中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

豆腐乾(doufugan)

2006-09-19 23:58:40 | 中国のこと
 中国の豆腐製品の1つに豆腐乾がある。豆腐を強く圧縮して水分を取った、薄く小さい四角形あるいは長方形のもので、中国各地にあるようだ。私が初めて豆腐乾を口にしたのは、上海の唐怡荷が送ってくれた蘇州の鹵汁(luzhi)豆腐乾と言うものだった。色は黒く見たつきはあまり食欲をそそるものではないが、食べてみると甘くて非常にうまく、すぐに気に入ってしまった。その後、2005年に安徽(Anhui)省の黄山に行った時、黟(Yi)県の関麓 (Guanlu)村で、そこの有名な豆腐乾と言われるものを食べた。ごく小さな店で作られている何の変哲も無いものだったが、出来たてのそれはなかなかうまかった。

 この写真の豆腐乾は私が好きだと言ったものだから西安の李真がいくつかくれたものである。


 左側は四川の成都のもので、ひりひりして辛い麻辣(mala)味。中央は陝西省のもので腊汁(lazhi)豆腐乾とあるから燻製肉の味か。右側は重慶製で香鹵(xianglu)味とあるから醤油味だろうか。

 四川の豆腐乾。それほど麻でも辣でもない。よく噛んでいると味が出てくる。このまま食べてもうまいが、料理の材料に使うものか。



 医師から文学・史学の道に入った北京生まれの趙珩(Zhao Heng)は著書「中国美味漫筆」(青土社)で「豆腐乾について」という1章を設けて、各地の豆腐乾について薀蓄のあるところを披露している。この文の出だしはこうなっている。

 「豆製品」と言う名称はこの2、30年間に流行してきたもので、この漠然としたよび方は、独特の特色のある豆腐乾[豆腐を布で包み、香料を加えて蒸しあげたもの]についていえば、実のところきわめて艶けしである。豆腐乾は中国人が発明したもので、中国人の特許品でもある。遠くアメリカ、ヨーロッパまで渡り、およそ中国人のいるところでは、さまざまな豆腐乾を買うことができるようである。

 彼によると、豆腐乾にはお茶請けなどにしてそのまま食べるものと、野菜や肉とともに調理するものとがあるらしい。私が初めて食べて好きになった蘇州の鹵汁豆腐乾にも触れていて、彼も大好きで間食にしていたそうである。豆腐乾としては高いものだったようだ。

 この趙珩の文の最後は、彼が幼い頃に毎年2、3回、家に訪れてきた老いた尼僧の想い出で、その尼僧は手作りの非常に美味しい豆腐乾をいつも手土産に持ってきたという。その文はある雪の夜に訪れた尼僧の帰っていく姿を描いて終わっているが、なかなか情趣がある。

腐乳(furu)

2006-09-19 00:05:26 | 中国のこと

 腐乳(furu)あるいは豆腐乳 (doufuru)言う豆腐製品が中国にある。初めて食べたのは2003年9月に新疆 (Xinjiang) ウイグル自治区の北端のカナス湖のホテルでの朝食の時だったから比較的新しいことだ。粥を食べようとすると、小皿に一辺が2センチほどの大きさのサイコロ状の紅い小さなものが3個ほどあった。ガイドの趙戈莉に何かと尋ねたら「紅腐乳です」と言った。それまで何回も中国には行っていたのに、初めて目にしたものだった。箸で少しつまみ取って食べてみると、ねっとりしたナチュラルチーズ状で、味もチーズのように酸味と塩気があり、粥と食べると非常にうまかった。

 前にも臭豆腐のところで紹介した発酵学者の小泉武夫氏の「くさいはうまい」(文春文庫)によると、腐乳の作り方は次のようにかなり手の込んだものである。
 
 「その製法は豆乳に苦汁を加えて寄せ固めたものを木綿布に包んで圧搾し、できるだけ水分を除いてから適宜の大きさに切り、蒸籠状の箱に入れて稲藁を敷いた土間に積み重ねておきます。一週間もすると豆腐の表面にカビが密生してきますから、これを20%ほどの塩水に漬けて凝固を強化し、その後、表面のカビを落とします。次に甕に入れ、それに白酒(パイチュウ 日本で言う焼酎のこと)を少し振りかけてから、竹の皮と縄で甕の蓋を封じ、土にその甕を埋めて1~2ヶ月間おき、発酵と熟成をおこなうのです。」

 こうすると、甕の中で主として乳酸菌や酪酸菌の発酵が起こって豆腐に酸味と特有のにおいをつけると言う。

 酒でも味噌、納豆、鰹節でもすべてそうだが、そもそもこのような発酵食品の製法はどのようにして獲得されたものなのか、最初は偶然で、後は試行錯誤してたどり着いたとはよく聞くが、この腐乳の製法を見ると、その複雑さには呆れてしまうほどだ。いったいいつごろに現在の姿に完成されたのか、古代から試行錯誤を繰り返してきたのか、いずれにしても1つの食品に長い年月をかけた人間の執念と根気には恐れ入ってしまう。

 初めて食べて以来この腐乳が気に入って、中国に行くとスーパーで買うものだか ら、友人達が何度もおみやげにくれたが、それほどたくさん食べるものでもないのでだいぶ溜まってしまった。いくつかを比べてみると腐乳にも色、味さまざまなものがある。ちなみに、初めて食べた紅い腐乳は「紅腐乳(hongfuru)」と言って、発酵の時に紅麹を使うのだそうだ。


 各種の腐乳。「茶油」は油茶と言う木の種子から採った油。「玫瑰」は薔薇。「香油」は胡麻油。




 白菜豆腐乳。西安の李真がくれた。白菜の葉で包んである。四川省成都市で作られたもの。白菜の汁、大豆、蚕豆などの混合物に漬け込んだもののようで、豆類は味噌のようになっている。山椒と唐辛子が加えてあるのが四川風だが、それほど麻(ma山椒のぴりぴりする刺激)でも辣(la唐辛子のひりひりする刺激)でもない。見た目はあまりよくなく塩気はやや強いが、非常にうまい。




 この腐乳は、ずっと前に沖縄に行った卒業生からみやげに貰ったものとよく似ていることに気づいた。調べてみるとそれは豆腐餻(とうふよう)と言い、中国に朝貢していた琉球王国時代の14世紀に中国から伝えられた腐乳が基になって作られたものだそうで、似ているはずである。