花
夢は切断された果実である
野原にはとび色の梨がころがつてゐる
パセリは皿の上に咲いてゐる
レグホンは時々指が六本に見える
卵をわると月が出る
花咲ける大空に
それはすべて人の眼である。
白くひびく言葉ではないか。
私は帽子をぬいでそれ等をいれよう。
空と海が無数の花瓣(はなびら)をかくしてゐるやうに。
やがていつの日か青い魚やばら色の小鳥が私の顔をつき破る。
失つたものは再びかへつてこないだらう。
山脈
遠い峯は風のやうにゆらいでいる
ふもとの果樹園は
真っ白に開花していた
冬のままの山肌は
朝毎に絹を拡げたやうに美しい
私の瞳のなかを
音をたてて水が流れる
ありがとうございますと
私は見えないものに向って拝みたい
誰も聞いてはいない
免しはしないのだ
山鳩が貰い泣きしては
私の声を返してくれるのか
雪が消えて 谷間は
石楠花や紅百合が咲き
緑の木陰をつくるだらう
刺草の中にも遅い夏はひそんで
私たちの胸に どんなにか
華麗な焔が環を描く
夢は切断された果実である
野原にはとび色の梨がころがつてゐる
パセリは皿の上に咲いてゐる
レグホンは時々指が六本に見える
卵をわると月が出る
花咲ける大空に
それはすべて人の眼である。
白くひびく言葉ではないか。
私は帽子をぬいでそれ等をいれよう。
空と海が無数の花瓣(はなびら)をかくしてゐるやうに。
やがていつの日か青い魚やばら色の小鳥が私の顔をつき破る。
失つたものは再びかへつてこないだらう。
山脈
遠い峯は風のやうにゆらいでいる
ふもとの果樹園は
真っ白に開花していた
冬のままの山肌は
朝毎に絹を拡げたやうに美しい
私の瞳のなかを
音をたてて水が流れる
ありがとうございますと
私は見えないものに向って拝みたい
誰も聞いてはいない
免しはしないのだ
山鳩が貰い泣きしては
私の声を返してくれるのか
雪が消えて 谷間は
石楠花や紅百合が咲き
緑の木陰をつくるだらう
刺草の中にも遅い夏はひそんで
私たちの胸に どんなにか
華麗な焔が環を描く