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なぜ、球状星団“テルザン5”では多くのパルサーが見つかるのか? 星同士の相互作用が頻繁に起こる密度が高い領域が原因かも

2024年07月23日 | 宇宙 space
天の川銀河の中心部“いて座”の方向に位置する球状星団“テルザン5”は、数十万個もの星々が密集する天体です。
この星団には、パルサーと呼ばれる特殊な中性子星が多数存在することが知られているんですねー

パルサーは、太陽よりも数十倍重い星が、その一生の最期に超新星爆発(II型超新星爆発)を起こすことで残される、強大な重力を持つ高密度な天体。
中性子星の中でも、規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体です。

多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーと呼ばれています。
パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが、自転とともに変化しているからだと考えられています。

今回の研究では、球状星団“テルザン5”において新たに10個のパルサーが発見されています。
この発見は、米国国立科学財団グリーンバンク望遠鏡と南アフリカ電波天文台の電波望遠鏡群“MeerKAT(ミーアキャット)”の共同観測によるもの。
これにより、“テルザン5”で確認されたパルサーの総数は49個となり、既知の球状星団の中で最多を記録しました。

本研究は、パルサーの形成と進化、球状星団の力学、そしてアインシュタインの一般相対性理論の検証といった、天体物理学の重要なテーマに光を当てるものになるそうです。
この研究は、米国国立科学財団国立電波天文台、マックス・プランク重力物理学研究所、マックス・プランク電波天文学研究所の天文学者からなる国際研究チームが進めています。
本研究の詳細は、理論・観測・機器に基づく天文学および天体物理学を扱う査読付き学術雑誌“Astronomy & Astrophysics”に“Discovery and timing of ten new millisecond pulsars in the globular cluster Terzan 5”として掲載されました。DOI:10.1051/0004-6361/202449303
図1.いて座の方向に位置する“テルザン5”は、何十万もの星がひしめき合っている球状星団。最近、米国国立科学財団国立電波天文台、マックス・プランク重力物理学研究所、マックス・プランク電波天文学研究所の天文学者からなる国際研究チームによって、10個の珍しいエキゾチックなパルサーが発見された。(Credit: US NSF, AUI, NSF NRAO, S. Dagnello)
図1.いて座の方向に位置する“テルザン5”は、何十万もの星がひしめき合っている球状星団。最近、米国国立科学財団国立電波天文台、マックス・プランク重力物理学研究所、マックス・プランク電波天文学研究所の天文学者からなる国際研究チームによって、10個の珍しいエキゾチックなパルサーが発見された。(Credit: US NSF, AUI, NSF NRAO, S. Dagnello)


最もパルサーが多く見つかっている球状星団

今回発見されたパルサーの中には、非常に質量の小さい伴星を持つ“スパイダーパルサー”と呼ばれる天体が3つ含まれていました。
スパイダーパルサーは、その強力な電波放射によって伴星から物質を引き剝がしながら、高速で回転していると考えられている天体です。

“テルザン5”には、以前から5つのスパイダーパルサーの存在が知られていましたが、今回の発見によりその数は8つに増えました。
スパイダーパルサーの形成過程や、伴星との相互作用についてはまだ多くの謎が残されていて、今後の観測・研究が期待されます。

また、今回発見されたパルサーの中には、“PSR J1748-2446ao”と呼ばれる、連星系を構成する2つの中性子星のうちの一つである可能性がある天体も含まれています。

もし、そうであれば、この連星パルサーは、既知の二重中性子星系の中で最も速く回転するパルサーと、最も長い軌道の両方の記録を更新することになります。
この発見は、二重中性子星系の形成シナリオや、その進化過程における重力波の役割について、新たな知見をもたらす可能性があります。


星同士の相互作用がパルサーに与える影響

“テルザン5”は、天の川銀河の中で最も星の密度が高い領域の一つで、星同士の相互作用が頻繁に起こっています。

球状星団は、数十万~数百万個もの星々が重力によって球状に集まった天体で、その中心部ほど星の密度が高くなります。
このような高密度な環境では、星同士の接近や衝突が起こりやすく、連星系の形成や破壊、星の進化にも大きな影響を与えると考えられています。

“テルザン5”で、これほど多くのパルサーが見つかったことは、この星団が過去に激しい星形成活動や、星団全体の重力収縮を経験してきたことを示唆しています。
特に、今回発見された10個のパルサーのうち9個が連星系であることは、星同士の相互作用がパルサーの形成に重要な役割を果たしていることを示唆しています。

さらに、パルサーは、その極めて正確なパルス周期と強い重力場によって、アインシュタインの一般相対性理論を検証するための理想的な実験場となります。

特に、連星パルサーの観測を通して、重力波の放出や時空の歪みといった、一般相対性理論が予言する現象を、高い精度で検証することができます。

“テルザン5”のような高密度な環境は、強い重力場における一般相対性理論の検証を可能にする、貴重な実験場と言えます。


“テルザン5”に潜むパルサーの謎

今回の発見は、“テルザン5”がパルサーの形成と進化、球状星団の力学、そして一般相対性理論の検証といった、天体物理学の重要なテーマを研究するための、他に類を見ない実験場であることを改めて示しました。

今後、より高感度な電波望遠鏡や、X線、ガンマ線といった多波長での観測により、“テルザン5”に潜むパルサーの謎がさらに解き明かされることが期待されます。
さらに、以下の点も重要となります。

1.パルサーの電波放射メカニズム
パルサーは、どのようにして強力な電波を放射しているのでしょうか?
その詳細なメカニズムは、いまだ完全には解明されていません。

2.パルサー磁場の起源
パルサーは、なぜ強力な磁場を持っているのでしょうか?
この起源も未解明の問題になっています。

3.球状星団の形成と進化
球状星団は宇宙初期にどのように形成され、どのように進化してきたのでしょうか?
その詳細な歴史は、未だ明らかになっていません。

これらの問題を解明するためにも、“テルザン5”におけるパルサー観測は重要な役割を担っています。
今後の観測と研究に期待ですね。


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