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中国でキリスト教会が発展する理由

2012-05-08 20:43:15 | 中国、中国のキリスト教
中国南部におけるキリスト教会(家庭教会)。本文とは直接関係がありません。 

中国で1980年代から21世紀に入ってもキリスト教会が急速に発展している。そこで中国の人々がなぜキリスト教に惹かれるのか、今までいろいろな人があげた理由をまとめてみた。


私が注目している燕京神学院(北京)の教授陳驯(チェンシュン)師は、人々がキリスト教に惹かれる理由は千差万別で複雑であるが、背景となる大きな原因は1)経済のグローバル化、2)中国の改革開放政策(1978-)である、と述べる。長年上海駐在の友人武重直人氏も改革・開放政策が民衆の価値意識の変容をもたらしたと見て修士論文にまとめている(1999年)。


陳師はその上で社会学的な角度から分析すれば、文化大革命(1966-77)後「人々の心に生まれた真空」もしくは「文化や精神面で帰属する基盤を喪失したこと」が、国民全般に及んだと見ている。精神性の追求が重要な要因となったと言う。(陳驯 2010, p. 86)武重も同じことを詳しく論じている。(末尾参照。)

これを別の言葉で具体的に、「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想への信頼低下」と民主化運動に携わる劉燕子は指摘する。易しい言葉で言えば「毛沢東思想が威力を失った中国で人々が新たな心の支えを求めている」のである(莫邦富 1996当時)。タイム誌は「共産党のイデオロギーが実質上若者の間で雲散霧消した」と評した(1998/3/2)。


関連して社会の変動で、著しい格差社会の出現、重労働に苦しむ現実、拝金主義の風潮に嫌気がさしたこと、人間の欲望が丸出しになり危うさを覚え始めたことなどをあげることもできる(朝日新聞 2010/02/21)。劉女史が言う「共産党員のモラルの低下、人心の荒廃」も同じである(2012/04/28 講演レジメ)。


それに対し、キリスト教には特権階級が存在せず、貧富の差が小さい(劉、同上)。また、キリスト教は今日社会がかかえる問題に耐える力を与えてくれると読む指導者もいる(長沙の牧師、2000/9/18 タイム誌)。

ほかに、キリスト教信者の日常の行ないを見て感化されて入ってくる場合が多い、家庭環境や個人の健康問題なども関係している、と一般的な理由をあげた記事もあった(朝日新聞1990)。家族が教徒であったと、信仰の継承もあげられる(陳驯)。


さらに、西洋の文化に関心をもってキリスト教を知りたいという傾向、あるいはプロテスタンティズムと経済発展が関係すると思って興味を示すなどキリスト教文化熱も影響している(朝日1990, 陳)。アルジャジ―ラは「好奇心」inquisitiveな側面を項目の一つとしてあげていた。

陳驯は改革開放政策が宗教・信仰の自由を積極的に進め、比較的緩やかな政治環境がキリスト教の発展を促したことを指摘する。そして、80年代、90年代に信徒の増大、信徒の経済力向上が、礼拝堂建築(再建、増築、新築)の波をもたらしたと記している。それが更に人々を惹きつけることになった。


ただ、陳馴は現在の中国におけるキリスト教の状況は数量的なもので、成熟という意味の発展はこれからであること、将来人々の視野や思想の多元化により、日本や台湾のキリスト教の状況のようにならないか懸念する声が出ていることを記している(p. 94)。私も早晩中国のキリスト教徒も批判神学に触れて、あるいは社会が裕福になって世俗化・現代化が浸透するにつれて、ヨーロッパや日本のような道をたどるのではないかと予測している。


参考
武重直人、「中国改革・開放政策による民衆の価値意識変容: 都市部におけるプロテスタンティズム受容実態からみた脱イデオロギー化の様相」1990年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に提出された修士論文。武重は陳の言う2番を社会学の面から詳しく、専門的に説明している。中国における従来の「単位danwei」が、非国有セクター成長や失業者増大によりカバーする範囲が縮小し、機能を低下させ(福利厚生の切り離し)、剥奪が生じた。それは信念体系や帰属先の喪失(精神的・社会的剥奪)をもたらし、このような剥奪感を解消するものとして教会が機能し、多くの教会加入者が生じたと分析している。中でも都市部における社会変動に注目して論じている。

陳馴、「当代中国的基督教神学方法」(A Study of Theological Methodology in Contemporary China), 宗教文化出版社、2010.

沼野治郎「都市化と新宗教の興隆:創価学会と日本のモルモン教会の場合」広島国際学院「現代社会学」2号、2001年。

劉燕子講演「現代社会とキリスト教:中国民主化の課題とキリスト者の位置・役割」レジュメ 2012/04/28, 於神戸賀川記念館

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Aljazeera, "Chrisitianity: China's best bet?," Jul. 1, 2011
Aljazeera, "True Believers," You-tube, Jun 30, 2011


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4 コメント

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中国の発展 (オムナイ)
2012-05-19 15:47:07
中国キリスト教の記事、興味深く拝見しました。

ホームワードにもバプテスマを受けた中国の若者がいますが、
意外な事に定着活発にやっています。

ロドニー・スタークさんのモルモン発展の予想を的中させるには中国での成功が不可欠(^^?

下世話ですが8億の人口の何パーセント改宗できるかということでしょうねー。
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ええっと・・ (NJ)
2012-05-19 22:28:57
よいニュースです。意外なこと・・と言わず励ましてあげてください。

ldsが中国で伝道解禁になったとして、(当分というか暫くずっとあり得ない)どうなるか私には予測できません。少なくとも礼拝の在り方で中国の基督教徒には物足りなく映ると思われます。彼らの讃美歌を歌う力強さ、説教の強さなど、ldsは淡泊にすぎるからです。
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やはり意外だった(^^; (オムナイ)
2012-05-21 15:39:12
というのは、上海万博での中国人のマナーに対する考え方が若い改宗者にも見られたので(^^;

約束は破る、ルールは破る、連絡はしない。

ビショップに怒られてたし、他の若者からも白い目で見られていたので、てっきり居心地が悪いだろうなと思っていたら、さにあらず。

自分の都合で動いて何が悪い。そんな感じなのでしょう。

そー言えば例の「公式化」は進んでいるのだろうか?
ロムニーさん万一当選のあかつきには進展があるやも。
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褒められないケースも (NJ)
2012-05-21 18:00:25
うーん、きちんとした中国人も東北(黒竜江省)で多く見てきましたけれど。

「公式化」というのはregularizeのことですね。これが中国の担当官吏の頭の中で何を意味するのか、中国籍ldsグループの組織・存在をもっと許可するものだとすれば、その後どうなっているのか、残念ながらまだ私には何も分かっていません。

中国の民主化運動に対する弾圧的な対応などを見ていると、前途多難、時間がかかるという印象です。最近、中国の未来混沌の感じすらしています。

参考:2012.2.18 「正規化する」。中国の言う「正規化する」の意味について
2010.10.18 北村富広記事 バラード長老発言 20のグループが存在
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