ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

北氷洋

2018-11-19 22:07:46 | 読書
イアン・マグワイア『北氷洋』





 これは傑作ではないのか?

 最後の数ページに達するころ、ふと思った。

 それまで、そんなことはまったく思いもしなかったのに。


 『北氷洋』というタイトルの、馴染みのなさ。

 表紙の、少し古くさい文字。

 それに合わせて、イラストも古いテイストを含んでいるけれども、実は新しい。

 子どもの頃に読んだ、数々の冒険小説を想起させる表紙。

 とはいっても、子ども向きではない。子どもには刺激が強すぎする。

 簡潔で的確な描写。

 ミステリー、アドベンチャー、少し文学の匂い。

 選ばれた言葉は、あえて古い言い回しを時々混ぜ、1800年代の雰囲気を醸し出している。翻訳のうまさ。

 完全な善人などいない。

 完全な傑作などない。

 少し瑕疵があるくらいが、心に残る傑作なのかもしれない。

 カバー装画は影山徹氏。(2018)



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マクソーリーの素敵な酒場

2018-11-17 22:31:37 | 読書
ジョゼフ・ミッチェル『マクソーリーの素敵な酒場』





 濃い緑色の表紙に、白抜きで英語のタイトルが入っている。

 帯を取ると、酒場の入口、扉が開いていて店内が見える構図だとわかる。

 手描きのタイトルは看板なのだ。

 白と黒と緑の単純な線が、古い雰囲気を作り、1940年頃の酒場へ誘ってくれる。


 てっきり、この表紙は、元の英語版を流用していると思っていた。

 では、日本語タイトルが入っている、中央の白い部分には何が描かれていたのだろう。

 酒場のカウンターの奥にあたるところだ。

 アマゾンで調べると、英語版の表紙にはセピア調の写真が使われ、まったく違う雰囲気。

 ノンフィクションらしさが漂う。

 ということは、日本語版は、あらたに描いたものなのだろう。


 書店で最初に手にしたとき、酒場を舞台にした小説だと思った。

 しかしそれは、最初の一文を読んだ瞬間に誤解だったと気づく。

 それでも、読めば読むほど、これは本当の話なのだろうかと疑いたくなる。

 それほど、変わった人たちが登場する。


 古きよきニューヨーク。

 失われた街の、失われた場所。

 そんな郷愁にひたりながら、ネットで検索してみると、「マクソーリーズ・オールド・エール・ハウス」は、現在も営業しているのだった。


 装丁は重実生哉氏。(2017)











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異形の愛

2018-11-16 18:44:17 | 読書
キャサリン・ダン『異形の愛』


 最後まで、この小説にどう向き合っていいのかわからなかった。

 巡業サーカスで生きる、ある家族の話。

 母親は、かつて鶏の頭を食いちぎるギークとして活躍し、団長とパートナーになると、奇妙な子供たちを産み出す。

 サーカスで生きていくために必要な、最高のプレゼントとして、奇形の身体を持つ子らを。

 物語は、その中の1人の娘が語っていく。

 彼女は、妊娠中に毒物を服用した母の努力の甲斐もむなしく、アルビノでせむしだけの平凡な奇形。

 そのことを恥じ、スターである、手足がヒレのようについている兄を慕い、ひとつの身体を共有する美しい双子を羨む。

 一方、五体満足な普通の人を蔑む。


 立ち位置が、普通の世界と逆で、なかなか馴染めない。

 この物語の世界を受け入れるということは、作中登場する、自分の手足を切り落とす信者たちをも受容することになるわけで、そこまで心は広くなれない。

 ただ、グロテスクに徹しないで、理解できないにしても愛が流れているからこそ、最後まで読み続けられる。


 怖いもの見たさのフリークショーの、禍々しさを想起させる中に、美しさをこめた装丁が印象的。

 装丁は木庭貴信氏+岩元萌氏。(2018)
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オンブレ

2018-11-14 18:57:07 | 読書
エルモア・レナード『オンブレ』




 最初に読んだレナードの本は『グリッツ』で、何十年も前のことだ。

 その当時は、まだレナードの文庫本が何冊も書店に並んでいたから、次の1冊を手にするのが楽しみだった。

 いつの間にかレナードの本を見かけなくなり、古書店で探しても、持っている本ばかり。

 人生の楽しみがひとつ消えていくのを感じていた。

 昨年末『ラブラバ』の新訳が出たけれど、すでに旧訳の方を読んでいたので、気持ちの高ぶりはなかった。

 ところが、このたび。

 本当の新刊だ。村上春樹訳、なんと西部小説。

 期待していたものと少し違ったが、先の見えない面白さ。

 どちらかというと、併録された『三時十分発ユマ行き』の方が、ぼくはレナードらしさを感じた。

 「本人も知らなかったが、実はすごい男」という人物と、それを間近で見て驚く悪党との微妙な関係の変化が、わくわくする物語の始まりを予感させるのだが、とっても短い話で、渇望感が増してしまった。

 エルモア・レナードの本が、これからも訳され続けることを、星に願う。(2018)
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京都

2018-11-12 18:54:10 | 読書
黒川創『京都』





 古くてモダンな京都のイメージに重なる表紙。

 おもねることなく、ただ一人の道を邁進する、そんな街の姿が浮かぶ、平野甲賀氏の文字。

 著者の実体験をもとに書かれたかのような、濃密な街の描写。

 つくづく京都は特別なところなのだと思う。


 「にぎやかな東大路のひと筋西側を、鞠小路は南北に走っている」

 「家は、京都御所の北東、賀茂川西畔の出雲路にあった」


 こんな記述があると、地図を広げてみたくなる。

 四編の小説。

 どの主人公も、いままでの人生に対して後悔の念を抱いているようで、それもまた京都に似合っている気がする。(2016)
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