話自体は,ひぇ~;な暗い話だし,で,オコンクォの生き方ってどうよ? ウノカの生き方はどうよ? 白人はどうよ? って議論するべきなのでしょうが,その前に,それよりも何よりも,そんな暗い話も全て包み込んでしまう,アフリカの大地の自然,豊かな食べ物,そこでずーっと生きてきた人達の習慣,たくましさに,何だかすっかり癒されてしまうのでした。タイトルからもう明らかにヤバイ話なのに,そんな話を読んでいても,何故かほっとしてしまう,何かがあるんですねぇ。
。。。というのが,まず何より最初に感じた事でした。その分,最後に白人がやった事には,怒り以外の何物でもありませんでしたね。
彼らは,150年前のアフリカで,豊かで文化レベルの高い生活をしていたんですよね。
今流行りの「エコ」に関して,興味深い風習や教訓もたくさんありました。他人の家に行くのに自分の椅子や座布団は自分で持っていくのもそうだし,彼らの豊かな生活を支える大地の女神アニ。この女神様の恩恵を頂くにはかなりの「覚悟」が必要です。お腹が膨れる病気になった年老いた父や,双子の赤ちゃんなどを生きたまま森に捨てなくてはなりません。平和を乱した者や自殺など,彼女の意志に逆らって亡くなった者も森に放置しなくてはなりませんね。それは全て
"If one finger brought oil, it soils the others."を防ぐ為。自然に逆らわず豊かな生活を維持するには,厳しい掟を守らなくてはいけないという事,やはり人間が地球で暮らすのは難しいんだなあと思います。
ただし,あまり森に大地の女神が忌む者を捨ててばかりだと,今度は森に邪悪な霊が増え過ぎて困った事になってしまうので,神様に相談して習慣を変更できるという臨機応変さも(笑)一神教のキリスト教等ではあり得ない柔軟さもあって,そこがまたいいなあと思います。
いろいろ為になる言い伝えもありましたが,中でも,「物言わぬものを決して殺してはいけない。」という言い伝えは深淵だなあと思いました。
で。登場人物はどうよ,の件ですが。
実は,オコンクォのような人が,アフリカにいたというのは,正直ちょっと驚きです。前にも触れましたが,日本には,一杯いますよ,上を目指して一生懸命働き,失敗を極度に恐れるオコンクォ達。周りにも一杯います。タイトルを持たない人間を心無い言葉で平気で侮辱したり,たまたま葉っぱを取られて枯れたように見えたバナナを見て大騒ぎしたり,ちょっとバカにされただけで銃をぶっ放す奴。気の弱い部下は怠け者とみなし,お気に入りの部下がいても滅多にその情を見せず。。。。そう考えてみると,会社の縮図を見ているようで,‥‥はっきり言って,やめてくれ~です。(^^;)
7年の流刑を経て復活してみると,村はがらりと変わっていました。反対する人もいましたが,基本的に,新しい時代が始まってもう後戻りは不可能でした。そんな折,新興勢力に侮辱され尽し,しっぽ切り(エライと思ったのは,ちゃんと「声」聞いてから殺した所です),その後村の最も忌み嫌う方法で村に対しても復讐したわけです。でも,結果,彼は,新しい場所にも,昔ながらの村にも,どちらにも,死んだ後も,居場所がなくなってしまいました。この辺りも,会社に使い尽くされ,古くなれば容赦なくバカにされ,捨てられるサラリーマンを思わせ,哀しいです。
でも,家族を守る為,一生懸命働くオコンクォという人物は,それなりに魅力的ですね。ウノカも良いですが,やはり,男は仕事が出来るなら,悪くありません。(笑) ちなみに登場人物で好きだったのは,いつもオコンクォの気持ちを察していたエジンマと,優しい叔父さんウチェンドゥです。
追記:著者
チヌア・アチェベ(1930-)は,白人によって描かれたアフリカの話には,ウソが多いと思って自らペンを取ったのだそうです。最後に白人の地区長がオコンクォについて自分の本に加えようと考えているシーンの文(原文)
One could almost write a whole chapter on him. Perhaps not a whole chapter but a reasonable paragraph, at any rate. There was so much else to include, and one must be firm in cutting out details. He had already chosen the title of the book, after much thought The Pacification of the Primitive Tribes of the Lower Niger.
には,その苛立ちが良く出ていますよ。