ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

「まちとアートと古い家と」での対話型鑑賞ワークショップの様子をお届けします①(2019、3、21開催)

2019-04-01 18:51:30 | 対話型鑑賞
まちとアートと古い家と
平成31年3月21日(木)14:00~ 旧村松邸
作家:高嶋敏展・福井一尊・石上城行
ファシリテーター:春日美由紀 鑑賞者 約10名



 最初にこの展覧会の主催である高嶋さんから「対話型鑑賞」についての簡単な説明がありました。それを受けて、今回のファシリテーターである春日が鑑賞会を始めました。
 鑑賞会は最初みんなが集まった部屋に展示されている石上城行さんの作品から始めました。山のような形のテラコッタと女性像が並べて展示されており、背景には大きな雲が二つ浮かんだ青空の絵が掛かった作品です。(画像参照)



 じっくりみてもらってから、各々が感じたことや考えたことを発表してもらいました。対話型鑑賞初体験の方ばかりだったので話しやすさを大事にファシリテートしようと心掛けました。
 最初発言した方が山のような形のものと女性像が並べてあることが「分からない」、「別々のものとみてしまう」と言われたことから「並べてある」ことに「意味を見出そうとする」方や「並べてあるから、そこに意味があるだろうと考える」方がいらっしゃることが分かりました。また、作品がテラコッタであることから、埴輪のように感じる方が多く、「いにしえ」「天平」「奈良」「三輪山」などのワードが出てきました。また、背景の空の絵から「雄大な自然」を感じ、「モンゴル」「草原」などのイメージも語られました。置かれた作品は決して大きなものではありませんが、その形状と背景の絵とで「壮大さ」「広がり」を作品から感じている方が多いことが分かりました。
 1作品目で皆さんが積極的に語ってくださることが分かったので、この作品でまだまだ語ることは出来たのですが、残り2名の方の作品も鑑賞していただきたいと考えていたので、次の作品に移ることにしました。



 次の作品は隣の部屋に大きな作品群が展示してある福井一尊さんの抽象的な立体作品です。(画像参照)この作品群もまずはじっくりとみていただきました。
 作品が複数あり、鑑賞者が思い思いの作品について語ると話題が散漫になると考えたので、どれかに焦点を絞りたいと思いました。鑑賞者に鑑賞作品にリクエストはないか尋ねましたが、特に希望が無かったので、リーフレットに採用されている緑色に塗られた横長の作品について語っていただくことにしました。
 色に対する衝撃(ショッキングな色で塗られたものが多いことから)が語られ、「3Dのように見えた。」という発言から始まりました。しかし、抽象的な形状なのに下を支えている部分が生き物の脚のようにみえる「グロテスクさ」「生き物的」などの意見が出され、隣の桃色の縦長の作品の下部も「脚」にみえて「動き出しそう」にみえるとも語られました。また、和室になじんでいる。違和感がない。など、部屋と作品の関係について語られたり、銀色に塗られた半月上の作品がキッチンにある包丁にみえた瞬間に残りのものがキッチン用品にみえてきたりなど、様々な受け止めが鑑賞者の中で起きていることが分かりました。難解そうな抽象作品もみんなで語っていくとみえてくるものがあることを感じさせました。ここまでで1作品に対して10分程度の鑑賞時間でした。


 最後に少し離れて奥まった部屋にある高嶋敏展さんの作品を移動して鑑賞しました。


この部屋には2つの作品がありましたが、自由にみていただいて、どちらの作品から発言が始まるかファシリテーターは様子見をすることにしました。そうしたら、炉に埋め込まれた作品からお話が始まったので、この作品について鑑賞することにしました。お茶の心得の有る方から「お茶の仕様と違っている。炉には炭があって釜があるものなのに、これはそうではない。」という発言から鑑賞が始まりました。「炉に火鉢が埋めてあって、その中に水が張ってある。なぜなんだろう。」「浮かべてある写真には何か文字のようなものが書かれているがよくみえない。覗き込んでしまう。」「井戸?」「炉の四角な形状と中に水があることから井戸を連想する。」「でも、中にある物をよくみようと覗き込むと、危険。」「ちょっと妖しい。」「小泉八雲の妖怪の世界みたい。」「このライトが吊るされているのが釣瓶にみえるから、余計に井戸みたいにみえるのだろうか?」「ライトも吊るされているけれど、風や人の気配で揺れるから、照らされているところが微妙に動いて、余計に妖しさが増す。」などの意見が次から次に出ました。炉にはめ込まれた作品を鑑賞するだけですでに10分が経過していましたので、床に飾られた作品については、24日に鑑賞するかも知れないと告知して3作品約30分の鑑賞会を終えました。

 
 鑑賞を終えて
 鑑賞会が終わってもみなさんその場を去りがたいのか、それぞれが固まって作品について語り続ける姿がみられました。市内から参加の陶芸家の方は「とても楽しかった。作家さんには、あまり突っ込んで訊くと失礼かな?と思うこともあるので、こうやって自由に好き勝手に話し合えるのはとてもよかった。」と話してくださいました。
 また、作家の福井さんは鑑賞会に鑑賞者として参加してくださり「見方が変わりますね。ほんと、最初にみえていたものから変わっていくのが面白かった。」と語られました。参加者の女性から「正解がなくていい。感じたことを勝手に言っていい。人の話にはその人の個性が感じられる。同じ空間にいるのに全然違う受け取り方。いろんな発見を体験しました。押し付けないファシリテーターの口調がリラックスした雰囲気を作ってくださって抵抗なく発言できました。静かな部屋なのに、イメージが渦巻き始めると見えないけれど面白い世界の存在を感じました。」男性の参加者からは「名ファシリテーターでした。楽しかったです。」とお褒めの言葉をいただきました。作家の方からは「なかなかよい空気が流れていたと思います。続けることの大切さを感じました。」主催の方からは「島根でアートイベントに人は来ません。」と言われていたのですが、蓋を開けてみるとたくさんの方に参加していただけて、自分としてもアートイベントに手応えを感じた一日でした。

(みるみるメンバー参加者:金谷さんのコメント)
 テンポが良くて、どんどん話したくなるような空気感が終始ありました。お互いに聴き合い、話していくなかで、だんだんと仲間意識というか親密度が増していくような感じを受けました。始めの部屋での雰囲気と最後のお茶室での鑑賞者のみなさんの雰囲気が何だか違うようにも感じました。鑑賞会に参加された皆さんの間に、あたたかなつながりが生まれ、そこに作品の魅力も相まって、会が終わっても作品について語り続けられる姿があったのではないかと思います。

 最後に
 対話型鑑賞に参加するのは初めての方がほとんどだったので、「話しやすさ」「何を話してもよい」「正解はない」という基本姿勢が鑑賞者に伝わっていたようで安心しました。
 大きな美術館の展示室で行う鑑賞会とは一味違った鑑賞を体験する事ができました。この機会を与えてくださった「どこでもアート研究所」の皆さんに感謝します。

コメント
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