レコードの時代からコンパクト・ディスクの時代へ移っていった1980年代、その時点で400枚以上のLPレコードを持っていたぼくは、その大半を中古専門店に持ち込んで処分してしまいました。
「もうCDに買い換えたから必要ない」と割り切ってしまったのですが(今考えると、もったいないことをした、という気持ちです)、「CDが出たらまた買えばいい」と判断して処分したものもたくさんありました。その中にはスリー・ドッグ・ナイトのオリジナル・アルバムも5、6枚含まれていたはずです。
一時はとても大きな人気を誇ったバンドだったので、すぐCD化されると思ったのが大きな間違いでした。待っても待っても復刻される気配はなく、ようやく見つけたのがこのベスト・アルバムでした。その間、辛うじて所持していたベスト・アルバム2枚とライヴ・アルバムをレコードで聴いてしのいでいたわけです。
スリー・ドッグ・ナイトはぼくが大好きなアメリカン・ロック・バンドのひとつです。リズム&ブルーズをベースに、高度なアレンジと演奏力で次々と名曲を発表、一時はヒット・パレードの常連でした。
リリースしたシングル23枚、うちTop50以内が21枚、Top30以内が19枚、そして全米1位3曲を含む10枚がTop10にランクされています。ミリオン・セラーは7曲です。
また、発表したオリジナル・アルバム14枚のうち、Top30以内が12枚、Top10以内が5枚と、アルバム・セールスでも抜群の好成績を誇っています。
このバンドの特徴は、何といっても3人のヴォーカリストを擁していたことでしょう。それぞれがリード・ヴォーカルを取れる力の持ち主で、黒人音楽に傾倒していました。とくにチャック・ネグロンはその芸名からわかる通り、ニグロ、つまり黒人への憧れをオープンにしていたようです。実際、彼のヴォーカル・スタイルは、まるで黒人シンガーが歌っているのかと思わせられるほど黒っぽいものです。
このベスト・アルバムには20曲が収録されていますが、いずれもシングル・カットされたもの。とくに日本で人気の高かった「喜びの世界」「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」をはじめ、「ワン」「イーライズ・カミング」「ママ・トールド・ミー」など、数々のヒット曲が収められています。
中でもぼくが好きなのは、オーティス・レディングのアレンジを踏襲した「トライ・ア・リトル・テンダーネス」です。この曲でリード・ヴォーカルを取るコリー・ウェルズの異様な黒っぽさと演奏は、オーティス版に勝るとも劣らないエモーショナルかつスリリングな出来栄えだと思います。
また、コリーの黒っぽいヴォーカルの中では、ブルーズの「ネヴァー・ビーン・トゥ・スペイン」などもとても気に入ってます。
奇異なのは、これらのヒット曲はすべてカヴァーであることです。でも、逆に言うと、無名でも大いなる可能性を秘めた曲を掘り起こす眼力があった、ということでしょうね。
これだけヒット曲を持つバンドのアルバムがなかなか再発されなかったのは不思議です。版権の関係か何かでしょうか。現在では何タイトルか復刻されているみたいですね。
「スリー・ドッグ・ナイト」という一風変わったバンド名ですが、これは「寒い夜は三匹の犬と寝るとよい」というオーストラリアの原住民の言い伝えに由来したものだそうですね。
スリー・ドッグ・ナイトはいったん1977年にいったん解散しましたが、1983年に再結成。現在はダニー・ハットンとコリー・ウェルズを中心に、おもにライヴで活動しているようです。
◆ベスト・オブ・スリー・ドッグ・ナイト/The Best Of Three Dog Night
■歌・演奏
スリー・ドッグ・ナイト/Three Dog Night
■リリース
1982年
■プロデュース
リチャード・ポドラー、ガブリエル・メクラー、ジミー・イエナー/Richard Podolor, Gabriel Mekler, Jimmy Ienner
■収録曲
① 喜びの世界/Joy to the World (Hoyt Axton)
② イージー・トゥ・ビー・ハード/Easy to Be Hard (Galt MacDermot, James Rado, Gerome Ragni)
③ ファミリー・オブ・マン/The Family of Man (Jack Cnrad, Paul Williams)
④ 人生なんてそんなものさ/Sure As I'm Sittin' Here (John Hiatt)
⑤ オールド・ファッションド・ラヴ・ソング/An Old Fashioned Love Song (Paul Williams)
⑥ ママ・トールド・ミー/Mama Told Me(Not to Come) (Randy Newman)
⑦ トライ・ア・リトル・テンダネス/Try a Little Tenderness (Jimmy Campbell, Reginald Connelly, Harry Woods)
⑧ シャンバラ/Shambala (Daniel Moore)
⑨ レット・ミー・セレナーデ・ユー/Let Me Serenade You (John Finely)
⑩ ネヴァー・ビーン・トゥ・スペイン/Never Been to Spain (Hoyt Axton)
⑪ ブラック & ホワイト/Black and White (David l. Arkin, Earl Robinson)
⑫ ピース・オブ・エイプリル/Pieces of April (Dave Loggins)
⑬ ライアー/Liar (Russ Ballard)
⑭ アウト・イン・ザ・カントリー/Out in the Country (Roger Nichols, Paul Williams)
⑮ ショウ・マスト・ゴー・オン/The Show Must Go On (David Courtney, Leo Sayer)
⑯ イーライズ・カミング/Eli's Coming (Laura Nyro)
⑰ ワン・マン・バンド/One Man Band (Billy Fox, January Tyme, Tommy Kaye)
⑱ ワン/One (Harry Nilsson)
⑲ ブリックヤード・ブルース/Play Something Sweet (Brickyard Blues) (Allen Toussaint)
⑳ セレブレイト/Celebrate (Gary Bonner, Alan Gordon)
■録音メンバー
ダニー・ハットン/Danny Hutton (vocals)
チャック・ネグロン/Chuck Negron (vocals)
コリー・ウェルズ/Cory Wells (vocals)
マイク・オールサップ/Mike Allsup (guitar)
ジミー・グリーンスプーン/Jimmy Greenspoon (keyboards ①~③,⑤~⑱,⑳)
スキップ・コンテ/Skip Konte (keyboards ④⑲)
ジョー・シャーミー/Joe Schermie (bass ①~③,⑤~⑦,⑩~⑭,⑯~⑱,⑳)
ジャック・ライランド/Jack Ryland (bass ④⑧⑨⑮⑲)
フロイド・スニード/Floyd Sneed (drums, percussions)