ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

安来市加納美術館「愛しき島根」での対話型鑑賞会の様子をお届けします(2019,3,31開催)

2019-04-09 22:00:32 | 対話型鑑賞

愛しき島根 細田育宏+細田和子 
加納美術館 2019年3月31日(日)14:00~
鑑賞作品:木精の祭典 細田育宏作
ファシリテーター:春日美由紀
鑑賞者:4名(うち1名はみるみるメンバー)


 前回の鑑賞会の時から気になっていた作品だったので皆さんと鑑賞したいと考えていました。鑑賞者の皆さんも気心の知れた方ばかりだったのでどんな意見が飛び出るか期待感MAXでした。また、タイトルは「木精の祭典」と表示されており、キャプションには「貝」をイメージしたとあるので、それらを読んで鑑賞したとして、どんな意見が出てくるのかも楽しみでした。


 最初に、「ラッパ」みたい。という発言があり、「春を感じさせるような音が聴こえてきそう。」と続きました。ラッパは外形から、春は「木で作られている」ところから温かみを感じるというところと、曲線の柔らかさから「春」を感じたと話されました。ラッパで楽しい音楽を奏でて、春を祝うような「祭典」とタイトルとも関連付けた発言になりました。また、ベルの部分と思われる当たりの木目が音が外に広がって行くような形状であることも語られました。
そして音楽つながりで「マンドリンみたい。」という発言が続きました。マンドリンをイメージしたのはやはり外形からで、細長く伸びた部分がネックで、丸みのある形が「抱きかかえたい」気持ちにさせると話されました。同様に「マンドリン」に賛同する発言がありました。やはり形状からその楽器を連想するようです。しかしキャプションには「貝」とあるので、「どこが貝なのだろうと疑問に感じる。」とも発言されました。
 皆さんが外形から楽器を連想されているようだったので、「視点を変えて、外形以外の形から何か感じるものはないか」と視点をシフトする促しをしました。そうすると美術館関係者で展示にも携わった方から「この作品はとても重たいです。大人が2~3人で抱えないと動かせないような重さがあって、それを彫っていかれたと思うのですけど、この真ん中の穴は、渦巻いていて奥までよく見えなくて、どうしてこんな穴があるんだろう?」という疑問が出されました。作家の存在は意識されているので「穴は勝手にできたのではなくて、何か意図があって作家が彫ったのだと思いますから、そこを考えてみましょう。」と促しました。「重くて硬い木だから彫るのも大変だったと思います。だから、無理な形はできないのではないかと思うのです。木の気持ちを聴いて彫っていったらこの形になったのではないのかなあ。」という発言になり、「木の気持ちを聴いて?」とファシリテーターが復唱すると「だから、ああ、耳か?渦巻きのような穴は耳?」そして「タイトルが木精とあるので、木精はやはり木の真ん中に宿るものだと思うのでその声を聴いて彫っていったらこの形ができたのではないかと思います。」とつながっていきました。

 曲線と直線が融合したフォルムには「木目の美しさを引き立たせる効果がある」や、丸みの部分には「赤ちゃんを抱っこしたときのお尻のような柔らかさを感じる」などの発言も出てきました。できるものなら「触りたい。」「すべすべしてみたい。」などとも語られたので、先の美術館関係者に「この美術館の所蔵作品なので、触ってもよい作品にしてはどうですか?」とファシリテーターが要求してみたところ「考えてみます。」との回答。「視覚に障がいのある方が触って鑑賞するという試みもなされている美術館があるので、ぜひ、前向きに検討してほしい。」と依頼しました。
 抽象形の木彫作品でタイトルやキャプションも参考にしながら限られた人数ではあったのですが、逆に気兼ねのない会話ができたために、途中からファシリテーターも鑑賞者の一人として楽しく鑑賞できました。
 「木の精の声を聴いてこの形が生まれた」というのが今回の作品鑑賞の収穫だったと思います。鑑賞に参加してくださった皆様に感謝します。ありがとうございました。

振り返り(鑑賞会の参加者から)
○彫刻は難しかったけど、最初に「ラッパ」発言があって、入りやすかったです。発言しやすくなりました。自分だけで鑑賞していたら絶対にできないことで、他者と一緒に鑑賞することの意味は大きいと感じました。
○注目してみてほしいところをファシリテーターにあらかじめ提示していただけると話しやすくなるのかなと感じます。大人は「変なこと」や「間違っているのではないか?」と思われるは嫌だから発言しないと思うから、焦点化してもらうと話しやすくなるのかなと思います。

みるみるメンバー(金谷さんから)
○テンポがよく、話しやすい雰囲気でした。返し(パラフレーズ)が端的。訊き返されることでまた考えることができるファシリテートでした。

自己の反省
○後半はファシリテーターとしてではなく、一人の鑑賞者として他の4名の方と思い思いのことを語り合っていました。それが是か非かは意見の分かれるところでしょうが、全員で5名の鑑賞会で気心も知れている方たちばかりだったので、ファシリテートの必要性を感じなくなって、最低限のパラフレーズとサマライズを時折はさむだけで会話がどんどん進んでいきました。それはとても楽しいひと時でした。
○鑑賞会を行うことで来館者数増につながることがベストなのですが、なかなか実績は上がりません。しかし、美術館理事が「次回展でも楽しみにしています。」とおっしゃってくださっているので、引き続き加納美術館で対話型鑑賞会を続けていただきたいと思います。興味を持たれた方は、次回展のチラシ等を参照にご来館いただけると幸いです。


安来市加納美術館の次回展「特別企画展 平和運動開始70年 画家加納莞蕾大回顧展」でも対話型鑑賞会を予定しています。

1回目 4月28日(日)13:30~
2回目 6月2日(日)13:30~
ご来館、お待ちしております。
コメント
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