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準惑星エリスにも地下に海が存在する? 放射性元素の崩壊熱で氷の外殻に対流が生じているようです

2024年01月11日 | 宇宙 space
冥王星を惑星から外す大きな要因となった準惑星エリス(Eris)とその衛星ディスノミア(Dysnomia)のお話し。

エリスは、海王星より外側を公転し、冥王星(Pluto)と同じような氷でできた準惑星。
第10惑星と呼ばれていた頃もありました。

ハッブル宇宙望遠鏡の“掃天観測用高性能カメラ(ACS)”が撮影した画像(2006年8月30日撮影)では、エリス(中央の明るい光点)や、ディスノミアに(その左やや下にある小さな光点)を確認することが出来ます。
図1.2006年8月にハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影された準惑星エリスとその衛星ディスノミア。(Credit: NASA, ESA, and M. Brown (California Institute of Technology))
図1.2006年8月にハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影された準惑星エリスとその衛星ディスノミア。(Credit: NASA, ESA, and M. Brown (California Institute of Technology))
エリスの直径は冥王星とほぼ同じ約2326キロ、ディスノミアは約700キロ。
太陽に最も近い時でも約38天文単位(※1)、最も遠い時は約94天文単位も離れる楕円軌道を公転しているので、ハッブル宇宙望遠鏡でもこのような光の点としてしかとらえることができない天体なんですね
※1.1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
エリスが発見されたのは2005年1月のこと。
この発見は惑星の定義を見直す動きにつながり、2006年8月に開催された国際天文学連合(IAU)の総会で、当時は“惑星に分類されていた冥王星”や“小惑星に分類されていたケレス”とともに準惑星に分類されることになります。

カリフォルニア大学サンタクルース校のFrancis Nimmoさんとエリスの発見者の一人であるカリフォルニア工科大学のMichael Brownさんは、エリスの内部構造に関する新たな研究成果を発表しています。
この研究成果をまとめた論文はScience Advancesに掲載されています。
動画1.準惑星エリスと衛星ディスノミアのイメージ動画。(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser and Nick Risinger (skysurvey.org))


エリスの内部構造

地球の月と同じように、ディスノミアはエリスの潮汐力によって自転周期と公転周期が約15.8日で同期している“潮汐ロック”(※2)の状態にあると考えられています。
※2.潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。
一方、エリスもまたディスノミアの潮汐力によって自転周期が変化し、現在はディスノミアの公転と同じ周期で自転していると考えられています。

言い換えれば、エリスとディスノミアは互いに同じ面を向け続けていることになります。
このような自転と公転が二重に同期した関係は、冥王星とその衛星カロンにも見られます。

今回の研究では、エリスとディスノミアの自転と公転に見られる特性を利用して、エリスの内部構造を探るモデルを数か月かけて構築。
アルマ望遠鏡による観測で新たに得られていたディスノミアの上限質量の値を反映させて分析を実施しています。

その結果、エリスの内部が氷の層と岩石の中心核(コア)に分化していると結論付けました。

また、岩石に含まれる放射性元素の崩壊熱が外部へ放出されていく過程で、氷の外郭には対流が生じている可能性も高く、エリスはこれまでの予想よりも柔らかいことが考えられます。

硬い物体の様に振る舞わないというエリスの様子を、Nimmoさんは「ソフトチーズかそれに似たもの」と例えています。
図2.準惑星エリスのイメージ図(2011年10月公開)。(Credit: ESO/L. Calçada and Nick Risinger (skysurvey.org))
図2.準惑星エリスのイメージ図(2011年10月公開)。(Credit: ESO/L. Calçada and Nick Risinger (skysurvey.org))
エリスの内部構造を探る取り組みは、地球外生命の探索でも大きな意味を持ちます。

これまでの研究では、地球外生命にの探索において、ハビタブルゾーン(※3)に位置する惑星が重視されていました。
※3.“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。
でも、近年では太陽から遠く離れた惑星を公転する衛星(木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスなど)の内部にも潮汐力による過熱“潮汐加熱”(※4)を熱源とする海が存在し、生命が誕生している可能性も指摘されています。
※4.衛星の軌道が円形でないとき、惑星(や他の衛星)から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星(や他の衛星)の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星(や他の衛星)から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
このため、冥王星のエリスのような氷天体の内部を知ることは、太陽系外縁部の生命居住の可能性を理解する上で重要ことになります。

今回の研究で使用されたモデルの検証や改良に役立つとして、より正確なディスノミアの質量の測定や、エリスによる恒星の掩蔽(※5)を観測することで得られるエリスの形状に関する追加のデータが得られることに期待を寄せています。
※5.掩蔽とは、ある天体が観測者と他の天体の間を通過するときに、その天体が隠される現象。今回はエリスが背景の恒星を覆い隠す現象になる。


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