ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

地下鉄道

2018-11-10 11:51:18 | 読書
コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』





 最初に見たのは、雑誌の記事。

 著者のインタビューとともに、本の写真が掲載されていた。

 まだ翻訳本が出る前だったと思う。

 オリジナルの英語の本は、鮮やかで、とても印象的な表紙だった。

 それから間もなく、書店でほぼ同じデザインの翻訳本を見つけた。

 布に印刷したようなムラのある朱色。

 白で縁取りされたトンネルの中に線路が描かれている。

 タイトルから地下鉄だとわかるが、どこにも車両はない。

 迷路のように見える線路の途中に、逃げる黒人女性のイラスト。

 離れた場所にマスケット銃を抱えた男。

 トンネルの先端にスコップ。

 これだけで物語のアウトラインが見える。


 奴隷制という残酷な史実に、大胆な空想を織り交ぜた、ハラハラする娯楽小説。

 人種問題がからんでくると、単純に楽しんでいいのかと踏みとどまる気持ちがよぎるが、深く考えずに小説の世界に浸った方がいいのだろう。

 表紙を眺めていると、ボードゲームに見えてくるし、ストーリーには「ふりだしに戻る」ような展開もあるのだから。


 オリジナルのデザインはOliver Munday。(2018)


帯に刷られた受賞歴がすごい







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善良な町長の物語

2018-11-08 18:31:31 | 読書
アンドリュー・ニコル『善良な町長の物語』





 背表紙の静謐なたたずまい。

 表紙の大胆な絵。それでいて、まっすぐ突き刺さってくる、丁寧で清潔なタイトルの文字。

 無性に読みたくなる作りだけれど、帯に書かれた「ファンタスティックな純愛小説」が、甘くとろける世界を想像させ、そのうち読もうと敬遠していた。


 読んでみると、伝わらない思いのもどかしさ、ちょっと不思議なシチュエーションが、丹念に書かれている。

 思っていたほど甘くはない。

 はらドーナツくらい?


 装丁は土橋範彰氏。(2014)



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いとしの印刷ボーイズ

2018-11-06 19:35:54 | 読書
奈良裕己『いとしの印刷ボーイズ』





 漫画、でも参考になることがたくさんある本。

 フリーになる前、月刊誌を作っていたときは、たびたび出張校正で印刷会社へ行った。

 従業員の休憩室として使っている部屋で、校正紙が出るのを待っていると、たまたまそこに居合わせた人が、気を遣ってお茶を入れ替えてくれた。

 先方の仕事を急かすのに、こちらの作業は待ってもらう。

 仕事だからしかたがないとはいえ、迷惑だったはず。

 それだけに、お客様として丁重にもてなされるのを申し訳なく感じていた。

 でもさらに申し訳なかったのは、その段階になってなお、修正をたくさん入れてしまうこと。

 「ええ、こんなに。勘弁してくださいよ」営業の人の顔が忘れられない。


 そんな昔のことを思い出す、印刷会社を舞台にした漫画。

 たぶん、いまとてもお世話になっているのは、現場のDTPオペレーターの方々。

 直接のやりとりは基本的にはない。

 ぼくが送ったデータをチェックして、問題があれば直して出力してくれている。

 後でそのことに気づくこともあるし、まったく気づいていないミスも、きっとたくさんある。

 ありがとうございます。

 そんな感謝の気持ちが溢れ出す、印刷会社を舞台にした漫画。

 デザインは川名潤氏。(2018)


毎ページに用語説明がある


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モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

2018-11-04 11:25:10 | 読書
内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』





 本の天近くまで覆う大きな帯。

 タイトル、著者名、紹介文、必要な情報がすべて入っている。

 外して気づく。これは帯ではない。少し小さいカバーだ。

 上にわずかに見えていた緑は、フランス装の表紙に印刷された山の写真。

 カバーをすべて取ると、密生する木々の間に、突如街が現れた。



 「旅する本屋」とは、本の行商をしていた人たちのこと。

 イタリア、ヴェネツィアの古書店で、その存在を知った著者は、案内を請い山奥のモンテレッジォへ向かう。

 そこは住む人が少なくなり、時が止まったような村。

 かつては71人が本売りを職業とし、イタリアの各地へ本を運んでいたという。

 本を待つ大勢の人がいた時代。

 著者といっしょになって、少しずつ行商の背景を明らかにしていくドキドキ感がある。

 でもきっと、本が好きな人にしか伝わらない世界なのだろう。

 本好きというのは、いまや希少な人種なのだろうから。

 装丁は中川真吾氏。(2018)


カバーを外すと

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橋の上の天使

2018-11-02 18:58:59 | 読書
ジョン・チーヴァー『橋の上の天使』





 雑誌『モンキー』vol.15に、ジョン・チーヴァーの短編が6本掲載されていた。

 初めて読んだジョン・チーヴァーは、想像していたより面白かった。

 もっと読みたいと手に取った『橋の上の天使』、実は何年も前に古書店で買ったものだ。


 15本の短編があり、そのうち半分くらいが好みの小説。

 何かが起こりそうな、かすかな緊張感があって、本当に何か事件が起こってしまうと、もとの生活に戻れなくなってしまう感覚が、読後しばらく続く。

 そんな中、表題の『橋の上の天使』は、ホッとする。

 一番最後に入っていて、とても短いのだが、それまでの14編で凝ってしまった身体をほぐしてくれるようだ。


 作中の天使は女性で、表紙に描かれている男性とは、イメージが違う。

 1992年刊行の本で、それほど古くはない。

 しかし写植からDTPへと、変化の激しい時代に取り残されたようなデザインの表紙、という印象はある。

 文字の詰め方は、とっても好きだけれども。



 装丁は渡辺和雄氏、装画は宮いつき氏。


 村上春樹氏訳のジョン・チーヴァーの新刊が出るようで、装丁ともに楽しみ。(2018)
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