事実は小説より奇なりと言いますが、どんな人間でもその一生はドラマです。ノラだって同じ。彼らの1匹1匹の生き様に触れれば、そこには感動的なドラマがある。その一生が短いだけにドラマは濃厚で、多くのことを教えてくれる。この夏以降テン、みう、ルイと身近なニャンコを立て続けに看取って、感傷的になりつつ自身の至らなさも教えられた。トシを取ると気持ちの切り替えなんて容易じゃない。ここはひとつ、思い切り思い出に浸ってみようかと。
「ノラが家猫になるとき」という記事を書いたのは1年半前のことでした。わが家に迎えた後のリン一家が変わる様を書いたつもりですが、実はリンたちは何も変わってなくて、変わったのは自分の観点だった。この一家には本当にいろいろなことがあったけど彼らにとってそれは普通のことで、運命に翻弄されるノラの一生に初めて触れた自分の驚きに過ぎなかったのです。
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久々に揃って食事する現在のリン一家
リン一家は、数いるノラたちの中でも本当に何回も幸運に恵まれたのだと思います。それこそ宝くじに何回も当たったような幸運に。世の中は猫ブーム。テレビやネットには幸せそうなかわいい猫が溢れている。そんな猫たちに気持ちがほっこりするのもいいもんです。でも同時に、草葉の陰で不幸のどん底に喘いでいるノラたちにも思いを馳せてあげられたらと思うのです。特に先月の大洪水のような災害時には。
今回はリン一家がわが家の家族になるまでの軌跡を辿ってみました。主人公はリン(当時はイエミケ)、キー(黄チビ)、クウ(白黒チビ)の3匹。バイプレーヤーはソトチビと、私ことオジンです。
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☆リンとの出会い
2年前の10月。勝手口でソトチビのご飯を食べていたリンと遭遇。ソトチビはリンを怒るどころかむしろ見守っていた。みうをオジンに奪われたソトチビの、2度目の恋の始まりでした。
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(左)はじめて出会ったリン (右)リンにご飯を譲るソトチビ
☆チビたちとの出会い
11月になってリンがまだよちよち歩きの子供、キーとクウを連れて来た。一家はソトチビの寝床で暮らし始めたので寝床をアパート形式に"増築"したところ、ソトチビとの共同生活が始まった。彼らはとても親密で寝床の区別もなくなった。ソトチビは相変わらず通いで夜になると寝に来る。毎日のご飯にホッカイロ交換、それにトイレや寝床の掃除と家猫並みのお世話を続けました。
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(左)アパート仕様の寝床 (右)一家とソトチビの食事風景
☆キーのご難・その1
キーが近所の貯水池に落ちた。朝になってご近所の奥様方が騒いでいた。2m以上深い貯水池は水がなく底が沼のようになっていた。脚立を持って金網の隙間から入り、周囲に町内の奥様方が見守る中、貯水池の底でキーと必死の追いかけっこをして何とか救出した。無残な姿で檻の中に残った自分。それが、わがノラ保護活動の町内デビューとなりました。
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(左)深い貯水池の底にキーが (中)逃げ回るキー (右)救出後家裏でリンと合流
☆キーのご難・その2
年が明けた真冬の深夜、リンの尋常でない様子に裏のお宅を覗くとキーがグリーンカーテンに逆さ吊りになっていた。雁字搦めで簡単には外れず、結局深夜に電話してネットも切らせてもらうことに。作業中キーが暴れだし、勘違いしたリンとクウが攻撃してきた。リンの猫パンチにクウの体当たり。ようやくネットが外れると3匹揃って闇の中へと消えていった。しばらくすると、いつもの寝床に戻っていた。
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宙吊り事件の翌日に一家揃って
☆クウのご難
そろそろ親離れを迎える頃のある日、庭を見るとクウが家族を探していた。夢中で探すクウが心配になって後をつけると、どんどん町内の奥の方へと進んで行く。明らかに方向を失って不安そうなクウに、まだ懐かれてない自分にはどうすることもできず途方に暮れていると、生垣の下からソトチビが顔を出してクルルルとひと声鳴いた。すぐに道端に沿ってさっさと歩き出すと、クウが慌ててついていく。家裏に戻ると、家族と一緒にクウがいた。
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家族と合流したクウ(奥)
☆ソトチビの発情とリンのNR(Tはなし)
2月になると子離れを迎えたリンの妊娠準備ができたのだろう、物静かなソトチビが発情した。2匹が恋を成就するまさにそのとき、意地悪なオジンがリンを取り上げて家の中に保護した。慌ててリンを探すソトチビと子供たち。ソトチビはリンのいない間、子供たちの面倒を見続けた。リンは翌日手術を受け、復帰を目指して家の中で養生した。
子供たちとリンは1日に2,3回勝手口の隙間から対面させた。10日間の養生の後半は、リンにリードを付けて家裏に慣れさせた。子供たちとは徐々に家族に戻ったが、リンの変化に気落ちしたソトチビは姿を消し、そのまま行方不明となった。リンはバレンタインの日にリードを外し、正式にRした。
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(左)ソトチビと過ごす子供たち (中)ドアの隙間から親子のご対面 (右)リードを付けたまま寝床に入ったリン
☆お迎えという形の保護
リンは家裏での生活を続けたが、家族3匹が揃う時間は随分少なくなっていた。親離れで姿を消す前に、まだ懐かないキーとクウをどうやって保護するか途方に暮れた。そこで一計を案じたのは、勝手口の隙間からリンと対面させるとたまに子供たちが家の中に入って来たことだった。その機会はリンのRから2週間後、春の嵐になる前日にやって来た。
その朝、ニャーとみうはたまたま2階の部屋にいた。勝手口の隙間からリンが入って来た。リンは保護して以来家の中を気にしない。すると続いてキー、やがて臆病なクウも入って来た。かねてから妻との打合せ通り、妻が様子を見ている間に自分が玄関から出て勝手口に回り、妻に確認しながら外からそっと勝手口の扉を閉めた。子供たちはリンに続いて保護部屋に移動。こうして騒動もなくキーとクウの保護が完了したのです。リンのRを後悔したこともあって、リンも一緒に保護しました。
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(左)ドアの内側に入った子供たち (右)保護部屋に入った一家
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無事に保護されたリン一家はわが家で現在に至るわけですが、実は当初は里親さん探しを行う予定でした。しかし子供たちがなかなか保護者に懐かず、今でも家庭内ノラをやってる始末。里親さん探しが棚上げになってしまったのです。でも保護者には馴れなくても、一家にとってはすっかり楽しいわが家になったようです。
キーとクウは幼少の頃から見守ってきたが、物心ついて多少遠征に出るようになった頃、よく"戦利品"を持ち帰ってきた。それがアイスクリームの芯棒だったりお菓子の袋だったり、そんなもの食べられないよ、果たしてこの子たちはこのまま放っておいたら生きていけるのだろうかと思ったら涙が出た。そんな思いで書いたのが「この一家に光を。」 一家の保護を決意したときでした。
昔と違って、今では街中で暮らすノラが自分の力だけで生きていくのは不可能に近い。家には入れないしゴミ箱は漁れない。都会ではネズミや小動物だってそんなにいるわけじゃない。虫は冬になればいなくなる。結局ノラたちは、特に子ノラにとっては人間の施し物を頼りにするしかない。しかし飢えばかりじゃない、病気や事故や寒さなどで殆どの子ノラが1才を迎えずに果てていく。彼らが幸せを手に入れるには、リン一家のようにいくつもの幸運にめぐり合わなければならないのです。
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幼少期を家裏で過ごしたキーとクウ