田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔闘学園  麻屋与志夫

2008-09-17 06:10:17 | Weblog
麻屋が念力をこらす。
ふたたび、三津夫は。
そこに墨染めの衣の立ち姿をみた。
心に僧侶の言葉がひびいてきた。
呪文はいらない。

       

『御殿山公園にあるお地蔵様』
                                  
       
念をこらすのだ、三津夫‼

ケイコの力が目覚めるよう祈るのだ。
念じるのだ。
ケイコの体力が回復するように。
祈るのだ。
三津夫、おまえにふさわしい女生徒だ。
おまえを好きな女の子だ。 

塾の中学生との冬の合同特訓のとき。
ちくちくする視線を三津夫は感じていた。
ケイ子のものだった。ケイコがおれを見ていたのだ。
ありがたい。うれしい。
おれみたいな蛮からをBFに選んでくれた。
 
ふいに、悪意が凝縮した。
地下への階段をおりてくるものがいる。
「こいつだ。オッチャン。おれたちがあった西からきた男だ」
が、ガクランの男は。
学生などではなかった。
数百年いや、数千年を閲してきた凶悪な動物だった。
Dタイプ。
始祖に一番近いといわれている。
Dタイプ。
兇暴なやつ。
いちばん敵にはしたくないタイプ。
Dだ。
始祖Dにかぎりない近似値をもつDNA。
こわいタイプだ。  
「安倍泰成の封印はとうのむかしに弱まっていたのだ。
いつでも、この野州の地にこようと思えば。
こられたのだ。
神戸に地震をおこした。
京都でも地の竜にひとあばれさせた。
いまこうして、玉藻さまをおむかえにきた。
石裂山は尾裂く。
この鹿沼の西、加蘇の久我にある石裂山こそ。
じっは九尾の狐の封印された土地。
この娘の住む犬飼村で飼っていた。
猛犬の群れに追い立てられ。
追い詰められ10の世紀を封印されたものの。
恨みをおもいしれ」
「それでケイコの血か。
あいもかわらずクラシックナ連想ゲームだな。
犬飼の娘の血をぬきとり九つの部族のものを召喚する」
「古くてわるいか」

吸血鬼が乱杭歯をむきだした。
にたにた笑っている。
 
姻循姑息な考えは改まらないものだ。
温故知新といきたいものだ。

「三津夫、ケイコをつれだせ」
「いいの。
わたしは闘うことにした。
はじめからそうすればよかったのよ」
血の気のうせた顔で。
ケイコが健気にいう。
「番場、武を呼べ。はやく、呼べ」






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魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-16 16:20:18 | Weblog
それこそ犬死だ。
生きぬくのだ。
いま拘束は全部といてやる」
 
ケイコが犠牲となって死ねば災いは起こらない。
われわれは、地竜をあやつることができる。
地震を起こすとができる。    
那須岳をふたたび噴火させることもできる。
黄金の九尾の狐。
玉藻の前のご加護のもとに。
われら千年の時空をこえて。
よみがえりしもの。
犬飼村のおまえらの先祖が。
われらに弓ひいた罰は。
おまえの体と血で。
あがなってもらう。

そうおどかされた。

戦闘服をきた「妖狐」の集団に。

そうおどかされた。

それで、どうしていいかわからないで家出したというのだ。    
三津夫に相談にいった。         
会えずに帰るとき、誘拐されて……。   
妖狐のヤツラだ。
吸血鬼だ。
それで、この御殿山にくる道をたずねたのだ。
ここは吸血鬼の基地だ。
あれからずっと、この辺りに住み着いていたのだ。
そう、三津夫は理解した。
「ケイコ。間にあってよかった」
麻屋はケイコを抱き起こした。
生贄台から下ろした。
わかった。
もう泣くな。             
「先生、犬死になんで、ジョークとばしてる時かよ」
三津夫が夢中でケイコの頬を差すっている。
血をうしなった青白い顔に赤みが差してきた。
「二荒せんぱい。
死ぬまえに会えてよかった。
せんぱい……。
わたし…。
せんぱいのこと。
……好きです。
スキデス……」
あたりかまわずケイコが泣き出した。
「ケイコもういい。
泣くな。
輸血してもらえば。
すぐに元気になるからな。
死ぬなどと考えるな。
三津夫とわたしをサポートしてくれ」
 
おまえは、犬飼の娘。

九尾の狐をかりたてた犬飼い族の末裔なのだ。
これきしのことで泣くな。 






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魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-16 07:37:04 | Weblog
 だが、番場にはまだ異界の気配は感じられない。
「空気が濁っていない。だれかが出入りしている証拠だ」
 じめじめした空気。
 だがたしかに。
 空気は淀んでいない。 

 抜け穴はほどなくつきた。
 御殿山の裾の今宮神社のあたりだ。
「封印を解き。
 この穴にもぐりこむことのできる人間が。
 鹿沼にはいないと思われている。
 なめられたものだ。
 それがさいわいした。
 わたしは、結界をはり。
 長いこと鹿沼の若者のために塾をやってきた。
 こんなちかくに悪意を噴き出す場所があったとはな」
「先生。
 故郷鹿沼のためなら。
 ぼくは先生の教えにしたがい闘います」
 三津夫と番場。
 ふたりが声をそろえて麻屋を支える。
 
 やや広くなった行き止まりに大谷石の台があった。
 生贄台? 
 石室とも見えた。
 
「ケイコさん」
 三津夫がかけよった。
 人型の窪みにケイコが綱で固定されていた。
「だいじょうぶ。息はしている。しっかりろ」
 三津夫が夢中で縛めをとく。
 
 綱は9本あった。
 綱からは血がながれていた。
 綱の先にはそれぞれ9個の小さな壺がある。
「先生……麻屋先生。わたし、わたし」
 ケイコが泣いている。
 弱りきっている。
 このまま発見がおくれれば失血死していたろう。
「どんなことがあっても……。
 どんな理由があっても……。
 ケイコが犬飼の人たちのために生贄となって。
 人柱となって死ぬなんてことは許されない。




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鹿沼の秋祭り/来てね

2008-09-15 21:15:28 | Weblog
9月15日 月曜日
●わたしの小説の舞台となっている風光明媚な故郷鹿沼で秋祭りがあります。

●10月11、12日です。

●今年は市制60年を記念する「鹿沼ぶっつけ秋祭り」で盛り上がります。

●国の重要無形民俗文化財に指定されている祭りです。

●ぜひきてくれっけ。と鹿沼弁の挨拶。

●吸血鬼/浜辺の少女。吸血鬼ハンター/美少女彩音。魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝。で、描写した場所も見られますよ。

●「恋空」にでた千手山公園の観覧車もすてきです。
御殿山公園もいいですよ。すぐ近くに昔の城主の墓があります。わかりにくいので市の観光課で聞いてからおでかけください。

●わたしのおすすめは川上澄生美術館とその前の清い流れの黒川です。上にトマソン、幸橋が架かっています。吸血鬼ハンター美少女彩音のオープニングで描写した場所です。

●いまは使われていない幸橋の欄干に。白鷺が音符のように並んでいるのをみられたあなたは。幸せになれます。

●あらあら、お祭りのポスターと千手山公園の観覧車の写真よく取れていませんでした。あすのこのブログにのせます。ということで、カンベンシテネ。

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魔闘学園/吸血鬼の浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-15 15:31:56 | Weblog
城があったころから。
存在したという。
伝説の井戸。                  
あの頃でさえ。
青く苔むしていた井戸。  
だが水のうまさは……。
いまでも覚えている。  

この窪地。
光のささない影の部分の。
この地のもつ違和感。
はっきりとこの肌が覚えている。   

そして、昔はあまり見えていなかったものが。
見えてきた。             
石の囲いがわずかに残っているにすぎない。
麻屋は三津夫&番場とその縁に立った。 
苔むした石に掌をあてた。        
呪文をとなえる。
石がゆっくりと盛り上がってきた。
青い鱗状の苔むした。
石の蓋がうごいた。
石の表を擬装ししていた。
苔が枯れていく。  
迷彩が消えると……。  

「先生。これは……」
おどろいてあげる声を。
番場は三津夫に押さえられた。

「これはなんなんですか」
こんどは低く囁やく。         
異様なあたりのし雰囲気を感じたのだ。
三津夫は黙って辺りに気をくばっている。 
「抜け穴があるらしい。
ゆうべ徹夜で鹿沼の古文書を調べた。
街の中で。
人知れず悪霊召喚の儀式ができるのは。
こうした地下の空間だけだ。
防空壕あとは。
五箇所も昼のうちに調査ずみた」
「残るはここだけってわけスか」
しかし、さきほど。
「先生。これは……」
と番場が絶叫したのは。
そういう回答をもとめたわけではなかった。
みなれた塾の先生。
何の変哲もないアサヤのオッチャンが。
ほかのものに変わっていた。            
呪文をとなえる塾の先生。        
麻屋がふいに溶解した。
破れた墨染めの衣を着た乞食坊主がいた。
それが見えた。
番場にも見えたのだ。   
なんで、麻屋のオッチャンが坊主に見えるんだよ。
おれはどうかしてしまったのかよ。
と三津夫のほうもびびっていた。
 
そんなことはない。
どうかしたわけではない。        
三津夫も番場も、心配するな。
ふたりとも、とくに三津夫は。
二荒の血を強くひいていたのだ。 
おれの姿が乞食坊主にみえるなら。
三津夫は、おれの側の人間だ。
番場もどこかで、わたしたち麻績部(お み べ )の系譜につながってる。

注。麻績部については半村良『闇の中の系図』角川文庫151ー155ページを参照。

だから、異様な雰囲気は感じる。
先生が呪文を唱えていた。

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敬老の日の夢

2008-09-15 13:30:43 | Weblog
9月15日 月曜日 敬老の日
●敬老の日。だからといってわたしのところは、子どもたちから電話などかかってこない。子どもたちはわたしを老人だとは思っていない。いまは、実年齢×7といわれている。

●60歳を超えた老人が人口の一割にたっしたらしい。

●このところ若者の活字離れは甚だしい。わたしは病気の親の看病のため学業半ばで故郷にもどった。いらい50年東京と鹿沼を行き来して生活をしている。学習塾をやっている。子どもたちの活字離れというが、完璧に読まない。本をよむ子などいない。読むのは国語の教科書だけ。それも音読できる子はきわめてすくない。ゲームのやり過ぎなのか、声をだすことが億劫らしく、まとまったことを話せる子はいない。悲しいことだ。

●そんな彼らに読んでもらいたいと吸血鬼小説を書いている。この鹿沼を舞台にしている。
じぶんの身近に起きている事件を書いた小説なら興味を持ってくれるかと推測した。あまり効果はなかったようだ。

●男はなんどでも挑戦する。麻生太郎自民党総裁候補関連の言葉だ。わたし麻屋与志夫もこの言葉は肝に銘じている。

●25歳で東京を離れた。あのとき青山一丁目から霞町界隈に置き忘れてきた時間にもどりたい。25歳からの再出発だ。人間は年を取る。でも心はいつまでも若さを保つことができる。

●代々木山谷の生まれのカミサンも生まれ故郷をなつかしがっている。

●フルタイムの作家になって東京にもどることがわたし夢だ。

●この年で無謀にもカムバックを期して頑張っている。新藤兼人先生のことをかんがえながら日夜創作に励んでいる。バカだな。つくづくそう思う。無謀もいいところだ。

●後期高齢者となったわたしにもまだ夢見る力はある。

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魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-15 06:16:55 | Weblog
 番場も口をはさんでくる
「御殿山への道をきかれました……」

 ふたりとも。
 あの「妖孤」と背に染めぬいた戦闘服の族。
 の連中を見たのか。
 見ないのか。
 分からなくなっている。

 記憶が曖昧になっている。

「あちら」
「こちら」

 彼岸。
 と此岸(しがん)

 鹿沼と。
 裏鹿沼。

 二つの世界のブレの中に。
 三津夫も番場も落ちこんでいる。
「おそらく式神だろうな。
 黒装束の吸血鬼を。
 式神として身のまわりに。
 ひきつれている……。
 とすれば、そいつは……。
 耳がとがっていなかったか……」
 
 おれの推理にはまちがいはない。
 やつらが動きだしたのだ。           
 
 千年の時空を超えて。     
 
 千年の時空を超えて、京都から。
 鬼を呼び寄せることができる。
 それほどの能力を喚起できるものは……。

 やつらが。ふたたび。
 この街を襲おうとしている。
 
 御殿山公園の南側に堀跡がある。 
 いまは草茫々とはえた窪地だ。   
 このあたりと見当はつけていた。
 麻屋は背中にぞくりと戦慄が走る。
 昔、少年野球をしていた。
 乾きを癒すために下り立った。
 内堀の跡に。
 あった井戸。

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インターバル/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-09-14 12:22:49 | Weblog
9月14日 日曜日
インターバル/魔闘学園

●鹿沼を検索する必要があった。たまたま御殿山の欄をみた。

●驚いてしまった。魔闘学園から引用されていた。あらあらまあまあ。それから鹿沼の欄をずっとネットサーフィンしていったら……いたるところに、わたしのブログからの文章がはりついていた。

●これはわたしの意思とは全く関係なくなされることで、みなさんに不愉快をあたえてはと心配になった。

●それというのも、わたしの場合ブログにはほとんど小説をのせている。小説だから事実とはまつたく関係ない。それが、文章を断片的に載せられると事実として読まれてしまう恐れがある。

●現在の連載はファンタジー。吸血鬼小説だ。鹿沼がバァンパイアの侵攻を受けているはなしだ。

●御殿山公園の地下に吸血鬼の巣窟がある。そんなこと絶対に信じないでください。

●鹿沼のPRになればと、地名や場所などをよほどのことがないかぎり実名で出してきたが、考えてしまった。わたしは善意でしていることでも、迷惑をかけていることもあるのかもしれない。

●ひさしぶりで戻った鹿沼。駅前の田村旅館は消えていた。

●警察は、これはだいぶ前にクリンセンターのほうに移転した。だから、鹿沼の人にしかわからないことだが、小説の中で武が警察から出てすぐせに公衆便所に入るシーン。あれはむかしの警察の場所です。現実とは少しずらした描写をしました。けっこう気をつかっています。それでも結果的に不愉快な場面、表現があったらごめんなさい。

●鹿沼にはレディスは存在しません。ましてこれほどすさまじい中学生や高校生もいません。念のためここに記しておきます。

●他の土地のお住まいのみなさん。鹿沼の秋祭りは10月11、12日です。

●ぜひおいでください。

●ことしは市になってから60年になります。屋台も勢ぞろいします。

●昨日終った「恋空」にでた千手山公園の観覧車も見てください。

●川上澄生美術館。その前のトマソン橋―わたしの小説に出てくる幸橋。図書館。モロの花木センター。黒川の流れ。訪れてください。将来、鹿沼吸血鬼ツアーが立ちあがるように!!!

●そんなことは起きないだろう。夢が現実となるようにがんばります。


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魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-14 04:44:41 | Weblog
逃げながら悲鳴をあげていた。      
ゲートの方角からMPが走ってくる。   
そこで、麻屋の記憶はとだえる。    
 
ほかのものに見えないで。
わたしに見える。 
なぜなんだ。              

しかし、麻屋はいまはそんなことは気にしていられなかった。
二股山、石裂山(おざくさん )、古峰山、そして遥か彼方の日光の山並。
やがて血色の空は闇に閉ざされる。    
闇のなかでは、あいつは力を増す。    
悪意が御殿山公園の隅々から沸き出てきた。 
あいつがあらわれてからでは遅いのだ。  
そのものの完全な形を太陽のもとで見たことはなかった。              
たえず、みじかにその悪意を感じつづけて生きてきた。               
悪意の波動は麻屋が年をとるとともに強くなった。                 
そしていま、麻屋は得体の知れない波動の渦を感じた。           
それは黒々とふしくれだった桜の古木のかげからながれてきた。 

影が現れた。
 
「アサヤのオッチャン。散歩ですか、もうすぐ塾の始まる時間スよ」
「どうしてここにいるんスか」
「よう。三津夫と番場か。おまえらに昨夜約束した説明をするまえに、どうしても確かめておかなければならないことがあったのだ」

「じゃ、武せんぱいも呼びますか」 

おれも年だ。三津夫のはなつ波動には害意はなかった。    
むしろ、公園に満ちた悪の害意に逆らう、拮抗して闘う波動だった。
善と悪。その識別すらおれはつかなくなっているのか。      

「そいつら、が目指していたのが、ここか?」
「ガクランのやつは御殿山を知っていました」 
そうか。
三津夫の話す黒装束の集団の。
残留思念が。
ここに漂っているのだ。      
彼らと遭遇した三津夫と番場にも。
その思念が。
まつわりついて。
いるのだ。        
昨夜Fの屋上で会ったというものたちも。
悪意の牙をもっていたはずだ。     
そう思うと、感覚が鈍ったわけではない。
と麻屋はいくぶん気をとりなおした。
仮想現実と。
われわれが現実であると。
信じている世界とをへだてていた障壁に。
ゆがみが生じている。

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魔闘学園/浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-13 05:58:08 | Weblog
累々とそびえる黒い袋。
雨の音だけがしていた。     
聴覚だけが、麻屋を現実につなぎとめておく。                   
獣のすすり泣きのような声が聞こえてきた。
……邪悪な気配をあたりにふりまいている。
人型の影は背伸びをしていた。
ビーと音波のようなささやき声が。
麻屋の耳にひびいてきた。
(なんだ日本に帰っていたのか。おまえにはおれの形が見えるのか。なら……話ははやい。ここで見たことは、とくにおれのことは忘れるんだ。おれは傭兵Aとでも覚えておいてくれ)                
あまり損傷のない肉体が怖かった。    
死んでいたはずだ。
それが、こうして死体袋を内側から鉤爪で切り裂いて出てきた。

死体袋は黒い子宮。
それを内側から切り裂き再生した。
吸血鬼???

おれはどうかしている。
悪い夢を見ているんだ。
こんなことがあるわけがない。      

父が鹿沼土の窪みにのみこまれていく。
悲しい目撃の体験が。
思い浮かんだ。
はじまったのだ。
またあの超常現象が。

逃げていく人型の影を。
じっと見詰めていた。
恐怖で足がすくむ。
身動きできなかった。
悪夢のようなクリーチャだ。
害意をあたりにふりまく。
体が臭い。
口が臭う。
汚水のような臭いの流れがあとにできる。
こちらを威嚇して、シュシュと唸り声をたてていた。
声をだしながら移動していた。
Aは4メエトルもある金属ネットヘンスをらくらく飛び越えた。
麻屋は逃げ出した。

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