1960年代のディープ・パープルは、「イギリスのヴァニラ・ファッジ」と例えられていたように、アート・ロックとかニュー・ロックなどと呼ばれた一群にカテゴライズされていました。このオルガン主体のサウンドを押し進め、クラシックとの融合をさらなるものにしてゆきたい、と考えていたのがジョン・ロードです。しかしリッチー・ブラックモアは「サウンドをハードなロックにシフトしたい」と強く主張し、「アルバム1枚だけ自分の好きなようにやってみて、ファンの反応を見たい」と提案しました。その提案が受け入れられて制作されたのが「ディープ・パープル・イン・ロック」です。
リッチーとジョンの2本の柱が音楽的に対立したわけですが、よくこの時にバンドが分裂しなかったなあ、というのが正直な感想です。「音楽観の違い」という理由だけで解散に追い込まれるバンドはたいへん多いのですから。
結果から言うと、リッチーの志向はロック・ファンに大いに受け入れられました。この「イン・ロック」は全英チャート最高4位、同トップ10に26週もランクされるという大ヒットを記録したのです。
バンドの勢いといい、テクニックといい、文句のつけようがないと思います。それに加えて注目されるのが曲の良さです。
「安定」とか「成熟」などの言葉の対極にある、若々しくて尖がった激しさがアルバム全体を貫いています。
荒削りながら全編通して感じられるテンションの高さや、ハードでギラギラしたリッチーのギターがとりわけ目立つ、ハード・ロック史上に残る名作のひとつではないでしょうか。
このアルバムから新加入したイアン・ギランの、パワフルなヴォーカルもリッチーの志向にぴったりとマッチしていて、リッチーのハード・ロック志向をより押し進める役割を果たしているようです。
イントロからパワー全開の衝撃的ナンバー「スピード・キング」は、いわばハード・ロックに進路を変更したパープルからのアツい挨拶、とも言えるでしょう。曲途中で聴かれるギター・ソロ、オルガン・ソロのバトルと、その後のリッチーのギター・ソロは聴き物です。イアン・ギランのハイ・トーンでのシャウトもカッコいいですね。この曲は、パープルのライヴでの重要なレパートリーのひとつです。
リッチーのリフがぐいぐい曲を引っ張る「ブラッドサッカー」では、交互に入れ替わるギターとオルガンのソロ交換にも耳を奪われます。
「チャイルド・イン・タイム」はレッド・ツェッペリンの「天国への階段」にも匹敵する名曲だと思います。10分以上の大作で、曲の展開がとてもドラマティック。イアン・ギランの真っ向から聴かせてくれるメタリックなシャウトと、リッチーの鬼気迫るギター・ソロも圧巻です。
ギターとオルガンの重なったヘヴィーなリフを持つ「イントゥ・ザ・ファイア」もライヴでよく取り上げられるナンバーです。
リッチー・ブラックモアは、自分の進みたい方向にバンドを導き、それがさらには各メンバーの最良の状態を引き出すことに繋がっているようです。
どのアルバムよりもアグレッシヴなリッチーのギター、パワフルでエモーショナルなイアン・ギランのヴォーカル、ツボを心得たイアン・ペイスのドラム、クラシカルな響きでハードなプレイから堅実なバッキングまでこなすジョンのオルガン、安定してボトムを支えるロジャーのベース、そしてまるでライヴを思わせるようなパワフルで荒々しいサウンド、これぞまさしくハード・ロックだと言えるでしょう。
◆ディープ・パープル・イン・ロック/Deep Purple In Rock
■歌・演奏
ディープ・パープル/Deep Purple
■リリース
1970年6月3日
■プロデュース
ディープ・パープル/Deep Purple
■収録曲
【Side-A】
① スピード・キング/Speed King
② ブラッドサッカー/Bloodsucker
③ チャイルド・イン・タイム/Child in Time
【Side-B】
④ フライト・オブ・ザ・ラット/Flight of the Rat
⑤ イントゥ・ザ・ファイア/Into the Fire
⑥ リヴィング・レック/Living Wreck
⑦ ハード・ラヴィン・マン/Hard Lovin' Man
*All Tracks Written By Blackmore-Gillan-Glover-Lord-Paice
■録音メンバー
☆ディープ・パープル/Deep Purple
イアン・ギラン/Ian Gillan (vocal)
リッチー・ブラックモア/Ritchie Blackmore (guitar)
ジョン・ロード/Jon Lord (keyboards)
ロジャー・グローヴァー/Roger Glover (bass)
イアン・ペイス/Ian Paice (drums)
■チャート最高位
1970年週間チャート アメリカ(ビルボード)143位、イギリス4位、日本(オリコン)68位