UBB(ウーゼドム海岸鉄道)ペーネミュンデ駅で折り返す列車が到着
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ペーネミュンデは現在では人口数百人の小さな村になっており、ホテルはない。
だが、ペーネミュンデのあるウーゼドム島は島全体が東ドイツの夏の行楽地となっており、UBB(ウーゼドム海岸鉄道)に乗って暫く走ればリゾートホテルやコテージが建ち並ぶ町もあるので、泊まる場所には事欠かない。
尤も、今は真冬のシーズンオフ。誰もいない寒々としたリゾートホテルに一人で泊まるのは侘しいので、このままドイツを出て隣国のポーランドまで行ってしまうことにした。
ウーゼドム島の東端部は第二次世界大戦後にドイツからポーランドに割譲された為、島の中に国境線が通っている。その国境を越えた先に、島で最も大きな街であるŚwinoujścieがある。
ŚwinoujścieまではUBBの列車で直接行くことができる。
ペーネミュンデから約1時間、終点の駅の手前数百メートルのところで国境を越えたらしいのだが、列車はそんなことお構いなしといった風情でŚwinoujście Centrum駅に到着した。
パスポートチェックも何もない、島の中の小さな国際列車の旅だった。
Świnoujście Centrum駅は駅名は立派だが、街外れの住宅地の裏にあるプラットホーム1面だけのとても小さな終着駅。
もうすっかり日は落ちて真っ暗だし、ここからŚwinoujścieの街の中心までは1キロ程あるが、事前にインターネットの地図サービスで道程を把握しておいたので歩いて行ける。
生まれて初めて入国したポーランドの地方都市を、夜でも何の躊躇もなく歩けるとは、素晴らしく便利な時代になったものだ。
駅前から伸びる住宅地の大通りを歩いて行くと、やがて小さな広場に出た。
ささやかだが、心落ち着くクリスマスの装飾が輝く広場から伸びる石畳の路地の先に、これも予めインターネットで予約しておいたホテルをすぐに見つけることが出来た。
辺りに微かに海霧と潮の香りが漂っている。ここŚwinoujścieは港街だ。
ホテルにチェックインして部屋に荷物を置いたら、また外に出て港まで歩いてみることにした。
Świnoujścieは、市街地が水路で二分されている。
この水路はウーゼドム島をヨーロッパ大陸と隔てるオーデル川がバルト海へと流れこむ河口部に当たるもので、上流域には広い潟湖が広がっており外海から直接船が行き来する。
その水路の両岸に港が出来て発展した街がŚwinoujścieなのだが、バルト海からやって来る大型船を航行させなければならない関係上か水路には橋が架けられておらず、街の両岸を結ぶフェリーが24時間運行されている…らしい(情報収集に使ったŚwinoujścieの公式観光案内ホームページに記載された難解な英文を何とか読み解こうと格闘したが、それ以上のことはよく解らなかった)。
明日は、ペーネミュンデ方面には戻らずポーランド国内を経由する列車に乗ってベルリンへ戻ることになっているので、水路の向こう岸にあるらしいポーランド国鉄の駅への行き方を実際に調べておきたかった。
潮の香りを頼りに路地を歩くと、すぐにフェリーターミナルが見つかった。
このフェリーは地元に住んでいる人の自家用車と歩行者は無料で乗れるらしいので、そのまま船に乗り込んで向こう岸まで渡ってみることにした。
次々やって来る自動車が船内一杯に詰まったところで出港。
地元の人々の生活の足となっている「渡し船」は、Świnoujścieの普段着の顔を見せてくれて楽しい。
幅数百メートル程度の水路を横切るだけの10分足らずの船旅を終えて、向こう岸に到着。
フェリーを降りたクルマが走り去る道路のすぐ向かいに、線路と架線柱が見えた。
Świnoujście国鉄駅はフェリーターミナルの目の前の便利な場所にあった。
やれやれ、これで一安心、明日の朝は迷わず駅まで来て列車に乗ることが出来る。
せっかくここまで来たので、ちょっと駅を覗いていくことにする。
駅の構内には、堂々たる長大編成の列車が停車中。
近くまで寄ってサボ(行先表示板)を見てみると、首都ワルシャワまで行く寝台列車だった。
寝台車のデッキでは、若い車掌が石炭ストーブにコークスをくべている様子も見えて、思わず
「ああ、このままこの夜汽車に乗ってワルシャワまで行ってしまいたい!」という衝動にかられる。
…そして衝動が抑えられず、ちょっとだけ車内を覗いてみた。
3段ベッドの、2等寝台車(シーツや毛布等の寝具が備え付けられていないので、簡易寝台『クシェット』かも?)。
日本の昔のブルートレインのB寝台と同等の設備で、かなり狭いが、清潔でそれなりに快適そうだ。
寝台車の車内を見てますます乗っていきたくなったが、ぐっと我慢してそのまま下車。
長い編成を眺めながらプラットホームを歩く。
「寝台特急『はやぶさ』の最盛期の頃と同じ、1等個室車1輌組み込み2等車多数連結の15輌編成だな」などと思いを馳せつつ歩いているうちに、プラットホームの端まで来てしまった。
線路が行き止まりになっている辺りのプラットホーム上に、小さな待合室があり
Świnoujście PORTという駅名票がある。
どうやらŚwinoujście駅の先端部は港に面した別の駅という扱いになっているらしい。
待合室の時刻表に記載された列車は、1日に僅か2往復のみ!
夜に2本の列車が到着し、早朝と夜に1本ずつの列車が発車するだけの駅のようだ。まあ、発着本数が多い隣の駅まで歩いても10分もかからないから問題ないのだろうが…
Świnoujście PORT駅を出たすぐ前が、旅客船ターミナルになっていた。
バルト海の対岸、スウェーデンのYstadとデンマークのコペンハーゲンへと向かう夜行フェリーが発着している。
このフェリーの時刻に合わせて、Świnoujście PORT駅まで2本だけ列車が入ってくるのだろう。
再びプラットホームを歩いてŚwinoujście駅まで戻り、昨日ベルリンzoo駅で購入しておいた帰りの切符に記載された明日乗る列車の時刻を駅に掲示された発車時刻案内と照合して確認していると、Świnoujście PORT駅行きの「始発列車」が入ってきた。
午後8時前の始発列車がプラットホームの向こうで停車し、暫くしてこちらに向けて折り返し発車するのを見届けてから、港の水路の向こう岸に戻る。
途中、小さな雑貨屋でミネラルウォーターを買ってホテルに帰り、シャワーを浴びると何も食べずに水だけ飲んでそのまま寝てしまった。
ミネラルウォーターが、わざわざ成田空港内の銀行で両替して準備しておいたポーランド通貨ズロチで購入した唯一の買い物となった。
2011年12月31日
ホテルのロビーに用意されていた朝食を済ませてから、チェックアウト。
昨夜歩いた路を歩いてフェリーターミナルに向かう。
今朝もフェリーの航送甲板一杯にクルマが詰まるまで待ってからの出港。
特に出航ダイヤは決まっていないようで、年末休暇の朝のせいか積荷のクルマがなかなか集まらないので少々待たされる。
ようやく出港したフェリーの甲板から、ウーゼドム島側のŚwinoujście市街を眺める。
昨日一日を過ごしたウーゼドム島。ロケットの聖地ペーネミュンデのある島。いつか、必ずまた来よう…
そう心に誓った。
フェリーは港の中を縫うように、水路を渡っていく。
朝霧の中に佇むスカンジナビア半島から来た大型船を見ていると、この次ここに来る時はバルト海を渡る船旅もいいかななどと思う。
それが実現するのは何時になるかはわからないけれど。
ヨーロッパ大陸側(正しくはここもヨーロッパ大陸からは水路で隔てられたヴォリン島という島であるらしい)のŚwinoujście市街地に到着。
昨夜のポーランド国鉄のŚwinoujście駅が見えてきた。
今日はこの駅から、ポメラニア地方の中心都市であるSzczecinへと向かう近郊列車で出発する。
Świnoujście11:43発、Szczecin Główny駅行き近郊快速R88428。
ポーランドが社会主義国だった頃から使われていると思しき、無骨で古めかしい車輌のR88428列車。
だが、きれいに整備されているし車体への落書きなども無いので、決してみすぼらしくはない。
車内も小奇麗だが、何とも質実剛健なプラスチック製座席!
色もデザインも悪くはないが、さすがにこの硬い椅子にずっと座り続けるのはつらそうだ。座布団程度はサービスして欲しいところ。
Świnoujścieを発車すると、森の中を走っていく。
時たま森の中に工場や小さな町が現れる。あまり代わり映えのしない風景が続く。
森の中を走ること約2時間足らず。
13:32、終点のSzczecin Głównyに到着した。
ここで1時間の待ち合わせの後、ベルリン経由プラハ行きの国際急行列車に乗車する。
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