田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔闘学園/吸血浜辺の少女外伝  麻屋与志夫

2008-09-12 13:25:22 | Weblog
 7

西の空が赤い。             
鹿沼の夕焼けは美しかった。
童謡に歌われるような牧歌的な美しさがあった。
雨季がはじまらないので、この季節には、空気が澄んでいる。
夕焼けは茜色。
足尾山塊の上空に茜色の夕焼けは広がっている。
一日に終りを染め上げている。彩っている。
いまでは。

茜色の空を見上げて。
一日の終りを。
「ああ今日もぶじ暮れたか」
と嘆息まじりに感じる。
などという感性は。
人から失われている。
しかし今日の夕空なぜかふいに――。
どどくどくしい蘇芳色になる。
雲が急に変色したのに――人々は気づかない。
巨大な鯨を横割りに切ったような。
気味のわるい色の雲……。
茜色と美しい言葉でいえないような。
夕焼けの空になってしまった。   
不吉なことが起きる前兆ではないか。
これは血の色ではないか。
空が血の色だ。

一瞬、滑走路の隅の黒い死体袋と血の色が。
麻屋の脳裏によみがえった。    
 
もぞっと袋が動いた。
やはり夕暮れ時だった。
数千キロのかなたから運ばれてきた死体が動くわけがない。            
麻屋は小雨の中、厚木基地の片隅。
焼却炉のわきに積み上げられた黒い袋の山をみあげていた。
ふりかえったが、交代要員のジムの来る気配はなかった。
まだ時間にはなっていない。
パトナーの白人のマックスは作業をさぼって飲みにいってしまった。 
高宮は内閣情報室に出向していた。
明日まではもどらない。
わかい彼のことだ。
いまごろは、新宿のゴールデン街で飲んでいるだろう。
そうおもう。
仕事をしているのはおれたけだ。
とブルーになる。
それも、こんな汚れ仕事だ。               
禍々しい黒い袋の山がむくっと盛り上がった。

     応援ありがとう
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
  


魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-12 05:38:41 | Weblog
ミグミは淫夢をみていた。

腕の痛みはうすらいだ。
もとどうりになるかどうかは。
わからない。
そんなのやだょ。
赤ちゃん産んでも。
まともに。
だっこできないなんて。
やだよ。
やだからね。
だいいち、彼氏ができても。
片手でだきしめるなんて。
ダサイよ。
メロドラマみたい。

ヤダア。

やがることないですよ。

夢の中に。

男の声が。
わりこんできた。

わたしのいいなりになれば。
腕だって。
もとどうりに。
使えるように。
なるんたけどな。

ねね、そんなオイシイ話し聞いたことないよ。

「バー」
っと男のイメージ。
が、ミグミの夢に。
はいりこんてきた。

腕を砕かれた。
アイツだ。

メグミは悲鳴をあげた。

そうだ。
これは夢だ。
夢なんだ。

覚めるように。
覚めるように。

メグちゃんがうけいれてくれなくてもね。
オジサンはヤルキだからね。
男の顔はBタイプの顔。
だがメグには吸血鬼とはうつらない。
ギラギラした目。
涎をたらした。
乱杭歯のはみだした。
口。

ミグミは。
また悲鳴をあげた。
ソンナのいやだあ。
噛まないで。

殺されちゃう。

そんなことありませんよ。
オジサンにまかせてくたさいね。
バカ丁寧なことば。
やさしく。
やさしく。
話しかけてくる。

こわい。

なめてあげますよ。
ただ。
首筋を。
なめるだけですよ。

イタクはないですよ。

長い舌だ。
先が裂けている。
先が。
二つに。
裂けてる。
ようだ。

でも、いいきもち。
きもちいい。


ペロペロと。
耳を。
なめられている。
耳がこんなに。
敏感だとは……。
しらなかった。

責め立てられ。

メグミはうっとりとしていた。
こきざみに。
体を。
うねらせて。
のぼりつめていく。
……こんなのはじめて。
はじめて。
こんなのってあるの。
イイイイ、いいきもち。
あっあっ、もつとやさしく。
やさしくう……。
やさしく。
……ヤッテぇ。

そのちょうしですよ。
ヤッテ、いいのですね。
よがって。
きましたね。
もっとよくしてあげますよ。
ほらっ。
男の鋭い牙が。
じわじわ。
首筋に。
もぐりこんでくる。

「イヤァ」ミグミはじぶんの絶叫で目覚めた。


どれくらいの時間。
責められていたのだろうか。

どれくらい時間が。
経過したのだろう。

しまいには。
オジサンが。
メグミノ首筋に。

愛咬の跡をのこして。

消えた。

ミグミはベットから。
起き上った。
アレッ。
わたし。
砕けたほうの。
手をついて。
起き上がっている。

これって、まだ夢の中なの。
夢よね。
夢よね。

メグミは>

病室を抜け出した。
それっきり彼女の姿をみたものはいない。

    応援ありがとう
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
  

「恋空」のロケ地 鹿沼

2008-09-11 22:40:55 | Weblog
9月11日 木曜日
●わが鹿沼が「恋空」のロケ地となった。

わたしの小説にもでる場所がでている。

ああ、鹿沼はこういう場所なのかとみなさんが納得してくれた。

風光明媚。

いい町ですよ。

古き良き日本の原風景を残しています。

●ガッキ―主演の「フレフレ少女」にも御殿山球場がでるらしい。

たのしみだ。

●ここも、わたしの魔闘学園の舞台となっている。

●こうしたロケ地として選ばれて、すこしでも鹿沼の映像がテレビにながれることは嬉しい。

●さて、わたしの魔闘学園はこれから鹿沼を舞台として佳境に入ります。

ぜひご愛読ください。

    応援ありがとう
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ



麻生太郎

2008-09-11 18:06:30 | Weblog
大麻 3
●全国に麻のつく苗字はいくつくらいあるのだろうか。

●川崎市の麻生(あさお)区で住民票などの申請書類記載例が麻生太郎になっているので改めるらしい。

●わたしの麻屋与志夫は実はペンネームだ。

●あいつぐ大麻の葉の盗難と、品種改良のため麻本来の品質の低下、そこえきて合成繊維とくにビニロンの普及が野州大麻を衰退に追いこむ。そう判断したわたしは上京を覚悟した。

●「麻屋はやめるのか。麻屋はヨシタのか」と父に叱責された。
それで麻屋与志夫というペンネームを思いついた。

●このところ、角界の大麻疑惑がおおきく報じられている。

●麻生太郎氏の自民党総裁選立候補。それで、毎日のように麻という文字が新聞やテレビに現れる。

●わたしはあなたと違う、感慨をこの「麻」という漢字に持つ。

●新藤兼人96歳。新作を完成させ、さらにシナリオを書いている。敬老の日がすぐ来る。
敬老の名にあたいする、まだ現役の先生、いつまでもお元気でいい仕事を続けてください。

●先生の授業は霞町のシナリオ研究所四期生として拝聴した。

●あれから50年。どなたか50ぶりの同窓会を企画してくれませんか。

●かく言う、麻屋与志夫、研究所に入所したときは本名、木村正一です。

     応援のクリックありがとうございます。
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


魔闘学園/吸血鬼浜辺への少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-11 06:25:06 | Weblog
 武に口をふさがれた。
「失礼しました」
 武が挨拶している。
 だれにあやまっているのか?
 
 非常階段のところまでもどった。
 階段の手摺に触れた。

 階段が消えていた。
 階段の踏みいたが。
 ない。

 三津夫は。
 闇の底に向かって。
 落下していく。
 幻覚におそわれた。

 闇にむかって。
 ダイビングしなければならない。
 恐怖におそわれた。

 そして、跳んだ。 
 だれか、悲鳴をあげた。         
 女のこの悲鳴だ。            
 キャアっという悲鳴が尾をひいて。
 闇の中を転落していく。              
 転落したのは少女。
 悲鳴も少女のものだ。
 いや。
 それは、ちがった。
 じぶんの悲鳴だ。
 と。
 三津夫が気づくのに。
 数秒かかった。
「三津夫。しっかりしろ。なにを見た」
 近くて遠いところから、武の声がする。

「三津夫に見えて、聞こえることがどうしておれたちには、見えも聞こえもしない」
「番長がいたから、すこしはおれっちにも見えたのかもしれないんす。聞こえたのかもしれないんス」
「だが、どうしておれなんだ」
 三津夫には理解できない。
「もういちど、屋上に忍んでみませんか、武せんぱい」
「いや、危険すぎる。アサヤのオッチャンに相談してみよう」
「そうだ、アサヤ先生なら、オカルト小説を塾の授業のあいまに書いているから、こういうことには明るいはずだ」

「塾の女子生徒が蒸発しちまったんだ。こちらから武のところにいこうとおもっていた」
 武の携帯に耳をよせていた三津夫が会話に割りこむ。
「タカコのやつなにもおれにはいわなかった」
「昨夜のこともきいていないのか」
「タカコがなにかしでかしましたか」
 生活の時間帯も。
 街での活動のテリトリーも。
 同じ家にいるのにちぐはぐな。
 兄と妹は顔すらあわせていないらしい。
「吸血鬼の侵攻をうけているのだよ。この鹿沼が」
 とんでもないことを、オッチャンがいう。
 吸血鬼。侵攻。吸血鬼が……。
 こんなのって、オカルト小説のセリフだ。
 こんなのって、小説の世界の話題だ。
(なぜ、鹿沼なのか)
「玉藻の前といったのか」
「マチガイアリマセン」
 三津夫がむきになって声をあらげる。
「わるい。三津夫をうだがっているわけではない。おかげで、だいたいのことはわかった。あすまでには、くわしく説明できるだろう。今夜のとこは、気をつけて帰ったほうがいいぞ」                  
「ケイコさんのことは、わたしも署にもどってしらべてみます」

 武は携帯をとじた。

    応援ありがとう
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


魔闘学園/吸血鬼浜辺への少女 麻屋与志夫

2008-09-10 03:31:04 | Weblog
 武は腰に手をまわした。
 拳銃は所持していなかった。
 三津夫が特殊警棒をふるう。
 3段に伸びる。
 鬼の頭部に叩き込む。
「どうしたんですか。なにをそんなに、かっかっとしているの」
 鬼が軽く後ろにとんだ。
 警棒をさける。
「なにものなんだ」
「おや、おれたちに話しかけられるのですね」
 奇妙に優しい声が戻って来る。
「なにものなのだ」 
「だから、あなたがおもっているように血を常食としている鬼ですよ」
 解放された番場が三津夫の背後ににげこむ。
「びびっちゃって、ごめん」
「あいては人間じゃない。異界のものだ。鬼だ、恥にはならない」
 ざわっざわっ鬼が動いた。
 とりかれこまれた。
 囲炉裏の周囲にいた鬼どもが3人を取り囲む。
 一触即発。

「はい、カット」

 ちょび髭の監督の声。
 なに、なんなんだこれは。
 ライトがつく。
 撮影現場にまぎれこんでしまったらしい。
 郷土の歴史を記録映画にまとめているのだという。
 番場の認識が正しかった。わけがない。         
(そんな、バカな)
 武が三津夫の腕をひいている。
(だまされないぞ。なにが映画のセットだ。撮影だ。そんなことは、聞いていないゾ)
「失礼しました」
 武があやまっている。
 三津夫はそっとふりかえった。
 街がすっぽりと黒い霧におおわれている。
 巨大な人型の影がさっと黒いコートをひろげたようだ。
 そして。
 目前にいるのはこれまた黒いコートの男たち。
 吸血鬼だ。
 比喩ではない。
 人影は実在した。
 月光を背中からあびている。
 無限にひろがる黒いコートの影は。
 屋上にできた街をおおってしまった。
 吸血鬼の立っているのは、
 鹿沼の西北に広がる前日光高原のあたりだ。
 三津夫が叫ぼうとする。

     応援ありがとう
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
  
  

魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-09 17:14:48 | Weblog
 動悸が高まる。            
 三津夫には幻聴が聞こえている。
 おれの恐怖感が作り出している。
 おれの脳が作り出している幻の声。
 おれだけにしか聞きとることのできない声なのか。

「番場、あまり離れるな」
 声をはりあげたが遅かった。
 番場の悲鳴が聞こえた。
 民家の中だ。

「男の血は吸えないな」
「女の、わかい女の子の血でないと口に会わん」
「男の血はまずいからな」
 そんな幻聴の渦のなかで、番場が忽然ときえた。
「どうした、番場。おれたちをからかうきか」 
 からかっているわけではない。
 そう感じている不安な声で武が叫んでいる。
 声にならない。
 声としては聞こえてこない。
 恐怖、おそれおののく波動が番場のきえたあたりからながれでている。
 ふるびた民家の中で、悲鳴がおきた。
 番場だ。
 武と三津夫がとびこむ。
 囲炉裏がきってある。
 巨大な鍋のなかで湯がにえたぎっている。
「おや、向こうから獲物がやってきたぞ」
「たべてもらいたいのかな」
 囲炉裏をかこんで、ごくあたりまえの人型がうかびあがった。
 こんどは武にも聞こえたらしい。
 見える。
「なんだ、きさまらこんなところに住みついて」
 ホームレスと思っている。
 そう思っているほうがしあわせかもしれない。
「こいつらは……」
 三津夫がなにかいおうとした。
 おくの部屋で番場が「ここだ、武さん。たすけてくれ」と叫んでいる。
 襖を開けた。
 番場が鬼に首をしめられている。

     応援ありがとう
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

大麻たばこへの恨み

2008-09-09 09:00:29 | Weblog
9月9日 火曜日
大麻 2
●日光例弊使街道の道沿いでも大麻の栽培禁止令は適用されないですんだ。

●それから数年たってから、わたしたち鹿沼の大麻商人は現実に大麻の葉の盗難を経験することになる。東京の大学生とか外人が夜陰に乗じて大麻畑から葉を持ち帰る。そうした盗難の記事が下野新聞を賑わすことになった。

●さあ大変。北押原の県の農事試験場で麻の成分の薄い、タバコとして吸っても無効のような新種を作りだした。改良したその品種は押原一号と呼ばれた。しかしその種を播いてとれた麻は強度がなく粗雑な製品しかとれなかった。ともかく一さっぱ、二センチほどの麻一枚で米俵を下げるといつた自慢の強度は犠牲となった。そこえきて、手引きだった加工方法に機械が導入されだ。年間生産高45万貫を誇った全国一の麻の生産地は自滅してしまった。

●合成繊維が麻の販路、使用道に食いこんできたことももちろんあった。

●わたしはこの野州(栃木県)盛衰を小説に書こうとした。それがわたしが小説を書きだした原点だ。

●あまりにテーマが大きすぎていまだに完成していないのは残念だ。おのが非力を嘆いている。

●いまでは麻といえばマリファナ。悪役だ。わたしたちの生活に密接につながっていた麻の用途について知っている人はあまりいない。寂しいことだ。

     応援のクリックありがとう
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


大麻汚染

2008-09-08 22:01:03 | Weblog
9月8日 月曜日
大麻 
●角界が大麻汚染で揺れている。理事長北の湖親方が辞任。あいつぐ大麻吸引、所持、疑惑。もうどうしょうもないところまで来ている感じだ。だが、わたしはまったく個人的な思い出にのめり込んでいる。

●かれこれ60年も前のことである。記憶があいまいなので間違ったらごめんなさい。
栃木県の県庁の農務課から麻商組合に呼び出しがきた。終戦直後のことである。

●GHQからお偉いさんがくる。というのだ。わたしは英会話の勉強を始めていた。神の国。大日本帝国を打ち破ったアメリカという国について知りたかった。父のお供をして県庁にいった。

●アームストロングとい強そうな名前だが、女性の係官だった。いいわたされたことは予想だにしないことだった。

●青天の霹靂とはああいう驚きのためにある表現だ。

●日光街道の両サイドで大麻の栽培はまかりならぬ。というのだ。その理由がさらなる驚きを大麻取扱い業者にもたらした。

●日光に観光のために往還するGIが大麻タバコをすっては困るから……というのだ。

●このときわが鹿沼の何百年とつづいている大麻商ははじめて、マリファナという言葉を学ぶことになる。学んだところで、栽培を禁止されては農家も業者も死活問題だ。

●署名運動もした。われわれ日本人は、成熟した大麻の茎から繊維をとっている。そのために大麻を栽培しているのだと陳情した。なんとか禁止令は解かれた。

●大麻の繊維を商うなどということは、いまは過去のものとなった。大麻吸引だけがいまも健在だ。悪いことは外からやってくる。そして長続きする。

●あれから通訳とか塾の英語講師でずっと生活をさせてもらっているのだが、こと大麻のことを考えるとどうもアメリカがすきになれない。お世話になった、仲のいい友達も大勢いるのに、あのとき、大麻の葉をタバコとして吸うと知らされたときのショックを思い起こすと複雑な感情になる。

    応援のクリックありがとうございます
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝  麻屋与志夫

2008-09-08 08:13:20 | Weblog
 屋上には、黒い森があった。
 それも屋上庭園なとどいうナマハンカなものではない。
 黒々とした樹木がはてしなくつづいている。
 遠近法のマジック……?
「なんだよ、これは。ここの屋上はこんなにひろかったのかよ」
「霧が深いから視界がきかないスょ。でも異常ですね。このコンクーリートの床、やわらかすぎますよ」
 三津夫のほうが武よりリアルに現状を分析している。
「コンクリの床がなみうっているス」
「らしいな。それに水もない川なのに橋がある。あれは昔の御成橋だ。改築される前の、鉄骨のピアつきの橋だ」
「屋上に黒川が流れている。水がなくても……川があるだけでも……それだけでも、おかしいと思わないスか」

 これは、疑似体験の世界だ。
 バーチャルリアリテイだ。
 こういうことになると。
 わずかな世代のちがいだが。
 三津夫や番場のほうがすなおにうけいれる。
 現実と非現実という対立した感覚はあまりない。
 アンビリイバブルなものに感性を刺激されてエキサイトしている。
 武はつしていけない。

 旧御成橋。
 京都の宮廷から礼弊使が日光の東照宮に参勤するときに渡った。
 由緒ある橋だ。
 改築されてから数年たっている。
「移築した話しは聞いていない」
 ふたりは、不気味にうねる床をふみしめながら、橋にさしかかった。
 橋を渡れば街に入る。
 街の風景がゆがんでいる。
 街の全景がきみょうにねじれている。
 橋もたわんでいる。
 これはもう、ROMチップのつくりだした古きよき鹿沼だ。
「御成り。玉藻の前さま御成り」

 橋を渡る。
 三津夫に聞けている声が武には聞こえていない。
 彼の表情には変化がない。
(玉藻の前。
 玉藻、玉藻。
 どこかでたしかにきいたことがある。
 こんなことなら。
 もっとマジに社会科の勉強をしておけばよかった)
 暗い。
 道路の感触がおかしい。
 発泡スチロールのうえを歩いているようだ。


「どうした。三津夫」
「せんぱいには、なにも聞こえないんスか」
「なにかきこえるのか」

「おれたちのことを感じているやつがいるぞ」
「おれたちの姿がそのまま真向こうからみえるのかもしいれない」
「おどしてみるか」
「おどしてみるか」
 ふたつの影がささやき交わしている。

 御成橋をわたりきった。
 街の古い家並みがみえてきた。
 しかし、どれくらいむかしなのか。
 茅葺きや板葺きのやねだ。
 だが、まちがいなく縮尺された鹿沼の街並だ。
 古きよき時代の鹿沼のミニチュアだ。
「これって、テーマパークですよ。ほら『むかしの鹿沼な生活展』なんてのをやっる準備をしていたのですよ。それにしてもおおがかりだな」
 番場がめずらしくうがった解釈をする。
 そうとわかると元気がでたのか、どんどん橋をぬけて街にはいっていく。
 小人国にまぎれこんだ、ガリバーの気分でいるようだ。
(それは、ちがう。番場、油断するな。なにも番場、危険を感じないのか)
 三津夫の不安はたかまる。

    応援のクリックよろしく
     にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ