでしたが、ビルボードのアダルト・コンテンポラリー・チャートで最高12位、全英チャートには29週ランク・インし、4週連続1位となりました。
1987年には、ロビン・ウィリアムス主演の映画「グッド・モーニング・ヴェトナム」で使われて火がつき、ビルボードで32位まで上がったのを始めとしてオーストラリアとベルギーのウルトラトップ30で1位、オランダのメディアマーケットで2位、ニュージーランドで8位となるなど、サッチモの死後16年目にして、彼最大のヒット曲となりました。
また、日本ではホンダをはじめ、再三に渡っていろんなCMに使われているので、この曲をご存知の方も多いと思います。
サッチモ独特のダミ声と、優しい温もりのある歌詞が胸に響く名曲です。8分の12拍子の、いわゆる3連ノリの曲ですが、リズム&ブルーズのように重く粘っこいリズムではなく、サラリとした3連です。
歌も、力コブを入れて歌っているのではなくて、ふと今までの人生を振り返ったサッチモが、「良い人生だったよ」と呟いているかのような雰囲気です。
静かなアレンジのストリングスがサッチモの声と対照的ですね。
語りかけるようなサッチモの歌は慈愛に満ちていて、英語が分からないぼくの胸も、感動の波に洗われます。
1970年、サッチモの70歳を祝って、彼のこれまでの業績の集大成として1枚のアルバムが収録されることになりました。その時に集まった大勢の後輩たちを前にして、サッチモは「この素晴らしき世界」のイントロでスピーチを始めました。
「君達若い連中の中にはオレにこう言ってくる者もいる
『オヤジさん、"素晴らしき世界"ってどういう意味なんですか?
世界中で起こっている戦争も素晴らしいのですか?
飢餓や汚染はどこが素晴らしいのですか?』
だけど、このオヤジの言うことも聞いてみないかい
オレには、世界はそんなに悪くない、と思えるんだ
オレが言いたいのはね
世界は素晴らしくなる、そう思って行動すればってこと
愛だよ、愛。それが秘訣さ
もっともっとオレ達が愛し合えば問題も減るし
世界はとびきりいいところになるんだ
それがこのオヤジのずっと言っていることなんだ」
これが、この曲に込められたサッチモの思いなんですね。
ぼくが尊敬している名テナー・サックス奏者の故・津田清さんは、好んで「この素晴らしき世界」をステージで演奏していました。津田さんの吹くサックスもとても優しくて、まさしく「この世界はなんて素晴らしいんや、なあ、分かるか」と語りかけられているような音色だったのを覚えています。
Louis Armstrong 『What a Wonderful World』
この曲を取り上げるミュージシャンもたいへん多いです。ジャズメンに限らず、ロック、ポップス、R&Bなど、ジャンルを越えて愛されています。有名なところでは、トニー・ベネット、B.B.キング、ロッド・スチュアート、サラ・ブライトマン、トゥーツ・シールマンスなどの名が挙げられます。日本でも本田美奈子、渡辺美里、中島美嘉、槙原敬之らが自分のCDの中でこの曲を歌っています。
レコーディングはしていないけれどもステージでは歌っている、という人も少なからずいますね。
[歌 詞]
[大 意]
木々は緑に輝き赤いバラは美しく どれも私たちの為に 咲いている
そしてふと思う なんて世界は素晴らしいんだ
どこまでも青い空と真っ白な雲 光りあふれる日と聖なる夜
そしてふと思う なんて世界は素晴らしいんだ
七色の虹は美しく輝き 行きかう人々の顔も輝いている
友だちが手を取り合い 挨拶をかわし 「愛してる」と言っている
赤ん坊は泣き やがて育っていく きっとたくさんの事を学びながら
そしてふと思う なんて世界は素晴らしいんだ
◆この素晴らしき世界/What A Wonderful World
■歌
ルイ・アームストロング/Louis Armstrong
■シングル・リリース
1967年
■収録アルバム
What a Wonderful World (1968年)
■作詞
ジョージ・デヴィッド・ワイス/George David Weiss
■作曲
ジョージ・ダグラス(=ボブ・シール)/George Douglas (Bob Thiele)
■プロデュース
ボブ・シール/Bob Thiele
■チャート最高位
1967年週間チャート アメリカ(ビルボード)116位、アメリカ(ビルボード・アダルト・コンテンポラリー・チャート)12位、イギリス1位
1988年週間チャート アメリカ(ビルボード)32位、アメリカ(ビルボード・アダルト・コンテンポラリー・チャート)7位
ルイ・アームストロング『この素晴らしき世界』