大正時代、「赤い鳥」が創刊され、児童文学ブームが巻き起こりました。当時、挿画やイラストの画家としてデビューし、「童画」という言葉を最初に使った、武井武雄。彼の絵がふんだんにちりばめられた童話集が、本棚の奥から出てきました。昭和51年第一版発行の文庫です。
読み始めて、意外の面白さにびっくり。センチメンタルなところも教訓的なところもない、徹頭徹尾ナンセンス。こういう内容の童話は、日本ではとても珍しいのではないかと思ったら、ちゃんとあとがきに書いてありました。
「日本には珍しい<ナンセンス>のセンスあふれた童話である」
「日本の近代的な児童文学は、(中略)ナンセンシカルな作品系列を大きく欠いている点において欧米と著しく異なっていました」
「江戸時代のことを考えれば(中略)奇想天外より来る昔話であったり地口や謎々であったりして、ナンセンスな要素にあふれていました」
「近代日本の児童文学は(中略)<遊び>の要素を極度に欠落させていたわけですが、そのようななかに在って、ひとり武井武雄の童話だけが例外でした」
「竹の着物」は、人間のように着物を着たいと願っていた竹が、ある時突然伐られてもの干し棹にされ、願いかなって?竿に洋服を着せられたという話です。小咄みたいな落ち。
「陸軍大将」は、飼い犬に名前を付けるのですが、名付けるたびに何らかの支障が出てくるので改名せざるを得ず、とうとう最後は「陸軍大将」という名に落ち着いたという、まあ何でもない話なのです。
「けれど、たった一つ、気の毒で見っともないことは、時々塵捨て場の凹みで、ご飯のおこぼれを、ボソボソとほじくっては召上がっている、陸軍大将の姿を見る時でございます」
解説者は、ここに「反骨精神」があると指摘していますが、どうなのでしょう。そのあたり、ぼかしてあるように思います。ただ、ついこちらも、なんとなく笑ってしまうことは確か。
長い名前を持つ「ラムラム王」は、奇想天外。いったいどこで話が終わるのか、見当がつかないところがすごい。でもちゃんと話はおさまります。それもかなりユーモラスに。
絵はなかなかしゃれています。
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