天燈茶房 TENDANCAFE

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故郷で、おかえりなさい… 内之浦にて

2010-06-27 | 宇宙
出迎え参加メンバーの寄せ書き。
後日、相模原キャンパスのはやぶさ運用チーム関係者様へ手渡す予定


彼が帰ってくる日。
僕たちは、彼の旅立った海の見える町に集まった。
宙(そら)の旅人を、故郷で出迎えるために…

2010年6月13日

お昼過ぎに熊本駅で、鉄道移動組のまこと。さんとMOLTAさんをピックアップ。
そのまま僕のクルマで、空路組の待つ熊本空港へと向かう。
熊本空港でguichengさん、すばるさんと合流。
メンバーが揃ったところで、僕のクルマとレンタカーに分乗して、一路九州を南下。

今回、殆どのメンバーとは初対面だったのだが(すばるさんとは昨年、京都で一度お会いしている)、
やはり同じ目的を持って集まった、そして同じ宇宙船を愛する仲間同士、あっという間に打ち解けて、道中会話が途切れるようなことはなかった。

空は生憎の雲に覆われているが、あろうことかまさしく今、彼が飛んでいるであろう東の方だけ青空が覗いている。
まさか君が雲を吹き払ってくれているというのか。そう考えただけで、涙腺が緩むのがわかる。
午後4時頃、
「ちょうど今、我々の真上を飛んでいる頃だよ…」
九州道を走行中のクルマの中から空に向かって、皆で彼に手を振る。
運転中の僕も、心のなかで空を仰いで思いっきり手を振った。

“おかえり、はやぶさ…!”



日が暮れる頃、内之浦の宿「潮騒荘」さんに到着。
さあ、出迎えの宴の準備をしよう。



テーブルに並ぶのは、「性能計算書」の表紙を飾った虎之児(とらのこ)をはじめ、皆が持ち寄った彼の迎え酒。
そして今回惜しくもこの地に来ることが出来なかった仲間から託された写真。
この夜はたまたま、内之浦で通信運用をされているJAXA関係者の方も同じ宿に泊まられていて、我々に興味深いお話を聴かせて下さいました
ありがとうございました!

祝宴の窓からは、彼の“母港”である内之浦宇宙空間観測所のシンボルである34mアンテナ(我々は親しみを込めて“うっちーさんの弟”と呼んでいる)がライトアップされて運用しているのが見える。
実はこの時、34mアンテナは彼との最後の通信運用を行っていたのだ。
彼の、最期に見たふるさと。青い惑星の姿を、はやぶさの最後の声を、うっちーさんの弟は懸命に受け止めていたのである。

画像提供:JAXA
彼が最期に見た、ふるさと。

なんて美しいんだろう…ああ、本当に美しい星だ…君の妹が撮した地球の出を、僕は想い出したよ。
君は、こんなにも美しい風景を見ながら、眠りに就いたんだね…

そう考えると、僕も少しだけ安心出来るよ…

そして、運命の時。

画像提供:JAXA
不思議だね…
きっと僕は、泣くと思っていた。
でも僕は、泣かなかったんだ。
君が、きっと宇宙で一番美しい流れ星になって、みなみの大陸の夜空に、南十字星の輝く夜空に、銀河鉄道の夜空に消えていっても、僕は泣かなかったんだ。

正直、僕は少し戸惑った。
ひょっとしたら自分が、世界で一番冷たいにんげんになってしまったのかと怖くもなったりした。

でも…気が付いたんだ。
僕は…

嬉しかったんだ。

君が…
僕の大好きな宇宙船が、宇宙の冒険者が、旅人が、地球に帰ってきてくれたのが、本当に、心の底から嬉しかったんだ。

おかえりなさい…そして、ありがとう。
君の名は、はやぶさ。僕の愛した宙(そら)の旅人。



2010年6月14日

涙雨の朝。
でもそれは、歓喜の涙だ。
新聞もTVニュースも、トップで彼の帰還を伝えている。
「本当に、帰ってきたんだな…」
メンバーが皆、どこか魂が抜けたような表情なのは、今朝方まで続いた祝宴のせいばかりではあるまい。

朝食を済ませてから、宿をチェックアウト。
今回、「潮騒荘」さんには本当に良くして頂けた。秋の内之浦宇宙空間観測所一般公開の時はまた皆で泊まりたいねということで一致する。
その後、内之浦の町へ。

“母港”の町を上げて、「はやぶさ」を応援してくれているので感激。



そのまま町を抜けて、山を登り、やって来たのはここ。

内之浦宇宙空間観測所の、M台地(ミューセンター)
今から7年前、2003年5月9日13時29分。
初夏の青空に、その向こうの宙(そら)に。
「はやぶさ」はここから旅立った。
旅は、ここから始まったのだ。


4年前、運用を停止したミューロケット発射装置。
今はもう、彼を宇宙へと産み落とした母なるM-Vロケットがこの台地から轟音と閃光と共に翔びたつことはない。

さあ、改めて彼の帰りを祝って乾杯しよう。

ファイト、一発!帰って来たぞー…!!




雨に煙る“うっちーさん兄弟”のパラボラアンテナ達。
今、その巨大な椀の先にはもう、「はやぶさ」はいない。
でも、彼らは相変わらず忙しく、「はやぶさ」の弟たち…金星探査機「あかつき」小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」を支えるべく、通信運用を続けている。


内之浦宇宙空間観測所内の案内看板には、今も宇宙を翔ぶ「はやぶさ」の姿が…
しかも、本体のイオンエンジンが搭載された面は銀色に塗装されているという実にリアルなイラストにメンバーの皆が感心。
さすが、「はやぶさ」の母港だけのことはある。


「はやぶさ」の大先輩、
日本で最初の人工衛星、「おおすみ」の記念碑。


ここに、MOLTAさんの持ってきてくれた「(はやぶさと一緒にイトカワまで旅した小型ジャンプ・ロボット)ミネルヴァのようなケーキ」(笑)を置いて、
皆で食べました。
メンバーの皆、ここで初めて心の底から喜びがこみ上げてきて笑ったんじゃないかな。

メンバーと別れて、家に帰ってきた。
自室のPCを立ち上げると、モニタ画面の壁紙にはすっかり見慣れた、金色の機体に青く輝く二翼の太陽電池パドルを羽ばたかせた精悍な宇宙船の姿が浮かぶ。

「ああ、もう君は宇宙を翔んではいないんだなぁ…
還ってきたんだ。地球に」

…君の名は、はやぶさ。
今、君は地球に還り、地球の一部となっている。

そして目を瞑り耳を澄ますと、今でも僕には見えるんだ。
イオンエンジンの翼を羽ばたかせて大宇宙を翔ける、君の姿が。
僕の奇跡の宇宙船の姿が。

画像提供:JAXA

僕は初めて泣いた。
声も出さずに心の底から、僕は泣いた。

おかえりなさい… そして、ありがとう。
奇跡の宇宙船はやぶさ、地球帰還