〇「BENT」PARCO STAGE (福岡市民会館、8/16 18:30~)

最近なんだか演劇づいてる感じで、福岡公演があると聞いて夕方仕事帰りに見てきました(写真:市民会館から帰る時のキイロイトリ)
ベントはサー・イアン・マッケランの舞台や映画で有名な作品として知ってはいたけど、見るのは初めて(椎名桔平版も役所広司版も見てない)。終戦記念日に続く日にふさわしく大人向けの舞台ですな。
やはり非常に重くて緊張感の強い舞台であった。スタンディングオベーションの後で、ようやく我に返って気づいて時計を見たら、えっ、2時間45分も経ってたのか!?と初めてわかって驚いた(もっと短い時間かと思った)くらい、集中して見ていたんだと思う。落語ではないのだが極限までシンプルに造られた象徴的なセットで、ほとんど台詞の応酬と役者の身体表現だけを中心にして、ほんとにそれだけでこれほど鬼気迫る怖さと迫力が満ちてくる、ってのは物凄いことだと思った。
北村有起哉さんがかっこよくて声も良くて(もちろん北村和夫さんラジオ朗読や洋画吹替にも昔からお世話になっているが)じーんと来る。佐々木さんも見ていて、やっぱり演劇やってる人は身体をよく鍛えてるなと感心した。新納さんの歌も良かったし、美紳士・藤木孝さん(!)を生で見られてよかったし(30年以上前から白塗り麿で時代劇に出るのを見るたびに「怖い…」とずっと思っていたのだ)ほんとにびしっと決まっている…なあんてことは、正直いうと観終わってからようやく思い出すわけで、見ている間はずーっと、そんなことを考える余裕は全く無かった、といってよい。
ユーモラスな瞬間も時々やってはくるのだけど、すぐ怖いことが起こり、猛暑の中で背筋が凍る気分というのか、息詰まる程、会場の空気が張りつめていたし、会場全体が集中して(これじゃ携帯電話の電源切らなきゃだめなのがよくわかったよ、マナーモードでも聴こえちゃうかもしんないくらい)、しん、となっていた。これも終わった瞬間だけど、客席がふっと明るくなって、自分の周りの席の人たちがみんな泣いてるのにも(自分はこういう時、むしろ茫然となって反応が止まってしまうんだけども)気づいた。セットも動きも余計なものが削ぎ落された時空の演技の表現が、刺激された人間の想像力の反応との相乗効果でもって、こんなに圧倒的な「場」をもたらしてしまうんですな。描かれる非人間的な虐待の世界への怒りや恐怖も含めて、またもや演劇に「ぎゅっと胸がつかまれてしめつけられるようなショック」の持つ力を学んだ気がする。
世界中で起こっている様々な抑圧や残酷な恐喝や非寛容のようなもの、その中で人間として生きるためにその生き方を求めて苦しみあがくさまが、ここに圧縮されて象徴されているかのごとく、これもまた観劇後いろいろと怖いけど考えてしまう物語である。(20160817)