キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

フィデルマとカドフェル

2012-08-29 15:14:22 | 
修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)
甲斐 萬里江
東京創元社

       ピーター・トレメインの修道女フィデルマ・シリーズは数冊出ていますが、

       どれも手に汗握る時代浪漫活劇的推理小説です。時代背景やその頃のヨ

       ーロッパの状況、宗教事情がよくわかるし、神秘的で魔的なケルトの世界

       に足を踏み入れる一種の怖さとワクワク感があります。もっともキリスト教

       の教義に関する宗教論争を理解するのは、異教徒の私には少々荷が重く、

       適当に読み飛ばしていますが。

       紀元7世紀のアイルランド、美しい修道女フィデルマは国の上級法廷弁護士

       であり、モアン王の王妹でもあります。ラテン語、ギリシャ語は言うの及ばず、

       昔のケルトの言葉オガム文字なるものにまで通じている学識深く、才気煥発、

       俊敏かつ冷静沈着。要するにスーパーウーマンです。アイルランドは聖パト

       リックの布教以来、急速にキリスト教化しますが、ケルト的要素を多分に残

       した独自のキリスト教を形成しました。ローマやサクソンの国々と異なり、

       女性の社会的地位が高いのが特徴で、フィデルマが縦横無尽に活躍するの

       もこの時代のアイルランドでは、それほど奇異なことではなかったようです。

       
修道士カドフェル・シリーズ DVD-BOX
デレク・ジャコビ,グレアム・ヒークストン,ピーター・コブリー
日本クラウン

       こちらの修道士カドフェルのシリーズは12世紀、ウエールズに近いイングラン

       ドのシュルーズベリの大修道院が舞台です。十字軍にも参加し、波乱万丈の

       人生を送ってきたカドフェルが、修道院に入り、薬草造りに勤しむ傍ら、周囲

       で起こる難事件を経験と人間味あふれる叡智で、バッタバッタと解決します。

       これはもう何十冊も出ている大人気シリーズで、ドラマにもなっています。

       美貌のフィデルマとは違い、冴えない初老の修道士が主人公ですが、彼を

       取り巻く様々な人々の人間的な弱さや愚かしさ、また高貴さがユーモアを

       こめて描かれています。これもまた歴史娯楽推理小説ですが、フィデルマ

       の時代の5世紀も後のことで、ローマン・カトリックの影響がさらに浸透して

       いますが、ウェールズ地方には未だケルトの文化風習が色濃く残っている

       ようで、フィデルマものを読む時と同じ不思議な魅力を感じます。

       

       遠い異国の、時代も違い宗教にも馴染みのない土地の話に、どうしてこう

       も惹かれるのか?ピーター・トレメインとエリス・ピーターズという、キリスト

       第一の弟子ペテロに縁の名を持つ二人のケルト人作家の修道女、修道士

       を主人公とする小説は、今なぜか私の心を捉えて離しません。
コメント
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