朝日新聞に連載されている
(東日本大震災5年)私たちは変わったのか:1 記憶と忘却(2016年3月8日)
桑山紀彦氏(心療内科医)の言葉がストンと腑に落ちた。
人間は忘れる生き物というけれど、あれほどの体験を忘れられるはずがない。
悲しみや悔いを封じたままでは、心の傷は癒やされません。それどころか、
つらい記憶にさいなまれ続けることになる。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を薬で治すことはできない。
重要なのは、記憶に支配されるのではなく、記憶を支配できるようになることです。
そのために必要なのは、語ること。語って現実と向き合うこと。(中略)
誰かに語り、聞いてもらうことが第1ステージ。
桑山氏は、トラウマの特徴は断片の記憶しかないこと、という。
連続性がないので、それぞれの記憶は切り立ったままと。
でも、体験を語り、現場に足を運んだりするうちに、欠落していた記憶を埋めることができる。
同時に、自分を守るため無意識に切り離していた感情もよみがえる。
そうやって記憶に感情が伴い、つながり、物語が完成すると、記憶は角が取れて丸くなり、
心の引き出しの中にすっぽりと収まるのです。もう苦しむことはありません。
つらい記憶を自分で出し入れできるよう、記憶を整えるのが第2ステージです。
手芸教室を始めて数カ月後、女性たちは「閖上あみーず」というサークルを立ち上げ、
7色の台所用タワシを作り始めました。「虹色たわし」は評判を呼び、1万個以上売れた。
自分たちの手で生みだした商品が誰かの役に立つんだと実感できると、
負の記憶が正の遺産に変わる。第3ステージ、「社会的再結合」と呼ばれる瞬間です。
そうすれば、失ったものの違いから悲しみを比べて傷つけ合うようなこともなくなります。
(中略)
ただ、日本では、語ることの価値が十分に認められていません。いまだに「そっとしておこう」
という空気さえある。でも、切り立った記憶をそのまま放っておいたら、
刃のように心を傷つけ続けます。
語ることで記憶を紡ぎ、記憶を整える。それができれば、次の一歩を踏み出せるはずです。
(細字部分、記事から抜粋)
そうなんだ。
辛い記憶の角を取って丸くして、記憶をコントロールする…か。
心の自浄作用というか、
人の心は無意識にこれをやれているのかもしれないね。
でなきゃ、前へ進めないもの。