渋谷の文化村へ「フェルメールからのラブレター展」を見に行きました。
フェルメールの絵は三点だけで(全部で三十五点ほどしかないので、十分
の一は来ているわけですが)、他に同時代のオランダ画家の絵がた
くさんありました。大変な混みようで、なかなか絵の前へ行けず、い
つものことですが、こういう有名な人の絵が来たときの展覧会で感
動よりストレスを感じて帰ってくるのですが、今回もそうでした。
でもまた行くんですよね。
この青い服の妊婦が手紙を読んでいる絵も来ていました。他の二点も
手紙を読んでいるか、書いているか。他の画家の作品も手紙にまつわ
るものが多くありました。「フェルメールからのラブレター展」とい
うタイトルどおりです。彼の時代のオランダでは、手紙を書くのが
本当に流行っていたようです。手紙の書き方のハウツー本まで出て
いたらしい。日本の平安時代の歌文のやりとりなんかもそうですが、
風情がありますね。絵になります。メールやツィッターも便利でいい
けれど。
フェルメールに興味を持ったのは、英国の作家
トレーシー・シュヴァ
リエの『
真珠の耳飾りの少女』を読んでから。グリートという貧しい
タイル職人の娘が、フェルメール家の小間使いになり、この真珠の
少女のモデルになるという設定です。全くの史実かと思うけれど、フ
ィクションなんですよね。フェルメールの家庭の様子やデルフトの町
の描写などが、本当に見てきたかのように生き生きと描かれていま
す。最初から引き込まれ、英語でも日本語でも一気に読んでしまいま
した。その後、スカーレット・ヨハンソン主演の映画も見ました。絵
はオランダのマウリッツハイス美術館にあるそうです。「北のモナ・
リザ」なんて呼ばれているとか。想像力をかきたてられる絵です。
その時読んだトレーシー・シュヴァリエのすばらしい文体と想像力、
構成力に感服して、彼女のまだ邦訳の出ていなかった『天使が堕ちる
とき』を翻訳出版しました。19世紀から20世紀にかけて、自立を目指
してもがき苦しみ、非業の死を遂げた女性の物語です。地味だけれど
味わいのある作品でした。でも まったく売れなかった。残念!