
「中高生のための鑑賞会」(2016.3.19)in 下関市立美術館 後半の後半編
縁あって下関市内の中高生と一緒に美術館内の作品鑑賞を行い、グループワークショックに参加することで、一段と下関市立美術館の収蔵作品の面白さを堪能できたと思います。
この日の午前中の出来事は、とても楽しい時間だったので、ぜひとも、多くの人たちにも知ってほしいという高揚感から、つい長くなってしまいました。
その場で発された言葉を短くメモして記憶とつないで、あの躍動感を!と再現を試みてはおりますが、言葉をはじめとする他者の表現に自分の独断も添えられたものが、このように文字になって発信されることには、慎重にならなければとも思います。報告者の私の独断が付加されたものであることを前提に、学生さんと会話や活動の様子、レクチャー内容をお受け取ください。
さて、丁寧に、慎重に取り扱わねばと危惧するところではありますが、繊細で力強い若い人たちに出会えると、すっかり幸せな気持ちになります。得難く貴重な体験はなるべく詳細に覚書しておきたくもあり、何かのお役に立てるよい機会になるよう試みたく思います。
北野研究員のレクチャーの後に出されたミッションは、美術館に展示されている作品から気になる一点を決めて、講義室に戻り、その作品の魅力をいかに語れるかという勝負の世界。午後からの大人の反省会で、この活動はブラインド・トークの応用編だと思ったと指摘された先生もおられました。
私は、狩野芳崖の絵巻や、フジタの秋田の娘、岸田劉生のゆらりと立歩く麗子さんの絵が、気になる作品ベスト3だなーと、巡回。実はあんまり、後ほどグループに参加する気もなく、下関市立美術館って、こんなおもしろい作品があるのかぁと改めて感心するばかりで、また、参加している生徒の皆さんの様子も垣間見ては、熱心に見ているなぁと感激しながら、ぐるぐるふらふらと、三周くらい。
講座室に戻り、座席順に1から10までを順にカウントし、例えば「8」と言った人同士が同じグループとして集い、10グループが決まりました。私は「3」とカウントした者同士のグループで、私を含めて5名が、講義室の隅に椅子を並べ、円になりました。自己紹介をして、商業高校2年生、中等学校中等部1年生、市立中学校2年生と1年生ということが明らかになり、さて、誰から発表しますか?と投げかけたところ、しばしの沈黙の後に、私の右側の学生が、そっと手を挙げ、トップバッターを務めてくれました。
彼らの表現を再現することを、一つの目標にはしていたのですが、この度は私の覚書に留めます。何しろ彼らのあまりの情報量と圧倒的な表現力に括目するばかりで、また、覚え違いもあるかもしれません。記憶違いも含め、ご本人の意向とは違う表記になっているところもあるかもしれませんが、ご容赦ください。
Iさんの選んだ作品
画面の多くを占めている紅い色は感情を表していて、例えば、小説を読んだ時に感じるような、パーッと心の中に広がる熱いものものなどを連想。木の幹のようなものがあり、その周りの紅い色がどんどん空にむかって広がっていっている様子は、感動が広がっているよう。下の方の明るいエメラルドグリーンは、ひらめきのような、光のようなものかもしれない。他にも様々な色彩が使われていて、例えば茶色や紫色など、その一つ一つが、いろんな気持ちを表している。
Iさんは、この作品について本当に流暢に3分くらいは語りました。詳細にじっくり見て、様々に考えたことは、滞ることのない詳細な描写から伺えました。まず、色彩に様々な感情を見出す感覚は備えていて、そこから、自分の推論を展開していました。新年度からは中学2年生!市立中学校美術部でも素敵な先輩として活躍してくれそうな、頼もしさを感じさせる語り口でした。
Jさんの選んだ作品
複数あったオリンピックのポスターのうち、この一枚を選んだ理由の一つは、疑問を感じたから。上の方に、泳ぐ人が水をかき、波立っている。下の方に波が広がっているが、真ん中は黒く、闇のようになにもない。これは、何を表しているのだろうかと、疑問に思った。左右には水のような青い色が見え、波のようでもある。この波は様々な抵抗を表現していて、例えば、オリンピック選手は様々な場面をクリアして選ばれた人たちの集まりだから、碧い色の波は様々なハードル、抵抗を表しているのかなと思った。
最初は、無口な印象のJさんでしたが、しっかりとした口調で持論を展開しました。そういえば鑑賞中は20分間、じっと一人で作品の前に立ち、動かずにじっくりと、深く考えていたのですね!と、本当に、非常に驚かされました。
Kさんの選んだ作品
墨で描かれた牡丹の花の絵。大きな牡丹の花のやわらかい花びらが何層にも描かれていて、色は淡いのですが、とても生命力の感じられる美しい絵。牡丹の他にも、様々な色の小さな花が描かれていた。
普段は、油彩画を描いていると自己紹介してくれた高校生のKさん。私は全く見落としていた絵で、具体的に思い出せず、想像しかできませんでした。どちらかといえば、そんなにインパクトを残さないような、静かな日本画に注目した様子に新鮮味も覚え、つい「普段は、どんな絵を描いているのですか?」とワークショップに関係のない質問をしてしまいました。自分が見落としていたことに愕然としながらも、確かに、さらっとは目にしたはず。それなのに、思い出せない。そのことからも、改めて見たいと思わせます。Kさんの着眼点は、植物の静かな生命力に魅力を感じる感受性から出てきているのかなと推察いたしました。
Lさんの選んだ作品
大きな画面の右上にダイビングしている人が見え、画面の左上を見ると、その人の足かな、と思わせる画面構成。水の中の様子が描かれているようで水族館のよう。水の色の中に、何かの感情をうかがわせるようなピンク色が見えるのは、何かなと疑問に思った。画面の中の魚の骨から博物館も連想。美術館の中に水族館の描かれた絵。博物館、水族館、美術館の要素を作品のなかに閉じ込めている。
Lさんの語る作品描写も本当に魅力的で、細部に注意して見ている一方で、全体のテーマについても考えられたものでした。下関には水族館も市内にあり、身近なこともあるのか、美術館と水族館、博物館をテーマにしたものかも、という発想は、面白く感じられました。博物館が大好きなのだということの伺える、素敵な発想だなぁと思いました。
私は、みんなの話を聴いて、なかなか一つには選べないなぁと困りました。
時間は押していましたが、私のお勧め作品として、加納芳崖が数え年15歳の頃に描いたという絵巻をどうしても紹介したくて、簡単に伝えました。赤間関を描いたということから、たぶん赤間神宮だと思う赤い色の建物も見つかること。現在の国道9号線沿いの海岸が克明に描写されていて、船や建物だけでなく、道の上の人まで描かれているので、ぜひ!と。
さて、誰のお勧めの作品を、誰が代表者となって発表するか。
実は、私たちのグループでJさんの話が終わった頃に一度、「グループ内のみんなの発表を聴き終わりましたか。」と全体に対して尋ねられ、多くのグループが挙手をして発表が終了していると分かりました。「まだ途中のグループはありますか。」と尋ねられ、私たちは、まだ途中のグループです!と意思表示しました。他にも、まだのグループが少数派ではありましたが、見受けられましたので、およそ10分か15分くらいだったか延ばしていただきました。ありがたかったです。
そんなこともあり、「もう一度見たい作品」と代表者を手際よく、効率よく、決める必要も出てきていました。
「どのようにして、決めましょうか。」と尋ねると、お互いが話を聴いて見てみたくなった人の方に指さすという提案が出たので「せーの」で一斉に。IさんとJさんはLさんへ。Kさんと私はIさんへ。LさんはJさんを指しました。
2対2対1で分かれたので、「さて、では、LさんとIさんの2作品に絞っていいですか。」と、多数決の流れで、再度。しかし「その前に、質問するのは、どうでしょうか。」という提案をLさんがしてくれ、互いに尋ねました。このような質問の時間は何かを決める前に、とても大切なことのように思えました。グループ5人全員で、質問と回答のやりとりを聴いて納得した上で、2作品のうち、どちらかを決めるために指さし、3対2でIさんの作品に決まりました。どちらも甲乙つけがたく、また、どの作品も、改めて見てみたいと思わせる時間でした。
「誰が、発表する?」と見渡し、年長者のKさんにお願いしようと、私は提案しました。なぜなら、時間が無い!という焦りもあって。そうするうちにJさんが「どのように発表するのでしょうか。」と、発表の仕方を再確認しようと積極的な姿勢を示してくれました。探究心の表れに思われます。北野研究員は「自分グループ内で出た話も添えて、グループで決めた作品について発表してください。」とアナウンスし、いよいよ全体での発表時刻が迫る頃、Iさんが「私が発表します。」と申し出てくれました。自分の見つけた作品が選ばれて、やっぱり、自分で発表したい!という意気込みも感じら、最年少でも積極的に活躍できる場であることが分かりました。
中高生の活躍も頼もしく、下関市立美術館での鑑賞会では楽しい時間を過ごすことができました。改めて、皆様に感謝申しあげます。(上坂美礼)