ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

追跡 (Chase)

2007年07月02日 | 名盤

 
 1960年代後半から70年代初頭にかけて「ブラス・ロック」というジャンルにスポット・ライトがあたりました。シカゴやブラッド・スウェット&ティアーズを筆頭に、ライトハウス、ドリームス、フロックなどといった、ホーン・セクションを従えたバンドが次々と登場しました。
 チェイスのデビューは、ブラス・ロック・ブームがピークを過ぎた1971年ですが、ジャズ側からブラス・ロック(あるいはジャズ・ロック)にアプローチした彼らのユニークなサウンドは、ロック界に大きなインパクトを残しました。


     
     ビル・チェイス
 
 
 グループの特徴は、なんといってもトランペットのみ4本という特異な編成のホーン・セクションを擁していたことでしょう。4本のトランペットからなるアンサンブルは、パワフルで切れ味鋭いサウンドを生んでいます。このホーン・セクションは、ロックの伴奏のために存在しているのではなくて、ホーンのアンサンブルそのものを聴かせるためのものだと思います。
 リーダーのビル・チェイスは、ウディ・ハーマン・オーケストラやスタン・ケントン・オーケストラなどで活躍してきました。そのためホーン・セクションにはビッグ・バンドならではのアレンジが施されています。とくに高音でキメる16分音符を生かしたリフはダイナミックそのもの。手に汗にぎるような興奮が味わえます。
 
 
 トランペット隊の高音部での鋭いサウンドに対して、ギター、オルガン、ベースは主に中・低音部分を担い、トータルなサウンドをバランス良いものに仕立てあげています。とくに、オルガンの繰り出すフレーズは、ジャジーな雰囲気を醸し出しています。
 またベースは、当時としては驚異的テクニックを誇っており、よく動くそのラインはドラムと共に生きたビートを生み出すことに貢献しています。


     


 彼らの1971年のデビュー・アルバムが「追跡/Chase」です。
 1曲目の「オープン・アップ・ワイド」から全力で飛ばしています。曲はビル・チェイスの出すハイ・ノートで幕を開け、トランペット4本のアンサンブルが16ビートに乗ってぐいぐいと曲を引っ張ります。まさにトランペット・"チェイス"。
 2曲目からはファンキーなビートの「ジョージアの夏」、テンポの速い16ビートに乗った疾走感あふれる「いかした女」、マンフレッド・マンのカヴァーの「ハンドバッグと正装」と続きます。
 そして、5曲目が有名な「黒い炎」です。ちょうどこの頃、T.REXが同名のシングルを出していましたが、チェイスのレコードに食われることを懸念したT.REX側が、タイトルをすぐに「Bang A Gong」に変えています。この曲は、オルガン・ギター・ベースが作る低音部のリフに、トランペットの歯切れ良い高音部でのリフが呼応した、とてもイカしたサウンドを持っています。間奏部はトランペット4本という特異性をうまく利用したアレンジになっています。


     


 「ボーイズ・アンド・ガールズ」では、間奏部のビル・チェイスによるハイ・ノートのアドリブが光っています。
 ラストを飾るのが、組曲形式で演奏される「炎の流れ」です。セカンド・アルバムでも組曲を披露していますが、このあたりは当時のアート・ロックやプログレッシヴ・ロックの大作主義の影響でしょうか。


 チェイスは1972年にいったん解散しますが、74年に再結成します。
 精力的にツアーを続けていた同年8月9日、グループの専用機が折からの悪天候のため視界不良に陥り墜落、ビル・チェイスら4人のメンバーが死亡しました。他のメンバーはバスで移動中だったために難を逃れました。
 残ったメンバーはのち「サヴァイヴァー(生存者)」というバンドを結成、1982年には映画「ロッキー3」の主題曲「アイ・オブ・ザ・タイガー」を大ヒットさせましたが、その時には元チェイスのメンバーはバンドには残っていませんでした。



◆追跡/Chase
  ■歌・演奏
    チェイス/Chase
  ■リリース
    1971年4月
  ■プロデュース
    フランク・ランド、ボブ・デストッキ/Frank Rand, Bob Destocki
  ■録音メンバー
    ビル・チェイス/Bill Chase (lead & solo trumpet)
    テッド・ピアースフィールド/Ted Piercefield (trumpet, lead-vocal④⑥)
    アラン・ウェア/Alan Ware (trumpet)
    ジェリー・ヴァン・ブレアー/Jerry Van Blair (trumpet, lead-vocal③)
    フィル・ポーター/Phil Porter (keyboards)
    デニス・キース・ジョンソン/Dennis Keith Johnson (bass, vocals)
    エンジェル・サウス/Angel South (guitar, vocals)
    ジェイ・バリッド/Jay Burrid (drums, percussion)
    テリー・リチャーズ/Terry Richards (lead-vocals except③④⑥)
  ■収録曲
    ① オープン・アップ・ワイド/Open Up Wide (Bill Chase)
    ② ジョージアの夏/Livin' In Heart (B. Hall, R. Turner, M. Walker)
    ③ いかした女/Hello Groceries (D. O'Rourke)
    ④ ハンドバッグと正装/Handbags and Gladrags (Mike d'Abo)
    ⑤ 黒い炎/Get It On (B. Chase, Terry Richards)
    ⑥ ボーイズ・アンド・ガールズ/Boys and Girls Together (Jim Peterik)
    ⑦ 組曲「炎の流れ」/Invitation to a River
      a)  トゥー・マインズ・ミート/Two Minds Meet (L. Raub, B. Chase)
      b)  ステイ/Stay (L. Raub, B. Chase)
      c)  ペイント・イット・サッド/Paint It Sad (L. Raub, B. Chase)
      d)  リフレクションズ/Reflections (B. Chase)
      e)  リヴァー/River (T. Richards, B. Chase)
  ■チャート最高位
    1971年週間チャート  アメリカ(ビルボード)22位
    1971年年間チャート  アメリカ(ビルボード)99位



コメント (8)
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