おさがしの本は | |
門井 慶喜 | |
光文社 |
近頃は若い人の本離れが言われているし、電子書籍に移る人もいるようです。でも、
私などそれこそ電話帳でもいいから文字を見ていないと落ち着かない方なので、図
書館は必須です。この頃はオンラインで本を予約できる公共図書館は大助かりです。
最近図書館なんか要らないという無用論と、究極の図書館とでも言うべきアメリカ
の荷馬図書館員の絵本と、全く正反対の図書館に関する本を続けて読みました。
『おさがしの本は』は、図書館なんか税金の無駄使いだ、市の財政逼迫の折り、一番
に廃止すべき施設だと言う考えの図書館長(そんな人が図書館長だということ自体が
矛盾ですが)の下、必死で図書館を守ろうとする図書館員のお話です。今の時代に、
そんなことってあるのかしらと思いますが、予算を削ろうとすれば、直接役に立って
いるのか、いないのか分からない文化施設からってことはありえますね。結局図
書館は存続するのですが、それもいつどうなるやら分からないと言う不安な状態で
話は終わっています。
ぼくのブック・ウーマン | |
デイビッド スモール,Heather Henson,David Small,藤原 宏之 | |
さえら書房 |
それに対して、この絵本は頼まれもしないのに、本をごっそりもってアメリカの僻地を
馬で回った図書館員の話です。ルーズベルト大統領がニューディール政策の失業者
対策として始めたという実話で、大抵が女性でブック・ウーマンとよばれていたとか。
雨が降ろうが雪が降ろうが、どんな険しい山の中だろうが、荒野だろうが、定期的に
無償で僻地の孤立した家々に本を届け続け、また回収し、新しい本を届けという作
業をしたそうです。本なんか大嫌いだった男の子が、おせっかいなほどのブック・ウ
ーマンの熱意に少しずつ読み始め、ついには本が大好きになります。学校にも通え
ない僻地での唯一の教育手段だったわけです。今ではもちろん、車の移動図書館に
なっていますが、やはりアメリカ中の遠隔 地をあちこち巡っているということです。
『ぼくのブック・ウーマン』は、その様子がヘザー・ヘンソンのさっぱりした文章と、
デービッド・スモールのひょうひょうとした絵で描かれた感動的な絵本です。
国も違い、時代も社会制度も違うし、問題のとらえ方もちがうけれど、どちらの本も、
人間が作った文字、しいては本というものに対する深い愛情が感じられる作品です。