安来市加納美術館の特別展「名品と出会う」の鑑賞イベント「みるみると見てみる?」のレポートお届けします。


名品と出会う 加納美術館 5月27日(日)
鑑賞作品 羊飼 東郷青児 1935年 公益社団法人糖業協会蔵
ナビゲーター 春日美由紀
作品はほぼセピアカラーで彩色された人物画である。中心に大きく人物が描かれ、後方に樹?と思われるものや、教会のような建物がある。タイトルは「羊飼」。中央の人物が羊飼なのか?そうではないのか?この人物は男性なのか?女性なのか?謎を多く秘めた作品であることから、皆で鑑賞して語り合いたいと考えた。
まず、周囲の環境について、茶色だし、後ろの樹に葉が一つも生えてないことから乾燥地帯。砂漠のようなところ。という発言。
それを受けて、頭部を覆っているので、イスラム教徒?でも、それだったら、黒い布か?顔ももっと覆わないといけないし・・・。
後方にある樹の枝が向かって右方向にしか伸びていないので風が左から強く吹き付ける場所ではないか?
後ろの高い塔の上部に丸が描かれているが、そこには鐘があって、鐘楼なのでは?とすると、ここは教会なのでは?
中央の人物について、顔の周りを「真知子巻き」のように巻いている。女の人?
羊飼は男性なので、この人は奥さんで、ラッパ(ホルン)で、旦那さんを呼んでいる。
でも、肩幅や腕はわりとがっしりしているようにみえるので、男性かも?でも、腰回りは細くて、不安定だ。
「羊飼」というタイトルで、この人物が「羊飼」だとしたら、後ろに教会もあるし、この人物はキリストなのでは?
観音様のようにもみえる。面差しや手の指の細くて長いところから。神様のような存在では?
顔が中心で、そこに目がいくようになっている。そこが表したかったのでは?
これらの意見を受けて
中央の人物のように描かれているものは、実在する特定の人物ではなく、象徴化された「神」のような存在である。また、顔の周りに白い布が巻き付いていて、そこの白さが際立っているので顔に目がいくように描かれている。これらのことから、この作品はまるで「イコン」のようだとも言えるのではないかとナビも鑑賞者の一人としての私見も交えてまとめた。
ナビの反省点
みればみるほど不可思議な作品で、対話が終わった後にも自分なりの解釈が出来たかと問われると、まだ考える余地のある作品と言える。途中人物と背景の関係を踏まえて全体としての意見を求めたが、投げかけの言葉が曖昧で鑑賞者に混乱を生じさせたようだ。(房野指摘による)背景と人物を関連付けると、新たな見解が出てくるのでは?と期待したのだがうまく伝わらなかった。ナビとしては、「神」「キリスト」「観音様」などのイメージを人物に投影する発言が出ていたので、背景の樹や建物と関連付けると、キリスト教のイメージ的な解釈が出てくるのではないかと期待したのであるが、解釈を誘導するような問いかけだったので、鑑賞者の発言を促すことにつながらなかったのだと反省している。
みるみるメンバーからのナビに対するコメント
房野
・同室の展示作品の中で異彩を放つ画風で、不思議な印象の作品でした。
・序盤に「羊飼いの女性が旦那さんを呼んでいる」と発言された参加者が、終わりには「そうではないことがわかりました(笑)」とご自分で解釈の変化を自覚されていたのが興味深かったです。また、他にも「『東郷青児』=宇野千代とのゴシップ、という印象くらいしかもっておらず、作品をしっかり見たことがなかったけれど、作品そのものをこんなに深く見たのは初めて」という意見もありました。こういう鑑賞を通じて参加者の読み取りが変化することこそが、ナビが効果的に進んだ証拠だといえるのではないでしょか。ナビがどんな発言でも全てを受け止め、対話しながら鑑賞した成果だと思います。
・終盤に「人物は人物、背景は背景について語られましたが、人物と周り(背景)の関係を踏まえて、全体をみる時、何か考えられることはありませんか?」というナビの問いかけに参加者の発言が止まる場面がありました。序盤には背景についてたくさん語られていたので、それ以外に新たな発見を求められているのか?それともこれまでの背景の解釈と人物をつなげる発言を求めているのか?と迷ってしまいました。どのような意図の問いだったのでしょう?(※このことについては反省点の部分に記載)
松田
自分で発言したように、本当によく分からない作品でした。最後まですっきりすることはなかったのですが、きっとそういう作品なのだろうと思います。「羊飼いはキリスト」という発言が出た時に、それまでの流れを変えるような発言で、しかも納得させられる理論的な発言だと自分は思いましたが、ナビは公平に一つの考え方として受け止めたように感じられました。だからこそ、そのあともそれぞれの解釈がそれぞれの参加者から出たように思います。自分ならあの発言に引っ張られてしまったかもなあと思いました。不思議な作品をみんなで「不思議だなあ」と思いながらあれこれ考えを出しながら見るのが楽しかったです。
金谷
「やはり、パラフレーズ(言い換え)が秀逸だなぁ」というのが、一番の感想です。鑑賞者が伝えようとしたことを「シンプル&コンパクト」に返されていました。例えば、不思議な絵であり、美しくもあって…という発言を「ミステリアス」とパラフレーズされました。不思議さと何か惹きつけられる感じといったことが、一言にぎゅっと濃縮されたような感じがしました。
また、「対話をしながらみんなでみる」ということを大切にされていて、ついつい個別に話してしまう方に「そのへんシェアしてもらえると…」等、鑑賞者(個人にも全体も)を思いやった誘い掛けをしておられました。「うまいなぁ」と思うとともに、作品についてみる・聴く力と、鑑賞会全体を俯瞰する力の両方を使い、ダブル・タスク、時にはトリプル・タスクで脳をフル回転しながら、ナビとしてみなさんの前に立たないといけないなと改めて思いました。

7月のみるみるの鑑賞会は、浜田市世界こども美術館で行います。
企画展「はまだの風景画展」関連イベント「みるみるとみて話そう」
7月7日(土)14:00~15:00
会場:5・4階 企画展示室(展覧会の観覧料が必要です)
みるみるメンバーと一緒に、作品について楽しく語り合いましょう。