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2007GW遠回り旅行記 台湾寄り道編

2007-05-12 | 旅行
(写真:左榮駅に停車中の台湾高速鐡路700T)


ゴールデンウィークにイギリスに遊びに行きました。
でも、いつものように成田から直行便の飛行機でシベリアを飛び越えて一直線に欧州入りしたのではない。
今回は敢えて遠回りの“南回り航路”で寄り道しながらの道中なのです。

かつての「格安航空券の定番ルート」であり学生旅行者やバックパッカー御用達というイメージの「ハードな旅行臭」が漂ってきそうな、魅惑的な南回り航路。
以前からある種の憧れがあったのだが、いかんせん勤め人の身としては遠回りフライトで貴重な休暇を浪費したくないという切実な気持ちがあり敬遠していたのだが、何気なくネットで調べてみたところ、多数のアジア系航空会社の路線が就航している九州・福岡空港発の場合は乗り継ぎ時間のタイミングが良ければ成田経由と殆ど所要時間が変わらないという事が分かった。しかも、途中の寄港地で寄り道が出来るし何といっても価格が安い!

…ということで、衝動的にネットで予約してしまった、福岡発台北・香港経由ロンドン行きキャセイパシフィック航空。
最初の寄港地の台湾で1日の滞在を組み込んで、先日ついに開業を果たした台湾高速鐡路(高鐡・台湾新幹線)の初乗りと絶滅寸前の旧型客車列車「平快」の乗り納めをしてから英国を目指す盛り沢山な日程である。

2007年4月28日

朝からJR特急「有明」で博多へ。
キャセイは福岡空港10:50発なので、成田経由時のように早朝1本のみの成田便に搭乗するべく福岡市内に前泊する必要がないのが嬉しい。
博多駅から地下鉄で数分で福岡空港に到着する。都心から数時間も掛かる成田と比べて、何と云うアクセスの良さよ!
でも、地下鉄は国内線ターミナルが終点なので、ここからシャトルバスに乗り換えないと国際線ターミナルに辿り着けない。
「滑走路の向こう側の国際線ターミナルまで数百メートルしか離れてないのに、何で向こう岸まで行ってくれないんだ!?」といつも思うのだが。

最近は格安航空券でも航空券本体は当日空港渡しということはなく、ちゃんとEチケットになっている。前日のうちにネットでチェックインも済ませられるので実に気楽だ。何の問題もなくボーディングパスを受け取り、出国手続きを済ませ、キャセイのエアバスの機内の人となる。機内食を食べているうちにエアバスは数時間前に出発した熊本県の自宅上空を飛び越え東シナ海を南下し、定刻に台湾桃園空港へ着陸した。
久し振りの台湾。どんよりした曇り空と、熱く湿った空気。この国に来るといつも「ああ、帰って来た…」という気分になるから不思議だ。

早速、桃園空港から最寄りの高鐡桃園駅直通のシャトルバスに乗って、待望の台湾新幹線に初乗車…といきたいところだが、そうしない。
まずは台北市内行きの高速バス國光号に乗って、台北駅へ。台北駅で台湾国鉄東部幹線の特急「自強号」の切符を買い、東海岸の街・花蓮へと向かう。
台湾新幹線は明日の最後の行程までお預けしておいて、先ずは東部幹線の旧型客車列車「藍色平快車」に乗ることにする。
蒸気機関車が似合いそうな日本製の旧型客車を連ねたレトロな鈍行列車「平快」は、一昔前の日本の汽車の香りがする懐かし列車として台湾国内の鐡路迷(鉄道ファン)のみならず日本の鉄道ファンの間でも人気が高まっているが、台湾新幹線開業後は台湾国鉄在来線の近代化が急ピッチで進む事が予想される事から、まもなく姿を消すと言われている。
この機会を逃したら、もう乗れないかも知れない貴重な平快車。日本出発前にプリントアウトしてきた最新版の台湾国鉄オンライン時刻表によると、東部幹線北部の宜蘭~花蓮間に1日2往復程の列車が運行を続けている事が分かる。台北駅を午後2時半に発車したこの自強号で東部幹線を南下すると、途中どこかの駅で花蓮を17時5分に発車した宜蘭行き平快と擦れ違う筈だ。その手前の駅で自強号を降りて、やってくる平快を捉まえればいい。さて、どこの駅で自強を降りればいいものか…東部幹線を快走する自強号の車窓には美しい海岸線が続いているが、それには目もくれず時刻表のプリントと格闘し、線を引き、その場でこれからの行程を組み上げていく。なかなかスリリングな行為で、まさに哈台日本人鐡路迷としての腕の見せ所な訳だが、「時刻表を睨んであーだこーだ考えてる日本人」の姿は車中の台湾人乗客諸氏の目にはかなり奇妙なものに見えたかも知れない。。。
ともあれ、花蓮に行く途中の羅東という駅で特急「自強号」を乗り捨てて後続の普通電車に乗れば、崇徳という駅で平快車を捕まえられる事が分かった。
「よし、これで行こう!」

崇徳は台湾東海岸段丘の谷間にある小さな駅だった。
普通電車を降りて改札に向かい、身振り手振りで「折り返して宜蘭まで行きたい」と伝えようとするがなかなか通じない。そりゃそうだ、こんな小さな駅に突然日本人が現れて「今来た方に引き返したいよ」とか言っても、相手は意味不明で戸惑うばかりだろう。埒があかないのでメモに「我鐡路迷、希望乗車平快車往宜蘭」と書いて渡すと「ああ!あんた鉄道オタクか」って感じで一発で通じ、同時に大笑いされた。。。
「もうすぐ列車が来るから、急いでホームに行きな。切符は車内で買ってくれよ(多分そう言われてたんだと思われる)」
見るともう藍色平快車を連ねた宜蘭行き536列車が駅構内に入線して来ている。急いで乗り場へ向かうと、駅員氏が列車を待たせていてくれた。
「多謝!」
動き始めた列車のデッキから身を乗り出して駅員氏に手を振る。列車はすぐに速度を上げ、海岸段丘のトンネルに入って行った。



台北から自強号と普通電車を乗り継ぎ、時刻表を駆使してやっと乗車できた平快車。
平快乗車は昨年の夏休み以来だ
536列車は高速列車が行き交う台湾東部幹線を他の列車の隙間を縫うようにして進む。とはいえ、のんびり走っていると後続の特急に追い付かれてしまうので走行中はかなり速度を出す。窓もデッキも開けっ放しの車中にはトンネル通過の度に轟音と風圧が押し寄せ、老体をものともせず豪快に揺れながらぶっ飛ばすワイルドな走りを堪能することが出来る。
「日本の国鉄時代末期の常磐線や北陸本線の旧客鈍行列車はきっとこんな感じだったんだろうな」と思う。のんびりゆっくり走らない、飛ばし屋の旧型客車もまたいいものだ。
宜蘭が近付くと雨が降り始めた。
「確か去年乗った時も宜蘭では雨が降っていたな…」
雨に濡れた田んぼの畦道の匂いが車内に漂う。このしっとりした雰囲気は日本でもよく感じるものだ。日本と台湾の気候風土は実に共通点が多いんだな。でも日本ではもう鈍行列車の車内で雨の匂いをかぐ事は出来ないな。この国には「失われた日本の風情」がまだ生きている。

午後7時過ぎ、すっかり暗くなった宜蘭駅に到着。536列車はすぐに「機回し」を行い、折り返し537列車となって花蓮に帰る。僕もそのまま列車と一緒に花蓮に向かう事にする。
時間があるので一旦改札を出て、窓口で花蓮までの乗車券を購入する。
「ニーハォ、リーホォ。ホワィエン、ピンクヮイ!」これで通じた。
駅員氏が一瞬ニヤッと笑みを見せて「ピンクヮイ(平快)ね」と切符を打ち出す。ああ、きっとこの人も僕のことを「日本人の鉄道オタクか」とか思ってるんだろうな。。。

ところで、今まで旧型客車列車の事を「平快」と呼んできたが、実は台湾新幹線開業後に国鉄の制度が一部変更されたらしく、今では「普快」というらしい。でも、敢えて今まで慣れ親しんだ「平快」の呼び方で通してきたが、こうして駅の窓口でも「ピンクヮイ(平快)」で通じてしまうのでこの呼び方でも特に問題はないと思う。
もう間もなく消え去ってしまう碧い旧型客車、せっかくだから最後まで親しみを込めて「平快」と呼んでやりたい。

雨の中、今来た道を引き返す藍色平快車は、午後9時半、雨上がりの花蓮駅に到着した。
明日の早朝、再び宜蘭行きの534列車となって出発するまでそのまま花蓮駅のホームで眠りについた藍色平快車に別れを告げて、台東行きの東部幹線夜行キョ光号に乗り込み花蓮を後にする。


2007年4月29日
日本では今年から「昭和の日」となったこの日を、台湾東部幹線を走る夜行列車の車中で迎えた。
列車は霊峰ニイタカヤマ(玉山)を望む田園地帯を快走している。JRのグリーン車並みの居住性を誇る夜行キョ光号では短い時間ながらも熟睡したので爽快な朝を迎えることが出来た。もっとも旭日は拝めず、辺りの風景は朝霧が立ち込めてさながら水墨画の世界なのだが。
台東駅にほぼ定刻の午前6時過ぎに到着。駅構内にはインド製通勤型の藍色平快車を連ねた列車が待機している。台湾最南端を行く南廻線に朝夕2往復のみ残された平快車のひとつ352列車。昨日の郷愁漂う日本製客車の平快とは違って、ある種の泥臭さが魅力のこの列車に乗り、さらに南を目指す。
荒々しい海岸線と椰子の木の熱帯雨林、バナナやマンゴーの繁る果樹園を辿る南廻線をインド製の客車に乗って走っていると、自分が既に北回帰線直下の亜熱帯にいるんだということが実感できる。日本とかけ離れた南洋の気候風土、これも台湾のもう一つの素顔である。
352列車は途中駅で同じ藍色平快車の353列車と擦れ違う。碧い列車同士の貴重な離合シーンを瞼の裏に焼き付け、列車は終着駅・枋寮に到着した。朝霧はすっかり晴れ渡り、青い亜熱帯の空から強烈な夏の陽射しが降り注ぐ終着駅には、台湾南部の大都市・高雄へ向かう快適な冷房つき普快車が待っていた


ここまで、台湾の旧き佳き鉄道の旅をじっくりと堪能してきたが、高雄からは一転して台湾の最先端を疾走する超特急に乗り換えて一気に台北へと戻り台湾の旅を締めくくりたいと思う。今まで行きつ戻りつ一晩かけて辿ってきたが、ここからはあっという間だ。
台湾高速鐡路は台湾北部の首都・台北から西部海岸の主要都市を辿り、南部の大都会高雄を結ぶ…ということになっているが、実はまだ高雄での高鐡開業工事は完成していない。
高雄駅では高鐡を迎え入れるべく、日本統治時代に建てられた名建築で名高い駅舎を移動保存までして大々的に準備工事が行われたが結局間に合わず、暫定的に隣の左営駅を高雄側の終着駅とすることで2007年1月の開業に漕ぎつけた。現在でも高雄駅では高鐡の正式乗り入れと市内新交通システムの完成を目指し建設工事が続けられている。ちなみに日本時代の旧駅舎は工事完成後は再び元の位置まで曳き戻して復元するとのことで、気合が入りまくっているなー!
工事現場のような高雄駅のホームで名物の鐡路便當(台湾の駅弁。本格派パイコーハンで美味)をかき込んで腹ごしらえを済ませ、通勤電車で国鉄新左営駅へ。新幹線の駅に新○○という駅名を付けるのは日本と同じで面白い。

まるで国際空港のような巨大で豪華な新左営駅。いずれ高鐡高雄駅の工事が完成すれば通過駅となってしまうのに、こんな大規模なインフラを造って大丈夫か?と余計な心配までしてしまう。
ちなみに国鉄在来線は新左営駅だが高鐡では左営駅と表示されている。同じ駅舎内に同居しているのに駅名が違うので少々ややこしい。
さて、台湾新幹線は全席指定席。台北までの指定券を買わねば。何となく九州新幹線出水駅のみどりの窓口に似た雰囲気の高鐡左営駅のチケットカウンターに並び、女性オペレーターにカタコト英語で「1時間後の台北行き列車で台北まで、片道で」と告げると「今日の席は全部売り切れね」とのこと。何ー!?
まだ開業後間もないので運転本数も制限されており、1時間に1本しか運行していないせいか、座席数が供給不足のようだ。しかし困った、今日の夕方までに台北に戻らないと、次の寄港地香港行きのキャセイパシフィック航空に間に合わない。
「立席特急券とかないの?」
「エコノミーの席は全部ダメね。でも、ビジネスクラスなら席が残ってるよ」
やれやれ、それを先に言ってよ。ということで、何とか無事に台北行きビジネスクラス(グリーン車)指定券をゲット。2440台湾元(約9000円)也。
「うう、やっぱ高いな。。。この区間の切符代だけで、今まで乗ってきた平快の切符代の3倍以上するんじゃなかろうか。。。」
それでもグリーン車に乗れるのは嬉しい。早速ホームへ行って、出発までの間台湾新幹線700Tの車体を間近からじっくり観察しよう、と自動改札機にチケットを挿し込むと赤ランプが表示して弾かれる。すぐに駅員が飛んできて「発車15分前までホームには入れません」とのこと。仕方がないので、コンコースの端の窓から家族連れと並んでホームに居並ぶ700Tの雄姿を覗き見る。何か九州新幹線の開業時にも同じようにホームを覗き込んでるギャラリーが居たなあ…こういうのは日本でも台湾でも同じなのね。

ようやく入場時間になり、ホームで700Tと待望の御対面。
「う~ん、これは…JRの700系のぞみと殆ど同じだな」
前面デザインとカラーリングは高鐡オリジナルだが、その雰囲気は紛れもなく日本の700系新幹線そのものだった。
「まさかこれ程同じだとは…」
ホームから嘗めるように700Tの車体を見回すと、気がついた点が幾つかある。
「先頭部の造形は案外シャープでエッジが効いてるな。写真で見ると潰れたような感じで格好悪かったけど、現物は悪くないな。…車体の洗浄は余り丁寧じゃないな。窓ガラスに水垢が残ってるし、ボディも土埃が付いてるぞ。」





車内に入ってみる。
「日本メーカーの銘板類は…一切なしか。日本語の案内表示もないな。普通車の車内は色使いも700系とよく似ているけど、ビジネスクラスの車内は座席がワインレッドで独特の雰囲気だな。」

あれこれ観察しているうちに乗客がどんどん乗車してきた。発車時間も近付いてきたので、指定されたビジネスクラスの座席に腰掛ける。
僕は実は日本の700系のグリーン車には乗車した事がないのだが、後日ネットで確認したところモケットの色合いが違うだけで座席そのものは700系のグリーン車と同じもののようだ。読書灯とオーディオのサービスがあり、ヘッドフォンを挿し込んでみると日本語のポップスが流れていた。
高鐡416列車(台湾新幹線には列車愛称はない)は定刻の14:25、滑るように左営駅を出発した。すぐにグングン加速していく。当たり前だが、日本の新幹線と全く同じ走りだ。
「ああ、700Tはやっぱり新幹線だ。とうとう台湾に新幹線が走り始めたんだな…!」
僕に指定された席は通路側だったが、隣の乗客の顔越しに車窓に広がる南台湾の田園が見える。
「車窓が見やすいな。そうか、線路はヨーロッパ規格で建造したから、日本と違って防音壁が低いんだ。それに、トンネルが殆ど無いな。」
車窓に見入っていると、隣席の乗客と目が合った。にこやかに話し掛けられるが、台湾語なので聞き取れない。「スミマセン、分からない。日本人なもので。」
すると「日本人デスカ?」とカタコトの日本語で言われ、嬉しそうに握手を求められた。
「私は新竹に行きます」
「次の駅ですね。もうすぐ着きますよ」
「ああ、もう降りなければ…じゃあ、サヨウナラ日本の人」
言葉を交わしたのはこれだけだが、あの親しみのこもった笑顔が嬉しかった。

台北が近付くと、700Tは地下に潜りそのまま国鉄台北駅に滑り込んだ。すぐ隣の線路を在来線の特急「自強号」が走っていく。
地下ホームからエスカレーターで地上に登ると、昨日花蓮行きの切符を買った台北駅のコンコースに出た。
「ああ、本当に新幹線で台北まで来ちゃったよ。。。まだ実感がないな。この駅の地下に新幹線がいるなんて。本当に夢みたいだ」
日本の新幹線とは異なるヨーロッパ式の規格で敷かれた線路を走るとはいえ、700Tは間違いなく日本の新幹線の走りを見せてくれた。
この「新しい新幹線」が、今後どのように台湾の国土に根付き、台湾の人達から愛され独自の発展を遂げていくのか。これから興味深く見守っていきたい。そして何より、また乗りたい!
今度は台北発の南下便に乗るぞ、と心の中で決めて、桃園空港行きバス國光号に乗り込んだ。


「さあ、次は香港、それからいよいよロンドンだ!」
ヨーロッパ行き南回り航路の旅はまだ続く!



今日のはやぶさ:提供 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
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